幕間 リーゼと皇女殿下とツクヨ=カシマと
8話目です
私は今、ランシェス城のとある一室へと向かっている。
私の名前はツクヨ。
ゼロの妻であり、原初の使徒でもある。
そんな私が、何故その部屋に向かっているのかと言うと……。
「ご足労いただき、ありがとうございます」
「わざわざ申し訳ありません」
「敬語は良いわ。時間も無い事だし、早速始めましょう」
この部屋で待っていたリーゼちゃんとシャルミナちゃんに色々と教える為。
特に、リーゼちゃんは時間が無い。
数日後には、帝国に向けて進軍が開始される。
それまでに、どの程度まで身に付けられるか。
「ゼロを締め上げて、借りて来たわ。本当は駄目なんでしょうけど、時間も無い上に、完全に初心者だし。背に腹は代えられないわ。あの子の許可も取って来たから」
あの子とはグラフィエルの事だ。
彼は今、直轄部隊の編成に追われている。
ゼロと私も、あの子の部隊へ編入されている。
そうなると、完全に時間との勝負となる。
さて、どこまでやれるのか。
「ゼロ様を締め上げて…ですか。ツクヨ様はお強いのですね」
「単純な力比べなら勝てないわ。それよりも…始めるわよ」
私はゼロから借りて来た魔道具を起動させる。
起動させると、仮想戦場が浮かび上がる。
戦力は直轄部隊と相手側の最高戦力。
そして、一騎当千を省いた戦力。
あの子が言うには『戦略シュミレーションゲーム』とか言ってたわね。
これが今回、リーゼに与えられた修練。
軍の指揮と戦場の把握だ。
彼女…リーゼは、聞くだけならば知識は確かに凄かった。
しかし、実戦経験が無い。
彼女の知識を参考に話をし、逆手を話して見せた。
その際の切り返しは確かに素晴らしかった。
しかし、それをいざ実戦で出来るかと言えば、確実に不可能な一手でもあった。
正確に言えば不可能ではない。
但し、現場指揮官の力量が飛びぬけて高く、兵士の練度も最高峰と言う条件が必要だと、私は考えた。
それが実戦経験の無い事に繋がる。
故に私は、この魔道具である程度の実戦もどきをさせる事にしたのだ。
及第点は、私相手に軍を維持させること。
私も、軍の指揮はそこまで得意ではない。
その私に劣るようならば、彼女に指揮は無理だ。
私が指揮した方が遥かにマシだろう。
と言う訳で早速始める。
私が敵側でリーゼちゃんが直轄部隊。
初めは五分五分の戦力で開始する。
五分と五分で圧勝したなら、次はシャルミナちゃんと交代。
シャルミナちゃんには倍の戦力を与えて、リーゼちゃんと対戦させる。
「以上だけど、何か質問は?」
「これは、あくまでも一般兵扱いなのですよね?」
「ええ。あくまでも戦略で勝ってもらわないと」
「もう一つ。兵種はどうなっているのですか?」
「一応、歩兵、騎兵、弓兵、魔法兵よ」
「4種ですか。兵力は歩兵二千五百、騎兵千五百、弓兵と魔法兵が五百の計五千で、間違いないですか?」
「初めはね。後でいくつかのパターン分けはするわ」
「わかりました」
「あの、私は何をすれば?」
「シャルミナちゃんは、とりあえず見学なさい。私達のやり取りを見て、感覚だけでも掴みなさい」
「はい」
そして始めるのだけど…この子、強い。
正しく天才だわ。
ただ、これもあくまで仮想。
不慮の事態に対処できるかが争点。
だから私は、嘘を吐いた。
左翼と右翼に伏兵を潜ませたのだ。
数は両翼合わせて二千。
さて、彼女のお手並みを拝見しましょうか。
「え? 伏兵!?」
「戦場とはそんなものよ」
「騙しましたね?」
「私は、見えてる数の偽りは言ってないわ。こちらの余剰戦力を伏兵として出しただけ」
「そうですか。わかりました。申し訳ありませんが、本気で行かせて頂きます」
「今まで本気じゃないと? 生死を分ける戦場に、覚悟もなく指揮するつもりなの?」
「いえ。五分と五分でしたら本気を出さずとも、最小限の被害で切り抜けられると考えましたので」
「そう。じゃ、本気を見せてみなさい」
そう会話を続ける間にも、リーゼちゃんの軍勢は瓦解を始めかけてる。
ここからどう立て直すのか?
