130話 亜人と獣人の違い
5話目です
今のペースだとGW位に終わるのかな?
隠れ集落からゲートで会議室へ戻ると……ん?何か雰囲気が違う。
それに外が騒がしい。
一体何があったのだろうか?
とそこへ、各国首脳陣と帝国陣にミリア達が戻って来た。
「おお。ようやく戻って来たか」
「それで、そちらの方々は?」
陛下が待ちわびたように言い、ヴァルケノズさんが同行者について尋ねて来た。
俺が間に入り、両者ともに自己紹介を始める。
しかし、帝国の人間を見た瞬間、顔が険しくなる亜人側。
頭では分かっていても、やはり心では忌避感が出るみたいだ。
それは帝国側も変わらないようで、顔には出さないがどうにもぎくしゃくしている。
どうにかお互い共に挨拶を終え、いざ会議に!などと思っていたが、陛下の言葉を聞いて状況が変わる。
「先程、帝国軍が東西に分かれて出立した様だ。北方の魔物達には、冒険者が事に当たるそうだが、全滅は免れんだろうな」
「獣人軍はどうなのですか?」
俺の言葉に全員が首を傾げ「こいつは、何を言ってるんだ?」みたいな顔をされてしまう。
あれ?この情報はまだ届いていない?それとも、確認すらしていないっぽい?
「えーと、今回このお三方が来た理由の半分がこの件なのですが?」
「詳しく聞こう」
そして始まる説明会。
過去の戦争は、獣人貴族の暴走が原因だった件。
亜人と獣人は同国人だが、穏健派の亜人と過激派の獣人に分かれていた件。
帝国内乱を機と見て、挙兵した件。
亜人の虎族を人質に取って、強制参加させてる件。
獣人族は自業自得な部分もあるので、亜人保護を優先して欲しい件などを説明。
当然だが、帝国側は面白くないはず。
そう思って、二人の顔色を窺うと…うん?皇女殿下は何か考え込んでる様子。
ロギウス殿は…あ、妹に丸投げしてる顔だわ。
各国ともに「これ以上、厄介な事を持ってくるな!」と言いたげではあるが、口には出さない。
だってゼロとツクヨさんが怖いんだもの。
俺?俺は優しい男ですから。
……はい、嘘つきました。
皆、俺にキレられない様に必死なんですね。
いやね、駄目元でやってるので、そんなんじゃキレませんよ?
そんな中、先に口を開いたのは、やはり我らが陛下だった。
「で、お主はどうしたいんだ?」
「自分の名の元に、庇護下に入りたいとの事ですが……。妖精族とは違い、戦争があった訳ですしねぇ」
「前置きは良い。本音は?」
「出来るなら亜人の開放ですね。ただ、獣人側が暴走したとはいえ、止められなかったのは事実。例え過去の話で、今の者達に非が無いとはいえ、安易には…と考えてはいます」
「最良は亜人奴隷の開放で、最低でも奴隷になっていない者達の安全保障か。難儀な議題よな」
「陛下はどうお考えで?」
さて、この返答次第で今後が決まるだろう。
一応、説得の材料はリエルに調べさせたが、どう転ぶかな?
「余としては、お主の意見を尊重しても良いと考えている。条件付きではあるがな」
「その条件とは?」
「国の再建は諦めてもらう。野心が無い事を前面に出さねば、納得できぬ問題だからの。代わりと言っては何だが、ランシェスでの受け入れはある程度はしよう。土地は……暫くはあそこだな」
「そこは飲んで頂くしかないでしょうね。お三方とも。一応ですが、最大限の言質は取りましたよ」
この言葉に喜ぶ3人。
しかし、帝国はどういう反応を見せるのか?
最悪の場合、意見を違えることになるが……。
「質問、宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
皇女殿下が手を上げ、それに了承の意を示す。
他の首脳陣?今は空気です。
「お聞きしたいのは、獣人と亜人の見分け方です」
「何故、それを知りたいので?」
「私の聞いた話ですが、亜人も獣人になると。では、亜人と獣人の違いは何なのでしょうか?」
それを知ってどうすると言うのか?
しかし聞かれた以上、答えねばならない。
問題は、亜人側にとってこれが秘密なのか公然なのか。
視線を送ると、二人が頷く。
近衛は良くない顔をしているが、秘密と言う訳でもないみたいだ。
では、説明するとしますか。
「亜人と獣人の違いですが、人寄りか獣寄りかの違いだけですよ。亜人の戦闘型には【獣化】と言う生まれ持ってのスキルがあるそうです。そのスキルを持っている亜人は戦闘型と言われ、兵などに志願します。獣人は、生まれながらにして獣なので、亜人にはなれません」
「【獣化】した状態だと、見分けはつかないのですか?」
「【獣化】には、魔力を使用します。獣人とは魔力の流れが違うので、練達な者なら見分けるのは可能です」
「つまり、獣の状態から亜人になれた場合は、亜人と区切って良いのですね? ですが、獣人が亜人になる事も可能なのでは?」
へぇ、そこに気が付くんだ。
皇女殿下は物凄く優秀だな。
普通は気付かないものなんだが。
いや、正確に言えば、気付いても説明を理解できるか分からないから、敢えて見逃すと言った方が正しいか。
さて、この説明で理解してもらえるか甚だ疑問だが、言わないと納得しないだろうな。
「まず結果から言いますと、獣人が亜人になるのは不可能です。それは、持って生まれた遺伝子が違うからです」
「遺伝子…ですか? それは一体?」
「簡単に説明すると、身体に刻まれた情報体です。例えば、AとBを持った両親から生まれる子供は、平均した子供かA寄り又はB寄りになります。次にAとCを両親に持つ子供も同じです。Aを亜人、Bを人族、Cを獣人と仮定します。そうなると、元々持つ情報体が不足します。そうなると、AとCにはBの情報が不足しています。そうなると……」
「人族の情報が足りないから、亜人にはなれないですか。ですが、AとCでA寄りなら亜人姿になれるのでは?」
この説明でそこまで気付くの!?
