137話 皇国軍VS反乱軍分隊
15話目です。
本日1話目です。
竜王国軍に伝令が届いていた頃、皇国軍にも伝令が来ていた。
その伝令には、一つの追加指示があった。
『分隊をこちらに近づけさせない事。それを追加指示とする』
伝令はこれに加えて、作戦の前倒し。
竜王国軍と変わらぬ伝令であった。
この報告に、首を傾げる司令官。
そもそもだ、分隊を倒しに行くのだから、近づけさせないも何もないのでは?と思ったのだ。
進軍しながらも悩む司令官たち。
そこにアルバとリュミナが報告にやってくる。
「失礼、少し良いかな?」
「アルバ殿? どうかされたか?」
「ここから2日程の所に敵を発見した。ただ、リュミナの故郷まで半日と言ったところだ。それと、空輸した物資だが、荷下ろしも考慮し、ここから1日の所へ降ろさせた。進軍速度を速めた方が良い。奴らも気付いている様だ」
「お仲間は大丈夫ですかな?」
「今でもゆっくり目なのでな。上げる分には問題無い。ただ……」
「ただ?」
「酔わぬかと心配でな。どうする?」
アルバの言葉に悩む司令官。
兵達がどの程度酔うのか未知数。
かと言って、敵や物資の事を考えると……。
そこで司令官は、先程の報告を思い出した。
なので二人に聞いてみることにする。
「失礼ですが、二人にお聞きしたい。先程、この様な報告と指示があったのですが、お二人は意図を理解できますか?」
「どれですか? ……なるほど。憶測ですが、ある程度は」
「ほう。リュミナは頭が良かったのだな。主についてからと言うもの、ポンコツになったかと思っておったわ」
「ああん!? やるんですか? この老いぼれ!」
「吠えるな、小娘。いや、すまぬ。大年増の間違いじゃった」
「コロス!」
リュミナの目が竜眼に変わる。
その殺気に司令官たちは息を呑む。
それを見たアルバは意味深な顔をして話す。
「若いな。お主が殺気を出すのは勝手じゃが、儂の評価まで落ちるのはいかんな。リュミナ、殺気を収めろ」
そう言って、アルバはリュミナを威圧する。
司令官たちは冷や汗を流し、更に息を呑む。
今の彼らの心は一つだ。
((((やるなら、よそでやれ!!))))
でも言えない。
だって怖いんだもの!
数十秒睨み合いの後、お互いに矛を納める。
その状況に胸を撫で下ろし、次が始まらない内に答えを聞こうと司令官が動き出す。
ある意味、彼は勇者であった。
どこぞの自己中ポンコツ勇者とは違うのだ!
「そ、それでお二人とも。ご説明をお願いしても?」
司令官の言葉に頷く二人。
未だに一触即発の中、彼はやり遂げた。
将兵たちの中で、司令官への評価が鰻登りだ!
「まず、主は一つの懸念を持っています。その上で、この様な指示になったのではないかと」
リュミナが答える。
アルバは黙ったままだ。
何とも怖いが、話を聞く事にする。
「主の懸念は、転移陣による伝令。それによる進軍転換だと思います。合流されるのを嫌っての指示だと思います」
「なるほど。ですが、相手も軍事行動中ですよ? いきなり命令が変われば混乱は必須です」
「それを加味した上で出していると仮定します。その上で、この様な指示が出たと考えて下さい」
リュミナの言葉に、司令官は思考する。
何となく、リュミナの言いたいことがわかり、頷こうとしたところで、アルバ殿が割って入る。
勘弁してください!
「リュミナよ。概ね間違いではないが、あまり仮定を含むのはどうかと思うぞ? それに、仮定無しでも答えは出ているのだろう?」
「アルバ。あなたは本当に、小さい事を気にしますね。人は納得しなければ、前に進めなくなる時もあるのですよ?」
「それも見越して言っているのだがな。儂が答えを言うべきか?」
またもリュミナVSアルバが始まる。
この場にいる者達は、密かに溜息を吐いた。
そんな中、司令官が考えを口に出す。
この考えが起死回生の一手となった。
この後、彼らは司令官を裏でこう呼ぶ。
【英勇】と。
本人は知らないのが、唯一の救いだった。
「本隊は、確実に動くと読んでいる、と言う事ですか?」
「ほう? お主、優秀じゃな」
「ええ。主様の元に勧誘したいわ」
「お褒めに預かり光栄です。ですが、何故そう読んでいるのかは、皆目見当がつきません」
「儂らも同じだぞ」
「主様の考えは、何となく理解は出来ますが、その過程までは私達もわかりませんよ」
「そうなのですか!?」
思わず驚く司令官。
あ、しまった!と思うが、二人は微笑んでいた。
司令官はこの時、死んだ……と覚悟した。
だがそれは早とちりで、杞憂に終わる。
「儂らと同じ領域で答えを出せるか。確かに欲しいの」
「でしょ。珍しく意見が合うわね」
「そういや、儂らって褒美は出るのか?」
「出るんじゃない?」
「ならば……」
「良いわね……」
内緒話を始めるリュミナとアルバ。
この二人、案外似た者同士なのでは?
