2-4
・2021年8月18日付
細部調整
読み仮名修正:そうりゅうのきし
誤植修正:独等→毒
・2023年5月16日付
行間調整。
色々と舞風から話を聞くも、マルスにはあまり耳に入らないような内容だった。自分が実はゲームキャラであるとか、別のゲーム世界から来たとか――特に興味はなかったのである。その中で蒼流の騎士の『七つの鍵を集めよ』の言葉、それが非常に重くなっていく。
夕食を一階の広間で食べている時も、マルスはあまり自分から話をするような状況ではなかった。自分が別の世界から日本へ転移してきたと思ったら、まさかの展開だったからである。テーブルには二人前と言うには若干多いような量の弁当や総菜等が並ぶ。
「コンビニ弁当である事は否定しないけど、腹が減っているなら食べたほうがいいと思うよ」
舞風も心配しているのは事実だろう。しかし、それは自分がゲームのキャラクターだから――という理由があるのか? それ以外にも彼女は何か考えているかもしれないが、気にしたら負けだろう。
目の前にあるのは、自分も日本で見覚えのあるのり弁当だ。それに鶏の唐揚げ、コロッケと言ったような惣菜も一緒に並ぶ。彼女が料理下手という訳ではなく、単純に自分の事を考慮していなかったのかもしれない。
(スタミナが回復しないのは――)
ふと色々な事が頭をよぎるが、特に毒が入っている訳はない。この辺りは当然だろう。そして、ご飯を一口食べた時――ある事に気付く。箸を自然に扱える事でもなければ、それがのり弁当と認識出来た事ではない。
「おいしい――」
率直に言えば、自分の世界では体験できなかった味覚と言う物があったのである。グルメ小説であれば、細かい料理描写はあるだろうが――その劇中の人物が本当に食べた味を感じるのだろうか?
それを踏まえると、現実世界に来た事でこれだけはよかったのかもしれない。何か、デジャヴを感じるのは気のせいと思いたいが。
翌日の午前九時、舞風の自宅で目が覚めるマルスだったが、何か違和感を持つ。部屋は昨日と同じ部屋だが、舞風がいないのだ。既に出かけたのであれば、人の気配はないだろう。しかし、マルスは何処かにいるのを気配で把握したのである。
舞風は広間でテレビをチェックしながらパンをかじっている。ただし、パンと言っても食パンではなく総菜パンだ。
「一体、何を――?」
マルスは舞風の姿を見て驚く以上に、予想外のリアクションを取るしかなかった。パーカー姿なのは変わらないが――。
「マルス、そんな些細なことで驚くのか? そこではないだろう。本来驚くべきなのは」
舞風はマイアと同じ女性だったのである。喋り方や部屋の様子、その他にも色々とあるが――そうは見えなかったのだ。文字通りに騙された――と思わざるを得ない。しかし、助けてくれたのは事実だろう。
舞風は見ているテレビ番組が株式情報を扱う経済ニュースである事に驚くと思っていたようだが、逆にマルスの反応を見てやり過ぎたと思った。
(顔はマイアに似ているかもしれないが、彼女は別人だ)
改めてマルスは、彼女がどういう人物なのかを考え直さないといけないと――。昨日の話もそうだが、完全に信用出来る人物なのかも疑わしい可能性だってある。
「一つだけ言っておく。私はマイアとは別人だからな。正直、あのデザインを見て似ているとは驚かされたが」
率直に自分をマイアと重ねるのは止めた方がいい、そう舞風はマルスにやんわりと注意した。警告ような部類かどうかは定かではない。しかし、マルスとしては舞風を頼るしかないのは事実だ。割り切れない部分もあるが、割り切る事も重要なのかもしれない。