皇女殿下、優秀過ぎでしょ……。
こうなると、説明がややこしくなるんだよなぁ。
さて、この説明で納得してもらえると良いんだが。
「A寄りの場合、産まれてくるのは亜人姿ですね。そして、実はAとCの場合、AとBにあった中間がありません。何故だかわかりますか?」
「…………血の濃さですか?」
「正解です。因みに、亜人族の場合ですが、獣の情報体が強い傾向にあります。なので、AとBの子供の場合、例えB寄りでも産まれてくる姿は、亜人になります」
「では、その場合の特色は何ですか?」
「B寄りの場合、亜人特有の戦闘スキルがほぼ皆無です。【獣化】出来る亜人と言うのは、A寄りの亜人と言う訳です。そして、【獣化】出来る亜人を先祖返りと呼称します」
「そうですか。私と同じ…と言う事ですね?」
おや?メナトの言葉を覚えていたのか。
ああ、だから理解が早かった……訳ではないか。
理解が早かったのは、先祖返りの部分だけだろうな。
しかし、俺の拙い説明で、ここまで理解するのか。
頭の回転で言えば、リーゼと良い勝負なんじゃないか?
チラッとリーゼを見ると、うんうんと頷いていた。
あ、やっぱ理解したんですね。
この二人の頭脳は化け物クラスだな。
「ところで、私からも一つ質問なんだが?」
皇女殿下について考えていたら、ヴァルケノズさんから質問された。
はて?何が聞きたいのであろうか?
「なんですか?」
「先程の説明だと、獣人と人族について触れてないと思うのだが?」
ギクッ!
え?ヴァルケノズさんが俺に聞くの?
せっかく誤魔化して、触れなかったのに?
空気読めや!教皇猊下よう!
「そう言えば、そうだな。人族と獣人族の場合はどうなんだ?」
皇王まで乗ってきちゃったよ。
はぁ……どうなっても知らんからな。
「その前にこちらから質問ですが、毛むくじゃらの二足歩行犬に豚顔や蛇顔を相手に出来ます? 俺は無理ですね。人が持つ魅力の一つに、容姿が関わる事を俺は否定しないので」
「それは……正直、厳しいですね」
「教皇殿もか。私も、抱くのは無理だな」
「オーディール王、それは美的センスの違いですね。妖精族も無理ですけど」
とまぁ、この場にいる全員が否定する。
尚、亜人族に関しての代表3名の意見はと言うと。
「私は種族別で変わるでしょうか? 自身が狼系なので、その系譜ならギリギリですが……」
「わっちも同じですなぁ。ただ、敢えて言うなら遠慮したく……」
「私は無理ですね。人族か亜人族が良いです」
亜人からも、獣人は駄目の方向らしい。
獣人、人気ねぇなぁ。
尚、ツクヨさんとゼロも無理との事。
そんな中、皇王が言ってはいけない一言を放つ。
「何も人族男性と獣人女性に限らずとも良いだろうが。逆もあるのでは? それこそ拉致して無理矢理「お・と・う・さ・ま・?」」
リーゼの笑顔に怖さが足される。
皇王の傍まで歩いて行ったリーゼは……。
バチーーーーン!!
強烈な平手打ちを父親に喰らわす。
そして……自分の娘に叱られる皇王と言う図が出来上がる。
「何をとち狂ったことを言っているのですか! ここには女性陣もいるのですよ! 配慮が無さすぎます!」
叩かれた皇王は呆然自失。
そりゃあ、公の場で娘に叩かれたとあっては、大恥どころではない。
皇王の威厳は、完全に失墜した。
周りも呆然とする中、我が陛下だけは笑いを堪えていた。
陛下も存外腹黒いなぁ……。
皇王を平手打ちしたリーゼは、今度は笑顔でこちらに来る。
もしかして、俺も叩かれる?
しかし、リーゼの言葉は、皇王を更に追撃するものだった。
「ラフィ様、私の父に徹底的に説明してください。ぐぅの音も出ないほどに。わ・か・り・ま・し・た・?」
「yes・Sir!!」
ここでリーゼに逆らう選択肢など、在りはしない。
俺は席から立って、何故か敬礼で応える。
ゼロは笑いを堪え、ツクヨさんは呆れていた。
だが、仕方ないと思う。
だって怖いんだもの!