そう思わずにはいられない司令官であった。
きっとグラフィエル殿が居れば、こう仰っただろうと考えてみる。
『二人とも、似た者同士だな。ああ、だから良く喧嘩するのか。同族嫌悪ってやつだな。この場合だと同考嫌悪か?』
司令官は気付かない。
その考えに至っている事こそが、グラフィエルに毒されてきている証拠なのだと言う事を。
三者三様の異様な雰囲気を将校たちは終わるまで見ていた。
反乱軍分隊。
彼等もまた、報告を受けていた。
そして、隊長は判断を迫られていた。
「どうする? 応えるか? 否か? ……いや、白竜達はもう目の前だ。最悪、裏切ってしまうか? 反乱軍が勝つ目は少ないだろう。いやしかし、もし逆転したらどうなる?」
そこまで考えて身震いする隊長。
まず粛清されるのは間違いない。
どうにか出来ないか?
思考を巡らせる中、一つの報告書に目が留まる。
「これは……クソが! いや、待てよ? これが事実なら、多少の誤差は出るが問題は解決できるのでは?」
隊長は思案し、イケる!と答えを出す。
この答えが、彼の命運を分けた。
もうすぐ直轄部隊が動く時間。
その時間に、何故か皇国軍は物資補給場所に居た。
時間が合わないと思う人はいるだろう。
だがそこは、皇国兵の多大なる犠牲により成し遂げられた。
そう、乗り物酔いと言う多大なる犠牲の上に!
現在の皇国軍は約半数の兵が使い物にならなくなっていた。
乗り物酔いで……。
動ける兵が物資の仕分けと積み込みをする。
そんな中、斥候から報告が入った。
「報告! 反乱軍分隊と思わしき軍が、こちらに向かってきております! 接敵まで約1時間!」
「何だと!? どうして気付かなかった!」
司令官は慌てる。
無理もない。
接敵まで僅か1時間で、兵の半分は使い物にならない。
陣地構築も陣形展開もされていない。
完全な不意打ちも同然であった。
しかし、次の報告で余裕が生まれた。
「報告! こちらに向かってくる者達は、反乱軍分隊と断定! しかし、向こうも想定外の様で浮足立っています!」
「どういうことだ?」
「本来の位置と今の位置にはズレが生じています。向こうの予測はこの辺りかと。そして、我らの補給物資を奪いに来ていたとすれば」
「想定外も想定外か。対してこちらも想定外ではあるが、低確率での予想はあった。ならば……」
司令官は指示を出す。
その指示を各部隊に回す。
敵戦力はこちらより少ない。
しかしそれは、万全であった場合。
今、戦える兵の数だと反乱軍の方が上。
だが、士気の違いはある。
動ける兵が次々と陣形を整える。
「集まったな? さて諸君! 我らは遭遇戦に会った。敵の数はこちらより下だ。だが、油断できない理由がある! 嘆かわしい事に、乗り物酔いしている連中が居て、使い物にならん! そんな彼らを死なせたいか? 否! 彼らに無駄死になどさせられない! 乗り物酔いの連中! 同僚を死地に送りたいか? 否! であろう。ならば立て! 士気を上げろ! 我らは最強の皇国軍である! 全員生きて帰るのだ!」
「「「「おおおおおおおおおお!!!」」」」
「第一隊! 魔法戦用意! 騎馬隊、突っ込むぞ!」
「おら、歩兵共! 何ちんたらやってやがる! 盾を構えろ! 槍を持て! 騎馬の後を付いていけ! 蹂躙しろ!」
「弓兵! 弓、引け! 狙え! ……放て!」
「魔法隊! 矢に付与させろ! 爆発系だ!」
皇国軍の将達から、矢次早に指示が飛ぶ。
乗り物酔いしていた兵達も、どうにか食らいついて動く。
反乱軍も陣を整えて応戦するが、所詮反乱軍…それも分隊。
地力が違い過ぎた。
陣の展開と構築速度。
指示を受けて動く速度。
連携の練度。
個の力。
そのどれもが劣っていた。
開戦と同時に5分の1が溶ける反乱軍。
この時点で劣勢が確定。
更には、突っ込んでくる騎馬に陣形を破壊される。
後方の部隊は何とか陣形を維持したが、前線はズタボロである。
部隊毎の指揮官も死亡者複数名。
前線の瓦解は止められなかった。
「クソ! こんなことがあってたまるか! 斥候は何をやっていた!?」
「申し上げます! 敵兵の一部は体調が悪い模様! この場まで強行したと思われます」
「だから遭遇戦だと!? クソが! これでは持たんではないか!」
反乱軍の隊長は荒れる。
報告した兵は思った。
荒れてる暇があれば、指示を出せば良いのに……と。
指示の遅れは、そのまま劣勢に繋がる。
この隊長は、それを理解してないのだろうか?
