136話 竜王国軍VS獣人軍
14話目です。
本日2話目です。
ランシェスと神聖国軍が反乱軍の後方を突く為に出立した頃、防衛陣地を構築して待機していた竜王国軍にも、作戦変更の報告を受けて慌ただしくなっていた。
「後30分で出陣だ。各員、準備を急がせろ!」
「将軍、彼らはどうするのですか?」
「無論、協力してもらう。但し、無理はさせるな」
「はっ!」
将軍が兵に指令を出し、準備を急がせる。
今、この陣地には亜人の一団がいた。
亜人暗部が救出した人質だった者とその家族。
そして、老亜人が送り出してきた亜人達だ。
老亜人はどうにかして更なる有志を集めたのだ。
その数は僅か50人であったが、暗部と虎も参戦し、どうにか100人参加という体制を整えることに成功した。
今は天幕の中で、オーディール王と老亜人が話し合っている。
「では、亜人達も参戦すると?」
「はい。ただ、人数はどうにか100人に届くだけですが」
「参加する者達は、納得しているのかね?」
オーディール王の懸念は尤もである。
無理に参加させているのならば、士気は低い。
そして戦場とは、そう言った者から死んで行き易い事をオーディール王は知っていた。
そのオーディール王の問いに、老亜人は答える。
「納得はしております。今回の戦が亜人の行く末を決めることも」
「それならば、良いのだが」
「虎はオーディール王に感謝しております。暗部が救出したとはいえ、受け入れるところが無ければ、死ぬだけですから」
「他の者達は違うと?」
「有志で集まった者達も士気は高いです。暗部は仲間を失い、少し低いですが、弔い合戦ともなれば上がるでしょう」
「ふむ……。後方に配置した方が良いか?」
「いえ。出来れば遊撃の方に。彼らの本質はそこにありますので」
天幕の中での話し合いは進む。
そこに冒険者の一団がやって来た。
皇女殿下を護衛し、送り届けた人物達。
現在、ヤナが所属するパーティーだ。
「伝令よ。『竜王国軍は獣人軍を抑えられたし。捕縛などの判断は任せる』との事よ」
「そうか。獣人軍は1日の距離だったな?」
「はっ! 向こうもこちらに進軍しておりますので、速度から考えれば半日後には接敵かと!」
「竜様方に半日分の距離を頼むのだ。のんびりはしてられんぞ」
オーディール王は再度命令を下す。
老亜人も護衛として連れて来た亜人に指示を出す。
そんな二人を見たヤナが質問をする。
「お二方ぁ、何をそんなに急いでらっしゃるのでぇ?」
「決まっている。我らだけ戦闘無しを防ぐためだ」
「虎にとっては雪辱戦ですしね。絶てる部分は絶たないと」
「でもぉ、ラフィちゃんは無理に戦う必要性は無いって言ってたわよぉ?」
ヤナの言葉に不思議そうな顔をし、溜息を吐くオーディール王。
老亜人も何処か疲れた顔をしていた。
そんな二人が、ヤナの言葉に返答する。
「クロノアス卿は、やはり甘いな。今ここでぶつからなければ、獣人たちは潜伏してしまう。全滅させるなり、捕縛するなりして、相手の戦力を減らすのは当たり前だろう」
「あいつらは自己中心的ですからな。内乱が失敗して、自分たちが不利益を被れば、その恨みはあの方に行くでしょう。禍根を残さないためにも、衝突は必須です」
「それにな、獣人たちの相手は竜王国がするのだ。奴らの恨みはこちらにも向く。それに、この戦争は同盟国全てが参加している。奴らは世界の半分を逆恨みし、敵対していくのだぞ。各地で暴動を起こされるより、先に争いの目は摘んでしまうに限る」
「そう言う事ぉ。でも本音は、ラフィちゃんを守る事よねぇ?」
ヤナの最後の言葉に答えず、少しだけ笑って応える。
老亜人は肯定も否定もせず、ただ目を瞑る。
ヤナにとっては、その反応だけで察することが出来た。
「まぁ良いわぁ。こちらも雇われたのだしぃ、仕事はきちんとするわよぉ」
「では引き続き、連絡役を頼む」
オーディール王の言葉の後、ヤナ達は天幕を後にする。
ヤナ達は今回、グラフィエルからの依頼を受けていた。
その依頼が、転移陣を利用した連絡係。
ヤナのパーティーが、何故この依頼を受けたのか?