そこからは、反論を許さない説明を始めた。
「えーとですね、先程も言いましたが、獣の情報体が強いんですよ。1世代程度じゃ、獣人と人族から亜人は産まれません。それこそ、何世代も血を薄めて、初めて産まれるのです。当然ですが亜人族は、種として初めから確立してますので、獣人から亜人が産まれても、分類は獣人族になります。そういや、【ステータス】使えば、直ぐにわかる話でしたね」
矢継ぎ早に説明する。
皇王も反論せず、頷いてこの場をやり過ごす。
俺がせっかく誤魔化したのに……。
皇王は自ら墓穴を掘ったな。
俺も何を理路整然と語ったのだろうか?
さっさとステータスの話で収めたら良かったんじゃねぇか!
リエルの笑い声が聞こえた気がする。
まさか……リエルの奴、分かってたんじゃないだろうな?
後で尋問だな。
そして俺は、今回の説明で一つ言ってない事がある。
それは、隔世遺伝の話だ。
下手に説明すると、混乱するのでは?と考えたので言わなかったが、今後の事を考えると説明した方が良いのか?
……悩んだ結果、今回は保留にした。
問題が起きたらその時考えよう。
……問題の先送りだな。
その後は、各国がどのような動きで行くかを話し合う予定だったのだが、亜人側が獣人側と対立し、参戦すると宣言した所、皇女殿下から意外な言葉が出た。
「先にお伺いします。亜人側は、獣人側を助けることはしないのですね?」
「はい。寧ろ、今回は敵ですね。人質も取られていますし。擁護する気はありません」
「そうですか。……確約とはいきませんが、帝国内の亜人奴隷に関しては、優遇出来る様に皇帝陛下へ進言しましょう。今の私に出来るあなた方への礼は、これが限度です。申し訳ありませんが」
「いえ、どの様な結果になるかは分かりませんが、そのお言葉だけでも」
皇女殿下の申し出に礼を述べる亜人側。
これを機に、少しでも歩み寄れたらと思う。
その為の苦労なら、買っても良いかな?
「じゃ、俺も皇帝に頼むとするかな。流石に、無下にはしないでしょ。陛下、宜しいですよね?」
「お主は全く……気に入った相手には、とことん甘いの。好きにせい。ランシェスはお主の呼びかけで参戦したことにしておく。その方が都合も良いしな」
「それでしたら、神聖国もその話に乗らせて頂きたいですな。神聖騎士様からの勅命となれば、士気も違いますし」
「え? 神聖国の騎士団は、動かしたら不味くない?」
神聖国はこの世界で最大規模の宗教だ。
その総本山が動くと言う事は、敵は異教徒と言い切っているに他ならない。
流石に反乱軍とは言え、不味くないか?
「問題無いですよ。グラフィエル君と敵対した時点で、異教徒確定ですから」
「言い切るなぁ……」
「ならば、我が竜王国も乗るか。神竜騎士様との共同戦線ともなれば、我が国軍の士気も上がる」
「それについては、少しお願いがあります」
俺のお願いに食いつくオーディール王。
何だろう?この、待て!と言われて、許可を得た犬みたいな感じは……。
かなり失礼な事を考えてしまったので、頭を振ってからお願いを話す。
「風竜族に軍を運んでもらおうと思うのですが、竜王国軍は先行して牽制して頂きたいのです。後方から軍が出現したとなれば、相手を揺さぶれるでしょうし」
「…………ふむ。それに亜人側も加えろと言う事かな?」
「亜人軍は分割します。3分の1ずつですが、オーディール、セフィッド、フェリックに振り分けます」
「人族と共闘して、獣人とは違うと見せつける為か。その話、受けましょう」
「セフィッドも問題ありません」
「フェリックも問題無いが、少々厄介な話があるぞ?」
皇王の話だが、西側反乱軍は二手に分かれているとの事だ。
片方は帝都西に進軍中だが、もう片方は白竜族の里に向かっているとの話。
うん……反乱軍は馬鹿なのかな?
竜を相手にするには、一騎当千の猛者が必要だと言うのに。
だが、最悪の想定はするべきなのだろう。
となれば、振り分けは……。
「では、ランシェス軍は亜人軍を半分に分割して統合しましょう。オーディールにはブラストとバフラムを。セフィッドにはシンティラとコキュラトを。フェリックにはリュミナとアルバを同道させます」
「それだと、ランシェスが不利なのでは?」
「本当は約定違反なのですけどね……黒竜族を参戦させますよ。駄目なら駄目で、手はありますし」
「ある意味、世界大戦だな。反乱軍は馬鹿な事をした」
「陛下の仰る通りですね。では皆様方、そんな感じで良いですか? あ、オーディール軍は、連絡あるまで進軍せずに防衛戦をお願いします」
「了解した」
こうして話は纏まり、ゲートにて首脳陣を送り届ける。
尚、各天竜達だが、配下も参戦させるとの事で、同盟総戦力となってしまった。
……これ、反乱軍が勝つの無理ゲーだな。
しでかした俺が言う言葉ではないけどな。
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