110話 成人、そして独立
今年もよろしくお願いします
クロノアス領の遺跡探索が終わり、少しだけ日が流れ、現在は4月初日
本日は成人の儀が行われる日である
ミリアとリーゼも自国に戻り、成人の儀に参加している
前日に俺がゲートで送り届けたのだ
本来は陸路で行き、道中の村や町に金を落とさなければならないのだが、そうすると1カ月以上前に出立しなければならない
お見合い大会などもあったので、今回は致し方なし!と自分に言い聞かせて、彼女たちを送り届けた
ランシェスでは俺に加え、リリィ、ティア、リアの三人も成人の儀に参加する
成人の儀にはそれなりの格好で出ないといけないので、当主達の懐具合は少し寂しくなる
しかし、ここでケチると『あそこの家は・・・』と陰口を言われるようになるので、皆奮発する
それが後を継げない次男以下であろうともだ
それと、成人の儀には各国ともに似たような部分と全く違う部分が存在する
似た部分は、身分による開催場所だ
貴族の子弟は王城で行い、商人は商業ギルドで、平民は教会で行われる
後、貴族の子弟は成人後は平民に落ちるが、それにも条件があったりする
基本は、貴族以外と婚姻を結ぶ場合が多い
それ以外だと、当主が完全独立したと認め、法的に平民へと落とす場合
但し後者は、ほとんど無い
親と仲が悪かったり、長子継承の妨げになると判断された場合が多く、次男に関しては長男に子供が生まれるまで飼い殺しといった惨状だ
結果、今の世界には男手が地味に足りなかったりする
3男以下になると、困ったら軍か冒険者に!とまでなっている始末
更に面倒なのが、平民落ちしていない場合、貴族の子弟として扱わないといけないので、物凄く厄介な点だな
あ、平民と婚姻を結んだ貴族の子弟が貴族に戻る方法も存在はしてるぞ
武勲を上げるか、未開地を開発して王国に認めて貰うかしかないけどな
前者は狭き門だし、後者は金が掛かるから、ほとんど居ないけど
後は・・貴族ではないが、能力があるかコネで陪臣になって家を立ち上げて、相続できるとかだな
賢い人は陪臣家を目指す
ただ、大抵は実家付きで夢を見て何もしない奴が多い
その為、貴族家の子弟は40になっても子弟だったりするし、頭お花畑の奴が大多数を占める
特に貴族派閥と法衣の大部分がそんな感じだ
在地領主家でも、最低3割はそんな感じなので、陛下が頭を痛めている原因でもある
そんな貴族家でも王族派なので、無下には出来ないから余計に性質が悪いわけだが・・・
そして違う部分だが、成人の儀をする時期だ
ランシェスでは春先だが、帝国は夏に、竜王国は収穫祭と同時に行うらしい
皇国、神聖国、ダグレストは同じ時期らしい
傭兵国と神樹国は特に無し
リュンヌは、新年が明けて直ぐに行われるそうだ
そして、この成人の儀だが、行ってる国は各国ともに【年内に満15になる者】が対象との事
つまり、満14でも今年15になるのなら参加資格があるわけだが・・・同年内に生まれた子供がいると、余計に出費が嵩む訳だ
中には、借金をしてでも見栄を張る貴族すらいると言うのだから驚きである
さて、何故俺がこんな説明みたいなことを考えているのか?
それはな・・・・
「・・・・・で、あるからして!節約は大事なのだ!金は無限ではない事を肝に銘じる様に!」
とまぁ、お偉い方々が演説にも似た、お言葉を贈っているからだ
陛下のお言葉は、忙しいのもあるからか、5分程度で済んだのに、その後の○○卿に着く方々のお言葉が長いこと・・・
これでも短くなったらしいから驚きだ
昔、とある役職の方が何時間も言葉を贈り、問題となったそうだ
それを知った当時の陛下が激怒し、持ち時間30分と言うルールが作られたそうだ
勿論、30分話せと言う事ではなく、30分以内に終わらせろ!と言う事だ
当時の陛下はきっとこう思っただろうな
『さっさと仕事に戻らんか!!』と
で、現在だが、全員が30分ギリギリまで時間を使って言葉を贈っている
半分は成果報告や自慢話に聞こえるが
多少短かったのは、ファスクラ軍務卿くらいだろうか?