そしてグラフィエルは、何故ヤナ達に依頼したのか?
話は、ヤナと夜に会話した日に戻る。
ヤナとグラフィエルとウォルドは、屋敷に宿泊していった夜に思い出話に花を咲かせながら、パーティーたちの編成も聞いていた。
その中で一人、とても優秀な人物を見つけた。
その女性は転移陣と索敵に特化した女性冒険者だった。
旅が好きで、事あるごとに転移陣を構築してたらしい。
数は本人も把握してないと言うから、相当な数だと予想できる。
『ならば伝令役をしないか』と声を掛けられたのだ。
その時ヤナは『話し合ってからねぇ』と、答えを保留にした。
翌日、早朝にメンバーを集めて話をしたところ、全員が了承した。
そして今に至るわけだ。
(正直、私は受けないと思っていたのよねぇ。あの子達、何で受けたのかしら?)
ヤナは一応の答えは聞いていた。
そこに可笑しな点はない。
その理由は、報酬が破格だったから。
可笑しな理由では無い。
だがヤナは、何か引っ掛かっていた。
だが、怪しい動きは無い。
なので、忠実に職務へと戻る。
ヤナがこの仕事を引き受けた真の理由を聞くのは、もう少し先になるのだが、ヤナは墓場まで持っていくことにした。
竜王国軍は準備を終え、出立する。
竜達の背中には、20人ずつの兵が乗っている。
そして、竜の手は箱を持っていた。
その箱の中には、兵士が200人立っている。
そんな箱が約300。
物資と兵を竜達が運搬していたのだ。
竜王国はこの方法を用い、時間を短縮させる。
結果、グラフィエル達が行動する30分前に、獣人軍を捕らえることに成功した。
衝突するまでおよそ1時間といった距離に降り立つ竜達。
兵は降り立つと共に、本陣を再設営し、陣形の構築に入る。
その時間、僅か30分。
ギリギリではあったが、どうにか終わらせる。
他の者が聞けば、もう少し余裕を持った距離でも行けたのでは?と疑問を持つだろう。
だがこんな形になってしまったのには、ちゃんとした理由があった。
まず、本陣の設営と陣の構築に適した場所がこの場所にしかなかった事。
次に、戦端が開かれた場合、相手の不利を誘える陣地。
最後に、見晴らしの問題。
その全てで有利な場所が、接敵間近の場所しかなかったわけだ。
下調べなど不十分で、電光石火の動きの中、良くやったと褒めるべきである。
偏に、竜王国軍が防衛に適した軍なのが幸いしたのだ。
獣人軍もその陣地構築に警戒度を上げていた。
そんな中、竜王国軍に伝令が入る。
「報告! 直轄部隊が交戦に入りました!」
「そうか。ではこちらも動くとしよう」
「はっ! 全軍、魚鱗の陣! 中央を喰い破れ!」
「「「「「おおおおおおお!!」」」」
「食い破ったら反転し、細切れにしろ! その後は各個撃破だ!」
将軍の指示に呼応する兵士。
今ここに、戦端が開かれた。
「進め進め進めーー!」
将軍が檄を飛ばす。
右翼と左翼には、竜達が空から牽制する。
対する獣人軍は横陣とシンプルな陣。
人族と獣人族には身体能力に差があるとはいえ、お粗末な作戦であった。
竜王国軍が魚鱗第一陣の騎馬を突撃させる。
突破力のある騎馬で中央の陣を引き裂き、左右に分かれさせる。
撃ち漏らしはあるが、見事に中央が左右に分断されると同時に、魚鱗第二陣の重装部隊と歩兵部隊が動く。
「第二陣! 魚鱗から鶴翼! 分断された奴らを包囲殲滅しろ!」
第二陣が迅速に動き、鶴翼の陣に変わる。
先頭の獣人部隊は崩そうと必死になる。
だが、そうは問屋が卸さなかった。