私は楽しみにしていた。
楽しみにしていて、負けた…。
うそん?あの状況からひっくり返すとかありえないんですけど?
彼女は自軍の歩兵千五百と騎兵五百を私にわざと包囲させた。
当然だが、包囲された軍の被害は甚大だ。
だが、包囲するにはこちらも人員が必要。
だけどこの時点で、勝敗は決したも同然だった。
明らかな戦力分断にどう抗うと言うのか?
リーゼちゃんはその答えを出した。
「包囲された軍は、防御に専念するように指示。弓兵はいつでも放てるように待機して……さぁ、踊れ!」
「何を……え? うそ!?」
包囲したこちらの軍に、味方を巻き込みかねない大魔法!?
馬鹿じゃないの!?
一歩間違えば、全滅よ!?
だがリーゼちゃんは、計算通りと言わんばかりにやって見せた。
それも自軍への被害0で。
対するこちらは、伏兵の半数を持っていかれた。
大失態だ。
だけど、戦力差ではまだ上。
立て直しは十分に…は?え?うそ!?
弓兵の矢が包囲されていた自軍の頭上を抜けて、こちらの歩兵部隊まで届く。
更には爆発のおまけつき。
え?一体何をしたの?
「どうしましたか? 私の手は、まだほんの序の口ですが」
リーゼちゃん、ちょっとオコみたい。
矢がこちらの歩兵を蹂躙していく。
その間に包囲された自軍は、包囲網が敗れた位置から後方に後退している。
これはまずいわね……。
こちらも一度軍を後退させようとして……。
ドガァァン!
はい?ちょっと、うそでしょ!?
自軍の後方部隊が、爆発に巻き込まれたんですけど?
「え? なんで? 意味が分からない」
「どうしたんですか? 足元は注意しないと」
足元?そう言われて、地形の確認を…げっ!地下空洞がいつの間にか出来上がっとる。
しかもそこには使い捨ての爆破魔道具。
オワタ……。
私の野営陣地まで地雷原と化していた。
いつの間に、どうやって、この短期間にやった?
まさか、システムへの干渉?
ログを調べる。
干渉した形跡はない。
ますます意味が分からない。
ここでリーゼちゃんの解説が始まった。
「簡単な事です。大規模魔法は半分の魔法使いで構成。余波や失敗を考慮して、少し離れた所に全力で撃ちました。結果は、こちらの想定内。そして、大規模魔法を構築させてると見せかけて、約二百人で土魔法を使い、残る五十名は回復魔法と付与魔法担当です。超長距離の矢と爆発は、付与魔法のせいです。当然ですが、軍は混乱します。その隙に、地下空洞を残った歩兵が進み、魔道具を設置。時間との勝負でしたが、指揮官が混乱してくれたのでこちらがさらに有利に。歩兵が引き上げる際に、魔道具を起動させれば…あら不思議。歩くだけで爆発する地面の出来上がりです」
「いやそれ…簡単に言ってるけど、相当な練度が無いと無理よね?」
「この魔道具に、練度は組み込まれていませんから。一定レベルの練度で組まれてますので、可能だと判断しました」
「あの短期間に、魔道具の特性まで理解したの!?」
「うふふ。どうでしょうか? それで、まだ続けられますか?」
これは……私の完敗かな。
だけど、今回動かす軍は、練度は相当低いはず。
個々の実力はそれなりだと考えるけど、果たしてリーゼちゃんの指揮について来れるのかしら?
リーゼちゃんを見る。
ずっと微笑んでいる。
これは聞いた方が早いわね。
「それで、今回の軍は練度は当てにならないけど、どうするつもりなの?」
「どうもしませんよ。今回の軍は飾りです。だからこそラフィ様は、私に総指揮を任せたのですから」
ん?どういうこと?リーゼちゃんは何かを掴んでいる?
いえ、それよりも飾りと言ったわね……って、まさか!?
「リーゼちゃん、単刀直入に聞くわ。あなたは軍をどう動かすつもりなの?」
「完全防御陣形で、向かってくる敵だけ撃ちます。こちらからは打って出ません」
そういうことね。
つまり、前線は一騎当千で蹂躙。
撃ち漏らしを軍で、掃討ないし捕縛。
被害は最小限にすると。
「本当に上手く行くと思うの?」
かなり穴だらけな作戦だと思うわ。
だけど、リーゼちゃんの答えは自信に満ち溢れていた。
「行きますわ。私の傍には、魔法特化の最高戦力も待機しますし」
「それは誰なのか、私に教えてくれないかしら?」
「残念ですが、秘密です。そうですね……ラフィ様が良いと言うならば、お答えしましょう」
「あなた、食えない女ね。あの子の好みとは思えないわ」
「私は、一人では何もできない女です。必ず、誰かの助けが必要になります。だからこそ、私は私の持てる全てを使って、ラフィ様を支えます。他人の評価など、どうでも良いのです。愛する方にさえ分かってもらえるのならば」
「あの子も、妙なのに惚れられたわねぇ」
「私も、男性にここまで執着するとは思いませんでした」
へぇ……自分でそう言うのね。
自己評価は多少低めという所かしら。
でも、その自信過剰な所はどうなのかしら?