彼の話は15分ほどで終わった
尤も、その話は前世で先輩に聞いた、就職説明会に近かったが
その後も話は長く、成人の儀が終わったのは昼を回ってからであった
成人の儀が終わった後、解散!とならないのが貴族である
この後は軽い立食パーティーが開催される
男尊女卑の世界ではあるが、貴族家のご令嬢も分け隔てなく参加できるのが成人の儀だ
それは当然の事ながら、あれが起きるわけで・・・
「クロノアス様、少しお話を宜しいでしょうか?」
「私が先にお話しするのですから、貴方は後になさい」
「良ければ、ダンスを踊って頂けませんか?」
貴族のご令嬢が砂糖に群がる蟻の様に寄ってくるのだ
尚、婚約者であるリリィもティアもリアも他貴族のお相手で忙しい
フェルに至っては、次期国王なので言うまでもない
この地獄は、パーティーが終わるまで続いた
「ラフィも大変だったみたいだね。僕も大変だったけど」
「フェルは次期国王だからな・・・しょうがない」
「少し、鼻の下を伸ばしてましたよね?」
「それは誤解だ。ぶっちゃけ面倒だった」
「リリィ・・ラフィ君は、大丈夫だと思うわ」
「でも、なし崩し的に婚約者は増えてるよね?」
「そこでそれを持ち出すか?リア」
現在、夕方
パーティーが終わった後、リリィとフェルの呼びかけで、王城の一室でお茶会と愚痴大会が開かれていた
この中で、一番大変だったフェルが発起人だ
要するに、気兼ねなく話せる友人に愚痴を聞かせたいと言う話だ
「まぁ、フェルは大変だよな。男女問わずだったし」
「追加で言えば、派閥も問わずだね」
「ご愁傷様」
「どうも・・・ホント、王族も貴族も面倒だよねぇ」
「身も蓋もねぇな」
「だってホントの事だし。王族として良かった事と言えば、ルラーナと結婚できる事かな」
「ほんとに身も蓋もねぇなぁ。俺も王族になるのは御免だけど」
「ラフィもフェルも、それくらいの方が良いわよ」
「そうするよ、ルラーナ」
「程々にします、姉上」
ルラーナ姉の言葉で、愚痴をいったん終わらせる
ルラーナ姉がこのお茶会に参加しているのは、気兼ねなく話せる人物なのと経験者であるからだ
そんな俺達の話は次へ変わる
「しかし、あの演説大会はもう少しどうにかならないか?」
「ラフィの言いたい事は理解できるよ。僕も陛下に奏上するか悩んでるさ」
「ホントに長かったよね」
「あれでも、過去に比べれば短くなったんですけどねぇ」
「リリィの言いたいことはわかるけど・・・」
「実際に体験してしまいますとね」
「私も、そう思うわ」
全員の気持ちが一致した瞬間だった
同時に溜息も出てくる
あの演説大会は、フェルが王になった時にどうにかすれば良いと思う
直ぐに変えると反発が起きそうだし
「そう言えば、父上からの伝言があったよ」
「陛下からの?何だろう?」
「例の通信機についてみたいだよ?用意が出来たら、使いの者が呼びに来る手筈になっているから」
「何か問題でもあったのか?」
「さぁ?特には聞いてないけど」
とここで、ドアをノックする音がした
時間を見ると、既に1時間を軽く超えていたようだ
もうすぐ日も落ちるのに・・陛下も大変だな
メイドに案内され、俺は応接室へと通され、陛下を待つのであった
「待たせたな。今日は軽い雑談だ。気を楽にすると良い」
「ありがとうございます。しかし、お時間はよろしいので?」
「今日の政務は、元から少ないからの。代わりに・・あれだ」
「あの演説大会ですか・・・何となく、納得しました」
陛下もあの演説大会みたいな成人の儀は辟易しているのであろう
とは言え、潰すわけにもいかないから、悩んでいるわけだ
「あれでも、昔に比べれば短くなったのだ。これ以上減らせば、関係各所から抗議が来そうでな」
「心中お察しします」
「愚痴ばかりではいかんの。今日呼び出したのはいくつかあったからだが。まずは、先日献上された通信機についてだが」
「何か問題があったのでしょうか?」
「特には無い。余が頼みたいのは、もう少し数が無いのか?と言う事だ」
「在庫はありますが・・・足りないのですか?」
「ガラケーとスマホもどきだったか?お主が命名したのだったな。実は、関係各所であれば便利との声があってな。ガラケーをもう少し増やしたいのだ」
グリオルス兄の治めるクロノアス領の遺跡から発掘された通信機は、俺から兄の名代として陛下にスマホもどきを3台とガラケーを5台、献上していた
後は、我が家の一部家臣に貸与と婚約者+ヴェルグには渡してある
ブラガス、ウォルド、ナリアにも貸与ではなく、普通に渡している
ぶっちゃけると、王家よりも我が家の方が所持率が高いのだが、これは陛下も知っている事だ
陛下も特に何も言わなかったが、やはり問題だったのだろうか?
