5-6
・2021年8月20日付
細部調整
・2023年5月23日付
細部調整
あいね・シルフォードのバトルが終わり、モニターエリアから別のフィールドへと移動を考えていた四人はある一団を目撃する。見た目こそはスーツを着た一般のサラリーマンに見えるだろう。しかし、そうとは見えない決定的な理由もあった。
彼らが団体行動だった事もあるのだが、逃げてきた方向がどう考えても、あるARゲームのフィールド近辺。怪しいと思わない方が不思議だろう。
(あれは、まさか?)
マルスがこの一団をまとめサイト勢力と気付いたのは、彼らが持っていたタブレットに表示されていたのが――。
(なるほど、あのサイトは――そう言う事かな)
瀬川プロデューサーもマルスの表情を見て、状況を無言で察した。ここでまとめサイトを捕まえれば、勢力を足止めする事も可能かもしれない。しかし、下手をすればガーディアンを敵に回す。どちらが瀬川にとって不利なのかは火を見るより明らかだろう。それを踏まえ、瀬川は手出しをしない事にしたのだが―ー。
「貴様たち、まとめサイトの管理人だな。不特定多数のコンテンツを炎上させ、私利私欲を満たそうとする――」
パーカーのフードを深く被って顔を隠し、その外見は舞風を連想させる。パーカーから見える銀髪はウィッグだろうか? 彼女が持っているARガジェットは、明らかに現地で売られているガジェットであり――架空の物ではない。それを踏まえても、ある種の私服ガーディアンかそれこそ私服警官の類、探偵を疑う。
しかし、探偵に依頼してまでまとめサイトを閉鎖して欲しいというアイドルや歌い手、実況者等がいるだろうか? それに逆に実在アイドル等であれば、摘発して欲しいと願うのはまとめサイトではなく暴走する二次創作勢力のはず――。
(あの銀髪、まさか?)
自分と瓜二つにも見えるような外見をした人物を見て、舞風は言葉を完全に失った。あの時に見た人物と同一なのかは不明だが、明らかにあの銀髪は――。
「貴様、蒼流の騎士の回しものか!」
別のサイト管理人がARガジェットを取り出し、それを変形させて何かを呼び出そうとする。しかし、鍵の方はエラー表示で起動はしなかった。どうやら、この通路エリアではARガジェットがゲームモードでは動かない様子。
「蒼流の騎士か。彼の発言は信用に値しない。神にでもなったつもりでいるような――」
「アレが神だと!? 蒼流の騎士が神ならば、我々は神すらも超える存在のはずだ!」
「他人の不幸などでバズったり、悪意を広める為だけにSNSを炎上させるお前達を紙だと?」
「紙、ペーパーだと! 馬鹿にするのもいい加減にしろ」
パーカーの人物は、まとめサイト勢力を神ではなく紙と言った。そして、管理人の一人は逆上をする。紙と神を間違えた、とこの段階では考えていたのだが――実際はそうではない。明らかにパーカーの人物はまとめサイトを存在に値しないと断言したのだ。
「こっちも下手に手を出す事はしない。まもなく、ガーディアンも来るだろうな。このレベルの騒動であれば、SNSで拡散する連中もいる」
「拡散はさせておけばいい。その後、我々がコントロールすれば別コンテンツ勢力による炎上商法だとシナリオを書きかえられるからな」
その一言を聞いたパーカーの人物は、被っていたフードに手をかけて脱ぎ――。更には、舞風もパーカーの人物の素顔を見て改めて驚くしかなかったのである。
「容易にSNSをコントロール出来ると宣言し、他者の仕業と逃げの準備までする。そう言う貴様たちに、SNSを使う資格などない!」
間違いなく、彼女はガングードだった。正確には、ガングードの名前を持つプレイヤーが操作するドールなのだが。その顔を見て驚くのはまとめサイト管理人も同じである。明らかに敵に回してはいけない人物を、また敵に回したという意味でも。
数分後、ガングートの発言通りにガーディアンが駆けつけた。厳密には通報ではなく、監視カメラの類で異常を発見したらしく、それで駆けつけたようだが。
「これで勝ったと思うなよ。他の都道府県からまとめサイト勢力が、お前達を包囲していくだろう。ヴァーチャルレインボーファンタジーを使ってな」
(ヴァーチャルレインボーファンタジーだと? まさかな――)
「まさか、あれを始動させている――人物が、いるの?」
管理人の言葉、それに過剰反応したのは舞風である。表情で冷静を装うとしても無駄な程に、焦っているのかもしれない。瀬川の方は何となくだがヴァーチャルレインボーファンタジー周辺で異変が起こっている事は分かっており、これで異変が事実だと言う事を知った事になる。
まとめサイト管理人がいなくなってからは野次馬も減り、センターモニター付近にギャラリーが集まる程度には落ち着きを取り戻す。基本的にこのARフィールドエリアでは下手な騒動を起こすのは禁止されており、ガーディアンが出動する事になる。
入り口にもさりげなく特殊な金属探知機なども設置されていたり、大規模な事件や事故が起きないように対応されているようだ。
『お前がガングートだな』
ハヤト・ナグモの持っていたARガジェットから彼女の姿を見ていたレッドカイザーが、目の前にいるガングートに声をかける。厳密には彼女がガングートな訳ではないのだが、彼女がドールである事を説明出来る人物もいない。
目の前にいたある人物の様子を見て、状況説明が出来る適切な人物がいない状況ではガングートも半ばあきらめていた。
「一応、そう言う事にしておこう。蒼流の騎士は、それも百も承知で呼んだようだが」
『君が召喚されたという事は、向こうは異世界転移を共通ワードに呼びだした訳ではなくなったようにも見える』
「向こうもあいねが単独行動をした段階で、何かを察して法則を変えたようだ。憶測にすぎないが」
『やはり、ここで法則を含めて仕切り直した方が――どうした、舞風』
レッドカイザーの提案もあり、ガングートと名乗る事には異論はない様子だが――それに対して様子がおかしかったのは、舞風である。しかし、ガングートの方は何かを察して口を開く。
「覚悟を決めろ、舞風。お前があの作品を生み出した事で、こうなる事が分かっていた、と」
明らかにガングートの発言は、彼女の生みの親が舞風である事を認めている様な物である。しかし、舞風の方は体が震えているらしく――話にならないような状態だった。