少し、突っついてみようかしら。
「自己評価は低めなのね。なのに、自信だけはたっぷり。矛盾してないかしら?」
「そうですわね。私は、自分一人では何もできない。でも、誰かの助けにはなれる。そんな助けになれる人間が、自信が無いなどと、どうして言えるでしょうか?」
「助けるからこその自信ね。矛盾はしてそうだけど」
「矛盾ですか…そうですわね。他人から見たら、そうなのでしょうね」
「違うと言いたげに聞こえるわね」
「『人は人。自分は自分。隣の芝生は青く見えるけど、それは自分の持ってる物に気付いていないだけ。世界とは一人一人の中にあるのだから』……ラフィ様のお言葉です。私は、一人では生きていけない。私にあるのは知識だけ。でも、それが私の世界。私だけが持つ芝生。なら、その芝生を他人に分けるのも私の自由。違いません?」
「否定はしないわ」
「私はこの言葉に感銘を受けました。それと同時に、何処か救われた気持ちにもなれました。ラフィ様なら、私の全てを肯定して下さる。これは依存なのでしょう。でも、その依存すらも私が求めた、私だけにある世界の一つ。だから私は、ラフィ様の為にこの知識と力を使います。ラフィ様の優しさに縋りながら」
「それで満足なのかしら?」
「それも私が決める事です」
「なんですって。どう思うのかしら? ラフィ」
おっと、リーゼちゃんが驚いて振りむいちゃった。
まさか、来ていたのに気づいて無かったのね。
悪いことしちゃったのかしら?
「ラフィ…さま。……私の事を軽蔑なさいますか?」
「うんにゃ。それがリーゼの出した答えなら、俺は受け止めようと思う。自身の苦しみなんて、他人がわかるもんじゃない。でも、それでも! と前に進み、足掻くのなら、それはとても立派な事だと思う。ただ、一つだけ悔しいと思うのは、相談してくれなかった事かな。俺って、そんなに頼りないかな?」
「! ……いえ! 違います! それはきっと……私に勇気が無かったから……」
「そうか。確かに、勇気がいる事だね」
お?ラフィがリーゼちゃんに近づいて……抱きしめたぁぁぁ!
なんか、ごちそうさまです!
「これからはもう少し、俺を頼って、我儘も言ってくれると嬉しいかな? 俺だって、リーゼには助けられているのだから。……これも依存かな?」
「いいえ! ……いいえ! これはきっと、支え合いなんだと思います」
リーぜちゃん、本気で泣いている。
嬉し涙かしら?
魂だけとはいえ、我が息子ながらモテるわね。
ゼロもこれくらいの事を言えたらカッコいいのに。
……あれ?思考が少し、可笑しいわね。
確かにゼロの事は愛しているけど、なんかこう、考え方が若くなった気がするわ。
……この考えはよしましょう。
まるで年老いた老人みたいじゃない。
ひとしきり泣いた後、リーゼちゃんはラフィから離れたけど、少し名残惜しそうね。
気持ちはわからなくもないけど……。
あれ?ラフィは何で、私の事を見ているのかな?
「なぁ、ツクヨさんって精神年齢落ちて行ってないか?」
なんですと!?
