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幕間 陛下(父)への疑問

2日目です

ラフィ達が遺跡に赴いた翌日


私、フェルジュ・ラグリグ・フィン・ランシェスは陛下との私的な話を奏上した


陛下父は、珍しいものを見たような顔をしてから、私の奏上を聞き届けてくれた


しかし、明日は予定が詰まっているとの事で、本日の午後ならばとかなり急な話であった




急ではあったが、こちらとしても異存は無いので、陛下のご提案通りに進めることになる


場所は、陛下の書斎


私の雰囲気を感じ取ったのだろうか?


陛下父は、誰にも邪魔されず、盗聴防備が厚い部屋の一つでと言われた




そして午後、書斎には陛下父と私の二人だけがいた




陛下父に促されて、椅子へと腰掛ける


陛下父が座るのを待ってから、話を始める




「陛下…いえ、父上。今日は、時間を作って頂き、感謝致します」




「堅いな。もっと楽にしろ…親子の会話なのだろう?」




「そうですね…では父上、少し砕けます」




そう言ってから深呼吸をする


緊張してるのか?と、問われたら、確かに緊張はしている


今回の内容は、ある意味で喧嘩を売るような内容だ


父と子とは言え、陛下と王太子でもある




「(下手な問答は、己の首を絞めるようなものだからな)」




自身の心の内を穏やかにし、頭はフル回転させる


聞くべき事、聞かねばならない事


最重要部分を再度確認して、父へと質問をする




「父上。最近の父上は、クロノアス家に肩入れ過ぎではありませんか?」




まずは、軽く牽制を入れておく


今の言葉は、他の貴族家の代弁である


私自身の本心ではない


しかし、確信を突く為に敢えて今の台詞にした


この言葉を聞いた父上の対応で、この先の方針が決まる


怒られることも視野に入れての発言だったが、返された反応と言葉は予想とは大きくかけ離れた




「はぁ~…やはり、お前もそう思うか。程良くと言うのは難しいな」




「……父上?」




「お前の言いたい事は分かる。貴族共…特に、貴族派閥家の者がしつこいのであろう?お前には苦労をかけるが、友のために数年我慢してやれ」




「……ラフィの為ですか?詳しく聞いても?」




「ふむ…ああ、なるほど。先の言葉はブラフか。成長したと褒めたいが、実の父に使うものではないな」




「お叱りは後でいくらでも。それで、こちらの質問には答えて頂けるのでしょうか?」




「何が聞きたい」




どうやら、ちょっとしたお叱りはある様だが、こちらの質問には答えて貰えるようだ


ならば、踏み込めるところまで踏み込んでしまおう




「決闘時の事からです。父上は何故、あの決闘に口を挟まなかったのかと」




「8年近く前の事からか…まあ、良い。口を挟まなかった理由だが、先でも後でも関係ないからだな」




「関係ない…ですか?」




「フェルよ。王家しか出来ぬことがあるが、それは何かわかるか?」




父上から、逆に問いただされる


王家しか出来ない事か……


税収での生活…は、貴族も同じ


国の安寧は王家だけでは不可能




「(特権?階位?……いや、それは権力であって、出来る出来ないではない)」




答えの出せない私を父上が黙って見ている


まずいな…何か答えないと……


とここで、先程考えていた【特権】に引っ掛かるものを感じる




「(王家しか持てない特権……あ、まさか!?)」




ここで父上がニヤリと笑う


どうやら、正解の様だ




「そうだ。お前の考えた通り、貴族への爵位授与だ。王家しか持たない特権であり、だからこそ貴族達は、王家に不満があっても、表立って動けない理由でもある」




「だから、先でも後でも関係ない…ですか」




「ああ。爵位の剥奪も王家の特権だ。いくら決闘での取り決めを順守する法があるとはいえ、爵位に関しては、俺の判断一つでどうにでもなるからな。あの場合だと、膨大な金額で済ませて終わりにも出来るわけだ。尤も、次代までは国への借金返済に追われたであろうが」




「結果は、負けた方が裏で国家転覆罪が適用されるようなことをしていた…となりましたが」




「あれは…まぁ、仕方が無いな。流石に許容できる犯罪ではなかったから、取り潰したに過ぎんよ。別にクロノアス家だから…と言ったわけでは無い。仮に、許容範囲内の犯罪であれば、降爵と罰金にクロノアス家への膨大な金額の支払い命令だな。何も無ければ、金銭で解決させたし、領地も爵位も取り上げてはおらん」




決闘後の処罰については理解は出来る


多少の強引さはあるが、どちらかを擁護しているわけでもない


…いや寧ろ、決闘後から贔屓が始まった?




