6-2
・2021年8月21日付
細部調整
・2023年5月23日付
細部調整
数分後、舞風は停止した動画を再び再生する為、マウスを動かす。それは蒼流の騎士から届けられたと言ってもいい動画メッセージである。内容はあまりにも自分にとってブーメランだった事もあって、途中で止めてしまったようだ。動画を再生し、その内容を落ち着いて聞いていた。マルスの方も何も言わず、動画の方を見ている。
『あれは企業が出そうとしていた企画書案、それをベースに同人サークルが作りだした――二次創作だ』
『君の場合ならば、おおよその把握はしていると思うが。彼女に遭遇していれば』
案の定だった。蒼流の騎士はガングートの事を知っている。もしかすると、ガングートを呼んだのは蒼流の騎士で間違いない。しかし、ガングートを呼んでプラスになるのかは分からない。別のWEB小説作品で様々なコンテンツ作品の英雄を呼びだす作品はあったが――。
『最後に君が知りたい事を教えよう。既に七つの鍵を所持している英雄は全て呼び終わっている。これからだ。バトルの開始は』
このメッセージは瀬川に送られた動画に存在しない物だったのは、後に瀬川から動画を比較してもらって分かった事である。蒼流の騎士は何を考えて今回の動画を送ったのか? もしかしなくても、計画を早めてシナリオを片付けようと言う事なのか?
「バトルの開始? まさか、あの時のようなARバトルが起きるのか」
マルスは過去に自分が経験したいくつかのバトルを思い出し、それと同じ事を蒼流の騎士が起こそうとしていると考える。レッドカイザーとのバトル以外では、既にモブプレイヤー等と何回か戦闘を行っていた。それを踏まえて、あれの大規模バージョンを起こそうとしているのだろうか?
七つの鍵は集める物だとは言われているが、奪い取るという選択肢だってありえる。向こうが説明していないだけで。
「じゃあ、改めてARバトルを説明しましょうか」
舞風の方も整理したい事がある。蒼流の騎士の目的、それに加えて自分にブーメランしたあのメッセージの真意も知る必要があった。そして、舞風はノートパソコンの別ブラウザを立ち上げ、ARゲーム専門の動画サイトへと飛ぶ。説明するには、そこが早いだろうから。
ノートパソコン上に表示されている動画の一つは、再生数が一万台の物だった。マルスは、これで参考になるのか――と疑っているが。
『ARバトルロイヤル、ARゲームではそこそこ有名なジャンルだ。実際にプレイヤーが一定のフィールド内でバトルを行う物と言った方が早いか』
動画で解説しているのはナレーションであり、動画の方はゲーム画面と言うよりは特撮のワンカットにも見えなくもない。
「この画面は?」
マルスの一言を聞き、頭を抱えていたのは舞風である。あの時の光景を覚えていないのだろうか?
この画面がセンターモニターにも表示されるゲーム画面のメインである。プレイヤー視点だと、分かりやすくプレイヤーアバターが表示されているはずもないが。
「丁度、この動画の題材に使われている対戦動画があなたの戦っていたプレイヤーなのよ」
いちいち他のプレイヤーネームを覚えている訳はないが、舞風が言及すると何かを思い出したかのように手を軽く叩く。
「あのプレイヤーから見て、向こうにいるのが――」
「そう言う事。マルスよ。丁度、逆視点で解説している様な動画があったから、ブックマークに入れておいたのよ」
「そういうことか」
「ARゲーム各種は、アドベンチャー等のジャンルでない限りはプレイ動画の投稿は自由――だからこそ、こう言う事も出来る」
「プライバシーとかはどうなる?」
「その辺りは問題ないわ。マッチングの際、動画投稿に同意しない場合は設定でNGに出来るから」
そのような事を考えなかったマルスだが、舞風に言われてみると――そういう設定画面も出ていたかもしれない。面倒な設定は飛ばしてプレイしていた関係もあって、そうなってしまったのだろう。
動画の内容は、プレイヤー視点からARバトルロイヤルを解説する物だった。ルールとしては単純なものであり、ライフゲージをゼロにすれば勝ちと言う物である。三本勝負のような格闘ゲーム的な物ではなく、全体での戦力ゲージが存在し、撃破されると一定量が減る物らしい。
レッドカイザーと対戦した時の物は一対一タイプの物だったが、あのプレイヤーと対戦した時のタイプは二対二タイプの物である。その為、コストが決まっており、使用するユニットによってコストが異なるのだ。マルスはコスト3、あのプレイヤーは2だったらしい。お互いに戦力ゲージ6の状態で争い、ゲージをゼロにすれば勝利となる。
「ジャンルとしては色々あるけど、基本はゲーセンに設置されているゲームと似ていたりするのよ」
「それで大丈夫なのか?」
「草加市では大丈夫でしょう」
「格闘ゲームでは類似システムが多いのは宿命なのは分かるが、他のジャンルは――」
マルスが何か言いたそうな雰囲気だったが、それを止めたのは舞風である。何故に止めたのかは分からないが、下手な発言が状況を複雑化させる事もあるのを分からせる為かもしれない。