「別に問題ではないぞ。誰彼構わず売られるのは問題だが、お主の家臣で信用に足る者ならば問題は無い」
「顔に出てましたか?」
「出ておったの。もう少し、隠す努力をした方が良いな」
「気を付けます。で、如何ほどご入用で?」
「とりあえず、10台ほどかの。それで足りなければ、追加で頼むかもしれんが」
「わかりました。では、献上「代金は払おう」」
陛下の言葉にちょっと固まる俺
だが陛下は、こちらの事を気にせずに話を続ける
「何でも献上と言う訳にはいかんのだ。他の貴族家との兼ね合いもあるからな。それに、お主の兄からは献上されておる。代わりと言うわけでは無いが、お主の兄がオークションに出した物のいくつかを高額で買わせてもらった」
「お気遣い、感謝いたします」
「良い。本来であれば献上品ではなく、高額で買わねば手に入らぬ物であるし、有象無象に渡らなかっただけ、良い結果に終わっておる。お主の兄も中々に賢いの」
「ありがとうございます。ですが、代金と言われましても、相場がわかりませんので。やはり献上の方が」
「では、余の裁量で支払おう。1台につき、白金貨1枚でどうだ?」
「高すぎませんか?」
「余としては安いと思うがの」
「陛下が良いと仰るのでしたら」
「では、とりあえず10台買おう」
「承知しました」
空間収納からガラケー10台を取り出し、陛下に渡す
前世の金額に換算したら、ガラケー1台で1億か
スマホもどきだといくらするのかね?
陛下がお付きの者に代金を持ってくるようにと伝え、騎士の一人が財務卿の元へと走っていく
その姿を見届けてから、陛下が話を切り出した
「さて・・次の話だが、お主は成人したのだから、これからは独立した貴族家となるわけだ。そこで、少し問題がある」
「問題ですか?」
「まず、親だな。お主の爵位は侯爵だが、同爵位の者を親には出来ん。では公爵家は?となるのだが」
「問題があるのですよね?」
「流石に公爵家に侯爵が下と言うのは風聞が悪い。階位や爵位は下であるが、公爵を除いた貴族家の階位は侯爵と辺境伯が頂点だからな」
「では、自分が子の面倒を見るのですか?」
「今年成人したお主には無理であろう?そうでなくても、お主は新興貴族家なのだ。他が五月蠅い」
「面倒なのですね。いっそ、父の分家扱いにしては?」
「駄目だな。侯爵家の分家が侯爵など前例がない。そもそも、分家とはそのほとんどが爵位を持たぬ。例外はあるが、本家の方が爵位が上と言う条件だの」
「面倒ですね。と言う事は、子無しの法衣貴族にするのですか?」
「暫くはそれしかあるまいな。下手に子を作ると厄介ではあるし。時間稼ぎとして、誰か後見人でも付けるか」
「成人した貴族家当主に後見人ですか?おかしなことになるのでは?」
「前例がないわけでは無い。下級貴族などではたまにある事だからな。侯爵に後見人は初めてではあるが、貴族家にはあると拡大解釈させてしまう」
かなり強引な方法ではあったが、現状これしか手が無かった
では誰が後見人になるのか?と言う話だが
「公爵家は駄目だな。外野貴族派が五月蠅い。お主の父親も駄目だな」
陛下の言葉に首を傾げる俺
理解をしていない俺に、陛下が理由を話してくれた
「お主の父は、成人するまではという条件付きだったからだ。前例があったからこそできたが、公爵同士は前例が無いから大変だったな」
「申し訳ありません。ですが、兄上達は何故良いのでしょうか?」
「領地を持っているからだ。これには、いくつもの例が存在する。貴族家の後見人でもあるが、領地経営を円滑にするために、新米領主の後見人と言う立場が取れるわけだ」
「そうだったのですか。では、自分の後見人には誰がなるのですか?」
「候補は何名かおるが・・・複数名の後見人を立てるしかないな」
「え?複数人ですか?」
予想外の言葉に驚く
後見人は普通は1人で、他には管財人などが付くからだ
その驚きに、陛下は不思議な顔をしながら話を進める