「父上は何故、元侯爵家の領地をクロノアス家に与えたのですか?」




「本来は、潰す気の無かった貴族家を潰す羽目になった。あの領地はクロノアス領からは飛び地だ。意味はわかるだろう?」




「罰も兼ねて…ですか。金銭面では罰にならないでしょうが、領地の安定と収益の確保に領民との兼ね合い。恐ろしく大変だったのでしょう?」




「普通よりはな。俺からしてみれば『やり過ぎだ。以後注意するように』と警告付きの恩情処置だな。一応、決闘には勝っているんだし、下手に処罰できん」




父上もご苦労な事だ


そして将来は、私がそれを考えないといけないかと思うと憂鬱になるな




決闘に関しては、色々と複雑な事情だったので良しとする


ラフィの爵位の授与に関しても、武勲で済む


しかし、この先は明らかに贔屓している節がある


その事について尋ねてみるか




「では、次です。何故、グラキオス殿は先代付きではなく、爵位授与なのでしょうか?」




「その事か……いくつか理由はあるが、一番の理由は抑止力…と、巻き添えだな」




「え?は?巻き添え…ですか?」




「何を素っ頓狂な声を出しておる。お前の友の破天荒ぶりは、結構心労が溜まるのだぞ?グラキオスも、半分諦めておるわ。そのおかげで、今があるとも言えるが」




「あ~……なんとなく、理解はしました。ですが、名誉伯爵や先代辺境伯でも良かったのでは?」




私は、他にもあったのでは?と聞くと、父は「はんっ!」と、鼻で笑い、理由を聞かせてくれた




「名誉爵位は一段下に見られがちだろう。先代だと、法的効力が無いに等しい。そして、二人の息子だが、まだ若すぎる。領地経営に足りないものが多すぎるからこその侯爵だ」




「実際は、違いますよね?」




父上が子供に対して高圧的に見せる時は、何かを隠したい時だと言うのを私は知っている


今の態度だと、間違いなく、何かを隠したいようだった


そしてそれは正解で、父上の顔は苦虫を噛み潰したような顔をして、私を睨んでいたが…




「お前は…はぁ、優秀になったな。あの侯爵の爵位はな、潰した家のものだ。お前なら、わかるだろう?」




「決闘後に潰した家のですか?」




「そうだ。騎士爵と準男爵ならば、騒ぎ立てる輩もおらんが、男爵家以上は後継階位がある、本物の貴族になる。余剰枠は残しておきたいが、残し過ぎても問題なのだ」




「つまり、余剰枠が多いから、グラキオス卿に渡したと?」




「それも一つだな。もう一つは、王城で好きに動ける様にするためには、侯爵の爵位は便利だったこともあるし、グラフィエル本人の事もある」




「ラフィの…ですか?」




「あやつが為したことを考えれば、王家へ婿養子で入れて、公爵家を新たに立ち上げる程なのだ。だが、本人はそれを望んでいない。とすれば…」




「家族に…ですか……あ!まさか、ラフィの兄を一人、伯爵にしたのも……」




「あれは、他貴族への牽制の意味もある。家族が多大なる貢献をした場合に限り、新たに立ち上げられるかもしれない…とのな」




「そのせいで、クロノアス家の男性陣は、多方面から嫌がらせをされるわけですか……」




「そんなことをする暇があれば、他で労力を使え!と、言いたくはなるな。ああ、そう言えば実験の成果もあったな」




「それ、建前ですよね?」




「建前は大事だぞ。建前があって、真意が隠せるのだから」




「その被害を受けている、ラフィ以外のクロノアス家男性陣が不憫です」




理解も納得も出来る話であった


しかし、何か矛盾がある様にも見える


いや、正確には扱ぎ付けか?


それっぽい話で納得させようとしている気もする




「…………何を隠してます?」




「何も隠してはおらんぞ?」




「さっきの話、建前ですよね?真意は別にあると思うのですが……ち・ち・う・え?」




「…………」




「沈黙は肯定と受け取って良いですね?」




父上との睨めっこが開始される


ジッと父上を見つめる私に対し、ひたすらだんまりする父上


数分の間、続いた睨めっこだが、父上が先に根負けする




「お前は、本当にリアフェルに似て来たな……俺が話せるとすれば、近い将来に嵐が来るとしか言えんな」




父上の言葉に考え込む




「(近い将来に嵐…か。しかし、それだけで優遇するか?)」




私が考え込む間、父上はまたもだんまり…いや、どう答えるか楽しんでいる様だ


父上とのこれまでの話、行動を順を追って考えてみる




クロノアス家の優遇、子弟への爵位と二つの侯爵家


そう言えば、跡継ぎ問題でも優遇していたな


……おかしい……何故、他貴族との繋がりになる優遇が無い?


