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・8月18日付
細部調整
誤植修正:ゲリラ公開手→ゲリラ公開
・2023年5月14日付
行間調整。
晴天の空の下、それを草加駅前の大型モニターで見ていたのは大勢のギャラリーである。マルスが見ていたような浮遊大陸はないのは当然だが。彼らが見ているのは、新作ゲームのプロモーションビデオ。しかし、その詳細は伏せられているまま。だからと言ってゲリラ公開と言う訳でもないが。
「アレが新作なのか?」
「ARゲームか? それとも新手のジャンル?」
「ファンタジーに見えるが、何処のメーカーなのか」
「ファンタジー? 異世界転移や異世界転生とかではなく?」
モニターを正面から眺めるギャラリーもいれば、草加駅のホームからモニターの映像を見る電車待ちの人々もいるだろう。様々な人物がPVを視聴し、SNS上でも拡散されている。同じPVは既に公式サイトにも公開されているようである。
しかし、この映像が実は大きな意味を持っていると思い知る事になるのは――それから数時間後の事だった。
そして、映像はあのシーンを写し出す事になる。それは勇者であるマルスが、マイアを守ろうとして帝国軍の隠し玉とも言えるだろう巨人を相手にしていた時――。
「マイア!! 早く、君だけでも――」
マルスの元に駆け寄ってくるマイアに向かって、彼は叫ぶのだが――。その声がマイアに届く事はない。彼の叫びは途中から声が小さくなっていき、マイアの目の前からは姿を消してしまっていたのである。
当然だが、この映像はSNSを炎上させようとする勢力の作ったフェイク映像の類ではない。公式にメーカーが草加市から許可を得て流している映像だ。それなのに、途中から映像は予想外の展開を迎える事になる。別の場所から見ていた映像を作ったスタッフが慌てている様子を見る限り、この映像自体は向こうが想定していた物とは違うらしい。
「一体、何がどうなってる?」
「サイトの動画は問題がないようです。あの動画だけが――」
スタッフも動揺している次の瞬間、映像は止まり――何も告知が流れることはなかった。生放送の類であれば、画面が真っ黒になっても『しばらくお待ちください』などのテロップが出るはずだ。
しかし、これは生放送でもなければ生配信等の類ではない。明らかに最初から新作ゲームの告知PVとして配信するはずだったものだ。その映像が変更される事があるのだろうか? 事前に映像を収めた媒体がすりかえられた可能性も否定できないが、それだとSNS上では事件として拡散してもおかしくない。
「一体、何が起きたというのだ?」
「他社の妨害はあり得ない。それに、草加市でSNS炎上でも行おうとすれば――」
それもない以上、スタッフはどうする事も出来ないのだ。一体、どうやって事態を打開すればいいのか? 完全に打つ手はなかったのである。
マルスが次に目覚めた場所、それは先ほどまでいたような森とは違っていた。しかし、空を見上げると浮遊大陸が見える。浮遊大陸は見えるのだが、その形状はあの時に見た物とは若干違う。目覚めたのは数年後、もしくは――?
「こ、ここは?」
マルスは周囲を見回し、状況を理解しようと試みるのだが――自分でも覚えていない箇所があって、状況の把握が難しい。何処か怪我をした訳でもないのに、記憶だけが思い出せないのだ。一体、彼の身に何があったのか?
『勇者マルス、ここは君のいた世界とは違う』
声のする方向は南の方角か――と思い振り向くと、そこには明らかに帝国軍とは違う鎧を着た人物が立っていた。その声は男性のようだったが、マルスには聞き覚えのない。もしかすると、この声を『聞いた事はある』かもしれないが――面識はないだろう。
「世界? 一体、何を言いたいのか」
マルスは勇者が使える剣であるジャスティブレイカーを展開しようとしたが、出てこないのだ。もしかすると、先ほどのトラブルか? その時はアガートラームにエラーがあったようにも見える。そして、白銀の籠手を確かめると――形状が変わっていたのだ。
『その籠手、アガートラームを見れば明らかだろう。この世界が、君がいた世界とは違う事に――』
「じゃあ、ここはどこなんだ!」
マルスが叫ぶのだが、それに反応して数人程のギャラリーが集まってくる。一方の騎士は全くリアクションを見せる事がない。向こうは分かっているのだろうか? その真意はマルスに分かるはずもなかった。
『ここは、君が異世界転移でやってくる前の日本と――説明した方が分かるかな』
「日本? まさか?」
目の前の騎士が言う事、それを理解する前にマルスは把握した。間違いなく、ここは日本である。しかし、立ち並ぶビルや建築物、それに町のイメージもマルスがいた日本とは違う。もしかすると、自分のいる日本と違うだけだろうか?