そんな馬鹿な!いや、この考え方が既に……。
認めよう。
私の精神年齢は、十代の頃に戻っている。
「そうみたいね。何かおかしいかしら?」
「おかしくはないけど、大丈夫かなぁ…と」
「問題は……多少はあるけど、ラフィよりは年上だから問題無いわね。強いて言うなら、指揮関連の経験値が薄くなったくらいかしら。リーゼちゃんにボロ負けしたのよ」
「マジで? と言う事は、リーゼは今回の狙いを読み切ってる?」
「えーと……直轄軍は、ほぼ使わないと思ってます」
「バレテーラ。リーゼには敵わないなぁ」
「そんな事……」
「じゃ、やっぱり、リーゼが総指揮官で問題無いな。当然、もう一つも分かってるんだろう?」
「もう一つ? ……ああ、シャルミナちゃんの事ね」
「ツクヨさん……思いっきり忘れてただろ?」
「ツクヨで良いわ。私もラフィと呼ぶから。それから、あの宿六に様付けは不要よ。リーゼちゃんも分かった?」
「俺は元々つけてないけどな」
「わかりました。ただ、呼び捨てはどうかと思うので、さん付けにしますわ」
「妥協点ね。で、シャルミナちゃんはどうするの?」
呼ばれたシャルミナちゃんだが、返事が無い。
全員がシャルミナちゃんの方を見ると……彼女、トリップしていらっしゃる!
待つこと数分、次に出した彼女の言葉は。
「尊い……。でも、羨ましい。グラフィエル様、素敵です。ルテリーゼ様、先程と違って可愛いです」
あ、駄目だわ。
自分の世界にのめり込んでるわね。
ラフィもリーゼちゃん……いえ、リーゼもどうしようかと困惑気味だわ。
仕方ない、お姉さんが一肌脱ぎましょう!
と言う訳で、私はシャルミナちゃんの前に立って、風が巻き起こるほどの猫だまし!
バチン!!
いったぁぁ!
力込め過ぎたわ。
でも、そのお陰か知らないけど、シャルミナちゃんが現実に戻って来たわね。
あ、顔を赤らめてる。
若いわねぇ……。
………ババァ臭い……言葉を改めないと………。
「戻って来たかしら?」
「ひゃ、ひゃい!」
「で、ラフィ。彼女の扱いは?」
「ん? 大義名分と旗頭の一人だけど?」
「直轄部隊に組み込むのね?」
「そこが一番安全だろ。リーゼもいるし、シアもいるからな。早々に、何か起こる事は無いと思うよ」
「シアちゃんねぇ……。あ、リーゼちゃんが言ってた人物って」
「ラフィ様、良いのですか?」
「問題は無いかな。寧ろ、知っておいてもらった方が……」
「いざという時に……ですか。それでは、最悪の想定は組んでおいた方が良いのですね?」
「頼めるか? あ、なんならリエルを貸そうか?」
『マスター!? 私を物みたいに言わないでください!』
「でしたら、ラフィ様のお部屋で考えても宜しいですか? 何かあれば逐一聞きたいので」
「良いよ。ついでに甘えたい時はいつでもどうぞ。頭位しか撫でれんけどな。忙しすぎて………」
「お手伝いしますよ」
「ああ………尊い」
「皇女殿下、大丈夫か?」
…
……
………
リーゼ視点
ツクヨさんの態度に少し腹を立ててしまい、私の内をラフィ様に知られてしまいましたが、きっとこれで良かったのだと思います。
もしかしたら、ツクヨさんはわざとあのような態度を?
いえ、聞くのはきっと無粋なのでしょう。
私も、心の内が軽くなった気がします。
ですから、今度は皆さんの前でお話をしようと思うのです。
特にミリアさん。
貴方も一度、心の内をラフィ様に打ち明けた方が良いと、私は思うのです。
あなたもきっと、何かしら溜め込んでいると、私は思うのです。
だから今度は、私が、皆の心を軽くさせられるように、頑張って行こうと思います。
…
……
………
シャルミナ視点
初めはバチバチして怖かったですが、ルテリーゼ様の心の内を聞く事になるとは思いませんでした。
でも、ルテリーゼ様のお話を聞いて行くうちに、グラフィエル様の事が気になり始めました。
ルテリーゼ様が言っていたグラフィエル様のお言葉。
その言葉は、私の心にも響きました。
だからこそ、ルテリーゼ様は凄いとも思いました。
私には、ルテリーゼ様の様な強さはありません。
だからこそ、私もあるのでしょうか?
『自分だけ持ってる物』が。
私にはわかりません。
グラフィエル様に聞けば、分かるのでしょうか?
後思ったのは、あのお二人は凄くお似合いだと思いました。
とても尊いものを見せて頂いたと思います。
私にも、あのような殿方が現れるのでしょうか?
いえ、出来ればグラフィエル様と……。
はっ!私は何を考えているのでしょうか!?
今は、帝国と家族の事を考えねばならないと言うのに。
でも、全てが終わったら、グラフィエル様とゆっくりと話をしてみたいと思います。
だからこそ、私はこう思うのです。
お父様の目に狂いはなかったと……。
次話から本編に戻ります。