「転進! 魚鱗から鶴翼! 獣人軍後方を突く! 遅れるなよ!」
中央を引き裂いた騎馬隊が、後方から包囲に掛かる。
気付いた獣人が妨害に入るが、その人数が少なすぎた。
結果、数の暴力に屈する獣人。
獣人軍は中央を裂かれ、右翼と左翼に分かれ、それを包囲される形となる。
とは言え、全てが包囲されたわけでは無い。
約2500程の獣人は中央に再集結していた。
この2500人を以て、包囲した竜王国軍を崩す予定だった獣人軍だが、竜王国軍の方が1枚上手だった。
再集結した獣人たちに、竜と亜人が足止めをしたのだ。
それもまた、包囲する形で。
中央、右翼、左翼、この全てで包囲陣が完成する。
しかし、中央の包囲陣は薄く穴だらけ。
獣人たちは直ぐに破れると思っていた。
だが、実際はそう簡単にはいかなかった。
「クソ! クソ! クソ! なんで破れない!」
「たかが100だぞ!? こいつら可笑しいだろ!」
獣人軍の疑問は尤もである。
その秘密は、竜王国軍第三陣にあった。
普通の戦闘ならば、矢と魔法を撃ち込み、数を減らす。
しかし、竜王国軍はその当たり前を破棄した。
代わりに取った戦法は、まさかの回復支援特化。
身体能力で負けている以上、その打開は必須であった。
ならばどうするのか?
それが今の答えである。
獣人軍は個の力が強い反面、連携の練度は低い。
対する竜王国軍は真逆。
ならば、下手に攻撃魔法で魔力を消費するより、個の力を上げて連携させると言う、大胆な作戦を取ったのだ。
更に竜王国軍第三陣は、戦闘型亜人にも同じ事をしている。
元々、戦闘特化亜人には【獣化】がある。
その振り幅は、獣人を軽く凌駕する。
故に数が少ない。
過去の亜人国で、獣人が軍で幅を利かせていたのは、こう言った理由もあったからだった。
その【獣化】した状態に、支援魔法で更なる上乗せ。
獣人の高い戦闘力も、その前には無力だった。
そしてもう一つ。
実はブラストとバフラムは、直接的な戦闘をしていない。
それも今の状況に置ける理由の一つだった。
ブラストとバフラムは空を飛び、咆哮しているだけ。
実はこの咆哮が敵味方に影響を及ぼしていた。
天竜になってから、ある程度経って手に入れたスキル。
【天地の咆哮】
効果は【敵には威圧・畏怖・能力低下・士気低下を与え、味方には真逆の効果を与える】と言うスキル。
この効果により、味方の能力は支援魔法と合わせ、最大限強化されていた。
その結果は必然となる。
「クソ……。俺達は、獣人なのに……」
その言葉の後、一人の獣人は覚めぬ闇へと落ちる。
戦闘型亜人は、包囲を維持しながら、確実に獣人を屠る。
一騎当千までとはいかないが、一騎当百位にはなっていた。
それが百人。
百騎当万と呼ぶべき姿であった。
一方、右翼と左翼を包囲している竜王国軍だが、確実に獣人たちを倒し、出来るなら捕縛していく。
竜王国軍の兵士は、支援魔法があっても個の力では勝てない。
そこを連携で支え合う。
その姿に、獣人たちは苛立ち始めた。
「クソが! てめぇら卑怯だぞ!」
一人の獣人が叫ぶ。
それに対して、律義に答える竜王国兵。
「何が卑怯か! 連携もまた、立派な戦略だ!」
その言葉の後、獣人は竜王国兵に槍で突かれる。
致命傷ではないが、戦闘続行は不可能な傷を負う獣人。
蹲った獣人を捕縛するべく、竜王国兵が近づく。
それを好機と見てか、別の獣人が、事もあろうに味方である負傷獣人ごと、竜王国兵を殺そうとした。
しかしそれは、他の竜王国兵が抑えに入り、返り討ちに会う。
それを見た負傷獣人は言葉を漏らす。