いや、ラフィの父君であるグラキオス殿は、それなりの交流関係はあるはずだ


しかし、ラフィ自身にはあまり無い


ここから導き出される答えは……




「クロノアス家への優遇は、他貴族との交流があまり無い、ラフィへの援護射撃?」




「ふ、ふふ、ふははは!なるほど、なるほど。中々に良い答えだ。しかし、まだ半分だな」




「どういう事でしょうか?」




私の問いに父上は人差し指を口に当て、口止めのジェスチャーをとる


私も頷き、父上は答えを言う




「クロノアス家はな、家族愛が非常に強い一族なのだ。他貴族でもその傾向はあるが、クロノアス家程ではない」




「それが、答えだと?」




「仮に、グラキオスが先代持ちになったとしよう。さて、どれほどの影響力が持てるかな?グラフィエルの兄二人も、領地経営はまだまだヒヨッ子な中、果たして援護出来るであろうか」




「グラキオス殿の侯爵位は時間稼ぎの意味もあると?」




「人脈の譲渡も兼ねてはいるな。それと、独自での開拓。グラフィエル本人にその気は薄いが、味方は多い方が良い」




「クロノアス家の跡継ぎ二人が味方を増やし、間接的にラフィの味方になる方法ですか……随分と、遠回りな方法に思えますが?」




「それが、先程の嵐に繋がる…と言えば、わかるか?」




父上の言葉に、一つの答えが浮かび上がる


しかしそれは、非常に危うい状況を示してしまう


だが父上は、既にその未来を確定として見ている様だ




「最後に一つだけ。どれくらいだと予想されていますか?」




「ふむ……最低でも4分の1は消えるであろうな。問題は、何時に事を起こすのかが読み切れん」




「父上のお考えは?」




「俺の予想では、二つの内のどちらかだと考えてはいる。いや、願望と言っても良いのかもしれんな」




「帝国とダグレストですか」




「ほう、お前も掴んでおったか。で、どちらだと思う?」




「3:7でダグレストです」




「その理由は?」




「帝国の方で便乗しても、勝機は薄いでしょう。何せ、反乱なのですから。ラフィが動いた時点で、望み薄です。それならば、数で多くなるダグレストの方が勝機が高いですし、呼応しやすい」




「俺よりも辛辣だな。問題は、グラフィエルが動くかだが」




「動きますよ。と言うか、動かざるを得ません。同盟の中心人物ですからね……ああ、これも込みでグラキオス殿への侯爵授与ですか」




「本当にお前は……まぁ、良い。問題は、各辺境伯家だが」




そう言って父上は考え込む


私は考え込むほどではないと思っている


帝国の時に動かないのであれば、北と西の辺境伯家はダグレストに傾注しなければならない




南の辺境伯家は中立派閥だが、ラフィのおかげで景気が良いと聞く


東の辺境伯家も、ラフィのおかげで神聖国との交流が良好だと、報告が上がっている


北の辺境伯家は、貴族派閥から中立派閥に寝返っているし、西の辺境伯家は王都から遠い


最悪の場合は、辺境伯家全てを王族派に鞍替えさせれば良いだけ




父上もその事には気が付いているはずだが、不安要素があるのだろうか?


父上に聞こうとして、扉がノックされる


時間を確認すると、かなりの時間、話し込んでいたようだ




「どうやらここまでの様だな」




「貴重なお時間、ありがとうございました」




「良い。お前の成長ぶりが確認できて良かったと思っている」




私は立ち上がり、一礼して部屋を出ようとすると、父上から一言質問される




「お前は、どう動くのだ?」




「そうですね…妹が不幸せにならない様に、友が変わらずに友でいられるように動きます。今回の話も、父上が何か企んでいるのでは?と勘繰った次第ですので」




「お前のブレなさは、俺と妻譲りだな。ただ、一つだけ注意しておく。過ぎた好奇心は身を滅ぼすぞ」




「それは、母上に言って下さい。私は、好奇心ではなく、ルラーナが悲しまない様に、新しい縁戚が不幸にならない様に動いただけですので。……ああ、ルラーナが悲しむことがあれば、父上でも容赦しませんので」




「嫁大好きだな……息子に王位簒奪などさせたくは無いから、なるべく善処はしよう。但し……」




「避けられない事はあるですか……嵐と関係ありですか?」




「何とも言えんな。他国との兼ね合いもあるからな」




最後の言葉を以て、話し合いは終了する


とりあえず、父上が良からぬことを考えているわけではないが、グラキオス殿の件については、少々やり過ぎなのでは?とも思ってしまった


ただな……




「(父上も、未来の義息子には甘いのかもしれないな)」




そう思ってしまい、少しだけラフィに嫉妬してしまう私であった

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