「何を驚くことがある?お主は既に当主としての責務を全うしているのだから、管財人は不要だろう。後見人を複数にするのはこちらの都合だ」
「・・・・そういう、ややこしい方面の話ですか」
「そうだな・・・余からしても、他にやる事があるだろう!と、叱責したくなるな」
陛下と俺が納得した理由
簡単な話、俺が中立派であるドバイクス侯爵家のみを後見人すると、他が五月蠅いと言うわけだ
特に王族派が・・な
その五月蠅いのを黙らせるには、王族派も一枚噛ませれば良いだけ
その王族派も主流派と強硬派に分かれているので、陛下としては主流派の者を付けたいわけだ
王族派の者を後見人に置けば、取り合えず主流派も強硬派も黙るわけか
では、誰が候補になるのかと聞くと
「ガマヴィチ家かファスクラ家しかないであろう・・主流派でお主と面識があり、ドバイクス家とも良好となれば、二家しかあるまい。面識が無くても良いなら、候補はもう少し増えるが」
「どちらか一家には出来ないのですか?」
「貴族派が面倒だ。それならば、面識があるからと理由付けして逃げれるからの」
「避けられませんか」
「すまぬな。こればかりは不可能だ」
陛下からの最終通告で退路は無くなった
こうなったら、ドバイクス卿お義養父さんに仕切ってもらおう
悪く言えば、丸投げともいうが
次に疑問に思っていたことがあったので、陛下に質問する
「陛下、一つ聞いてもよろしいですか?」
「なんだ?」
「貴族の子弟は、領主の子弟も王都で成人の儀に参加するのですよね?」
「そうだ。いくつかの例外は存在するが」
「その例外とは?」
「まずは、本人が病弱だった場合だな。わしらのせいで亡くなったと言われては敵わん。次に、騎士爵と準男爵家は金の問題だな。こちらも、成人の儀を理由にして、領地が荒れては叶わんからな」
「商人と平民は地元で良いのですよね?」
「いや、商人は最寄りの大きな町の商業ギルドでだな。貴族、商人、平民の住み分けは必須だ」
「必要があるようには思えませんが?」
「商人どもが言うには『物流を担っているのだから、住み分けするべきだ!』と当時の王に陳情を入れて、聞き入れなければ、一部の物流を止めた経緯があるからな。正直に言えば、どちらでも良いと思うが、面倒事は極力避けるべきだ」
「自分もそう思います。ほんと、面倒な人が多いですよね」
「全くだ」
二人して溜息を吐いた直後、ガマヴィチ財務卿が袋を持ってやってくるが
「陛下!勝手に予算を使われては適いません!」
部屋に入ると共に、陛下に苦情を入れる
若干、息を切らしながら、顔を少し赤くし、陛下に苦情を言う
「必要経費だ」
と陛下は言うが、ガマヴィチ財務卿も言い返す
「陛下は、グラフィエル卿に甘すぎます!義息子になるのは理解していますが、それを加味しても甘すぎます!と言うか、家族にも甘すぎます!」
そこからは、陛下の家族へした行動の暴露話が始まった
陛下はその話を右から左へ聞き流してスルー
その態度を見た財務卿は「陛下!」と声を荒げるが
「そうだ。グラフィエルの後見人はお主と軍務卿だからの。後はドバイクス家も入るから頼むぞ」
陛下のこの一言に、口を開けて固まる
数秒してから「陛下!また勝手に!」と怒る
どうやら、火に燃料を投下した陛下
そして陛下はそそくさと部屋を後にした
残された俺と財務卿であったが
「グラフィエル殿も、陛下に振り回されて大変よな」
財務卿が少し憐れむような眼で俺に言葉をかける
その言葉に対する返答は、たった一つしかない
「いえ、自分も陛下にご迷惑をかけていますので」
ただ、お互いに溜息が出たことはしょうがないと思う
俺もガマヴィチ財務卿も陛下と王妃に振り回されている部分は確かにあるのだから
今日、少しだけ、ガマヴィチ財務卿と仲良くなった気がする
リアル事情で今年もあの言葉が言えない(´-ω-`)
察して下さると助かります