竜王国兵はそれに答えた。
「俺ごと殺るつもりだったのかよ……。それが返り討ち。ざまぁねぇな」
「獣人は個の力に執着し過ぎなのだ。だから陣形を組むにしても、簡単な陣しか組まず、個の力で圧倒しようとする。しかし、それが通じなくなったのが今だ」
「けっ。ご高説どうも。だが、それの何が悪い? 所詮、弱肉強食だろう?」
「そうだな。だが、己が変われば、手を取り合えたかもしれぬ間柄だ。そうなれば、共に並んで戦っていたかもしれんぞ?」
「よしてくれ。亜人みたいに慣れ合うつもりはねぇ。……さっさと殺せよ」
「戦えないのなら、捕虜になれ。少なくとも、命の保証はしてやれる」
「あまい、甘すぎるんだよ!」
獣人が爪を伸ばし、会話していた竜王国兵に突き立てようとする。
回避は間に合わない。
重傷を覚悟して、竜王国兵は迎え撃つ。
迎え撃とうとして、唖然とする。
獣人は、突き立てようとした爪を自らの胸元へと立てた。
「お前っ! なんで!?」
「ぐふ…はっ! 手元が狂った。ごふっ! …なぁ、俺、達は、分かり合え、た……のか?」
「お互いがお互いを尊重し、認め合えたのならばな」
「そう……か。ごほっ! ゲホゲホ……はぁ…もし、来世…なん、てもんが…あるな、ら……お、れ…も……」
そう言って、獣人はこと切れる。
最後は何を言ってるのか聞き取れなかった。
だが、何となく言いたい事はわかった竜王国兵。
その言葉に対する返答は……。
「もし、来世があるのなら、今度は友として会いに来い」
その言葉の後、彼は再び戦場に戻る。
分かり合えたかもしれない者を思いながら。
そして戦況は完全に決したのだった。
戦闘開始から半日。
獣人軍は壊滅。
逃走した獣人は300余名。
戦死者4万3千。
捕虜6700名弱。
対する竜王国・亜人・竜連合軍は……。
竜王国兵戦死者3千人。
亜人戦死者47名。
戦死竜2体。
戦いは竜王国軍の圧勝で終わった。
だが、一部の兵士には虚しさだけが残った。
その兵士とは、偶々獣人と会話ができた者達。
だが、彼らは兵を止めなかった。
守りたい者達、守るべき者達の為に。
竜王国軍の真の英雄は、彼らなのかもしれない。
…
……
………
一方、神界。
この戦争を二柱の神が見ていた。
龍神と獣神。
終結まで見届けた二人。
暫くの間、沈黙したまま。
だが、龍神が言葉を投げかける。
「お主は、敵に回るのか?」
龍神の一言。
それは、疑惑の神の元に付くのかと聞いていた。
対する獣神の答えは……。
「わからん。思う所が無いわけでは無い。だが……」
そう言って答えを保留する。
この二柱は考え方が共通していた。
故に友でもあった。
だが今は……。
グラフィエルは基本、竜を優遇している。
勿論殺してもいるが、弱肉強食に添っての事。
滅亡させたわけでもない。
対する獣人と亜人はどうか?
獣人はほぼ壊滅。
対する亜人は庇護下。
両極端であった。
獣神は獣人と亜人の神でもある。
一方は絶滅寸前で、もう一方は栄華が固い。
彼女の心中は複雑だった。
ただ、弱肉強食と言えばそれまで。
しかし、心の中に出来た靄は取れない。
(グラフィエル……。お前は一体、何がしたいのだ?)
今の考えが獣神の本音だろう。
だから獣神は動く。
グラフィエルの考えを知るために。
最悪は、友と決別したとしても……。
次は5月1日土曜0時になります。
GW中は毎日投稿します。
最終日に帝国内乱編は終了予定となっています。
……計算間違いしていなければですが(笑)




