8-3
・2021年8月21日付
細部調整
・2023年5月26日付
細部調整
メットで顔を隠したナイトブレイカーが黒のシュヴァリエと共に向かった先、それは先ほどのゲーセンから数百メートル程度しか離れていないARフィールドだった。このフィールドはマイナーなエリアらしく、ギャラリーは非常に少ない。それでも数百人規模は収容出来る場所らしいが、客はキャパの二割程度。更につけ足せば、ここは観光客が来るような場所ではないともSNS上で言及されている。
「ここならば、問題はないだろう」
ナイトブレイカーが周囲を見回し、置かれているARゲームのジャンルを確認した。その後、データらしきものをシュヴァリエに転送する。その内容を見て、シュヴァリエは驚くしかない。
「これを見せて、どうするつもりだ?」
シュヴァリエとしては、この人物を再び見るとは予想外だったのである。その人物とは、マルスだった。今は、マルス・アガートラームとネームが変化しているのだが――。
「この人物と対戦したい。どうすればいいのか」
「この位のマイナースペースでは彼は来ないだろう」
「しかし、メジャースペースに来る保証もない」
「彼と同じ土俵――つまり、ARバトルロイヤルで戦えばいいのではないか」
二人の議論は続く。ナイトブレイカーがシュヴァリエを誘った理由が、マルスと戦う為にアドバイスが欲しかったらしい。しかし、シュヴァリエもマルスと戦った事は――ないのだ。SNS上では戦ったらしいという話も拡散しているが、それがフェイクであるのは明らかだろう。
厳密にはフェイクと言うより、偽者の黒のシュヴァリエとは戦った事があるのだが――それを本物と思いこんで拡散しているのだろう。
「なんて事だ。SNS上にスクリーンショットがある以上、それを信じてしまったと言う事か」
「まとめサイトや炎上勢力、バズって目立ちたいだけの人間が拡散する情報を鵜呑みにするべきではない」
「こちらの炎上勢力やまとめサイトがいないと思って、油断があったか」
「どの世界でも炎上勢力は脅威と言う事か」
その後、二人は様々な会話をするのだが――そこでナイトブレイカーはマルスに直接会って話をするべきと結論を出す。シュヴァリエには止める権利がないので、あえて何も言及はしない。しかし、どうやって会うつもりなのか――それだけは尋ねる。
「ARガジェットを使えば分かるとは言っていたが、反応がない。だからこそ、ゲーセンでの目撃事例を参考に探していた」
それを聞き、シュヴァリエは何か引っかかるものを感じた。実はマルスだけ、別の蒼流の騎士が呼びだしたという憶測記事もあったのだが――。
同日、草加市内にある別のARフィールド、そこにはマルスの姿があった。今回は舞風は同行していない。向こうも向こうで色々と情報を集めている所だったのである。マルスは以前から何回かARバトルロイヤルをプレイし、そこで何かを取り戻しつつあった。
(やっぱり、そう言う事だったのか)
マルスは蒼流の騎士が言っていた事が真実はありつつも、嘘が混ざっていた事に気付かされた。最初に遭遇した蒼流の騎士、それが偽者なのは既に瀬川プロデューサーなどを初めとして、そこから聞かされている。
その正体がまとめサイト管理人だと言う事も――。既にその管理人は捕まったという話だが、誰が捕まえたのかは不明だ。どちらにしても、なりすましが横行して悪目立ちしようとした人物が『自分が蒼流の騎士だ』と言った可能性も否定できない。
マルスのいるフィールドは市街地エリアではなく、どちらかと言うと商店街を連想するだろうか?
エリアとしては市街地と似ているが、道が狭い、破壊不能オブジェクトが多い、高台に出来そうな建造物が少ない等の難点もある。このエリアを指定したのはマルスではなく、相手プレイヤーだ。外見は、まさかのレッドカイザーと言うのも衝撃だろう。
(どういうあてつけなのか?)
マルスは思う部分はあっても、それを言葉にはしない。下手な挑発等をすれば、それをSNSで拡散されて炎上するからだ。実際、レッドカイザーと言っても大きさは等身大サイズであって、元々の巨大ヒーロー並の大きさではない。レッドカイザーは大きさを若干自由に変えられる設定もある為、そう言う事なのだろう。
「あの対決、どうなるだろうか」
「どちらにしてもマルスが勝つだろう。以前にも類似対戦カードがあった気がする」
「しかし、あのレッドカイザーでは勝てないだろうな。勝率もマルスの方が上だ」
「分からんぞ。もしかすると、始めたばかりのプロゲーマーかもしれない」
ギャラリーからは色々な声があるのだが、両者とも声は聞こえていないだろう。それ位に彼らは集中している。武器に関しては、両者ともに素手と言うよりも近接格闘。マルスの方は様々な武器が使えるはずなのに――である。