兵士の考えは、半分当たりである。
帝国の貴族将兵は、己を律するのが苦手な傾向にある。
それも過激派である貴族派閥は尚更だ。
故に指示が遅れる。
頭ではわかっているが、心が許さない。
その遅れは更なる悪化を呼び込んだ。
「報告! ピャット男爵様、討ち死に! 指揮は従士長殿が受け継ぎます!」
「第二陣、瓦解が始まりました! 立て直しには時間が!」
「後方部隊の一部が敵前逃亡! 陣に穴が!」
「敵勢い止まりません! 食い破られます!」
「隊長! ご決断を!」
「第一、第二をかき集めろ! 肉壁にさせるんだ。後方の魔法部隊はそこに爆発魔法を放て!」
「なっ! それではこちらの損害が!」
「今は立て直しと生き残る事が優先だ!」
隊長の指示が出た。
しかし兵達は動こうとしない。
その態度に業を煮やした隊長が動く。
そして……。
「切り捨て御免!」
「ぐあっ! 何をするか!?」
「あなたは人の上に立つべき人間ではない! あなたの首を以て、全軍降伏する!」
「貴様ら!?」
他の兵達も剣を抜く。
更には、味方だと思っていた副隊長や参謀までもが敵に回る。
「お前達!?」
「隊長、あなたはやりすぎました」
「我らは許されんでしょう。しかし、兵達にはまだ希望がある」
「正気か!? 貴様ら!」
「反乱軍に加担した、あなたに言われたくはない!」
「クソがぁぁぁ!」
この言葉を最後に、分隊隊長はこの世に別れを告げた。
反乱軍の反乱。
笑い話にもならない。
「白旗を! 我らは敵に降る!」
こうして、皇国軍と反乱軍分隊の戦闘は呆気なく終わった。
反乱軍側の被害は甚大だが、それでも半数は生き残った。
対する皇国軍の被害は軽微。
死者は無いが、重傷者は居た。
その重傷者も、リュミナの回復魔法で一命を取り留める。
ただ、皇国軍はこれから頭を痛めることになった。
「敵の約半数が降伏か……。物資、足りるのか?」
「本国へ追加を頼みましょう。アルバ殿、申し訳ないのですが……」
「みなまで言わんでも、わかっておる。空戦型に運ばせよう。儂とて、これは想定外じゃった」
「まさか、反乱軍内部での反乱なんて。笑い話にもなりませんわね」
「仰る通りで。あ、私、元反乱軍分隊で斥候隊長をしていました。何かあれば、言って下さい」
「いや、捕虜を使う訳にも……」
「私達は元々、反乱軍に加担するのは反対だったんですよ。上がお貴族様で、従うしかなかったんですけどね……。どうか、兵達には寛大な処置をお願いします。幹部は甘んじて処断されましょう」
「潔すぎやしないか?」
「出来るなら、生き延びたいですよ……。でも、無理でしょう? ならば、兵として連れて来た領民は、返してやりたいじゃないですか」
「待て。領民だと?」
「ええ。亡くなった兵の中にも、領民から志願兵と称して徴兵した者がおります。うちの元貴族様は男爵ですが、領地だけは辺境伯家程に広く、領民も多かったので」
「お主等の隊長じゃったか? 何をしたかったんじゃ?」
「あはは~、そうですよねぇ。そう言われますよねぇ。竜族の方から見ても可笑しいですよねぇ。ホントにもぅ……」
そう言って目が死んで行く元斥候隊長。
この場の誰もが思った。
(不幸体質過ぎるだろ!)
(不憫すぎますわ)
(ちょっとくらい、ご褒美があっても良い気がのぅ)
そして一致した考え。
「「「クロノアス卿(ご主人様)(主)に進言しよう……」」」
指揮官とリュミナとアルバの心は、またもや一つだった。
GW中は2話更新で行きます。
GW最終日に、帝国内乱編は終了となります。




