表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/112

第1話:出会い、それが全ての始まり

・2021年8月18日付

細部調整。内容に変更はありません。


・2023年5月14日付

行間調整。

 その日、彼らは現実を直視する事が出来なかったのである。周囲にいるギャラリー、まるで監視されている様な気配もした。彼は単独でここに来た訳ではない。そして、彼はこの世界を知っていたのである。自分が過去にいた場所――そう認識していた。覚えがあるのは間違いないだろう。あくまでも『異世界転移』の延長線で日本に戻ってきたのだ、と。


 魔法少女、ヒーロー、巨大ロボット、歴戦の傭兵、等身大に近いフィギュア――それぞれが違う外見であり、勇者である彼とは縁がない。コラボならば認識もありそうだが、そう言った気配もないだろう。


 それでも――彼らはある存在と戦っていたのである。『蒼流の騎士』によってこの世界へ召喚され、そこで「七つの鍵を集めよ」と告げられた、異世界転移で現れた七人。それが彼らなのである。



 それから数週間前、時を若干さかのぼる。一人の青年は朝日がわずかな程度の森をひたすらに走り続けた。彼を狙っていると考えられる存在から逃げるためだ。追いかけてくるのは足の速さに似合わないような、自分よりも重装甲の鎧を着ている兵士。肩に刻まれている紋章を見る限り帝国軍、敵である事は間違いない。


 周囲を見回しても、整備された森ではないので逃げ道に適切な道はないだろう。それを把握した上で、彼は自分の後ろにいる別の女性と共に逃げ続けていた。


(このままじゃ、まずい)


 青年は空の方を見上げた。自分のいる森の中とは別に、浮遊大陸が存在する世界だ。今までいたような世界とは比べ物にならない。WEB小説ではお決まりなファンタジー世界とも言える場所で、勇者マルスはひたすらに逃げ続けている。彼は元々、この世界の住人ではないのだ。いわゆるWEB小説では定番と化している異世界転移者、その一人だったのである。


 帝国軍に捕らわれた姫を救うため、共和国の切り札である勇者として異世界転移でこの世界へとやってきており、本来であれば彼は日本人だ。しかし、その時の記憶がない。異世界転生ではないのに日本にいた時の記憶がない。一種の秘密主義か、それともご都合主義なのか?


「マルスさん、これ以上迷惑を賭ける訳には――」


 逃げ続けるマルスに声をかけてきた女性、彼女はマイア。帝国が幽閉していた少女なのだが、その詳細は分からない。服装は現代とは違うドレスではなく、ズボン系の軽装服だろうか。逃げる為に着替えた可能性も否定できないが詳細は不明だ。一つだけ分かるのは、自分が帝国へ向かう途中に逃げている彼女と遭遇し、合流した事だけ。マイアに関しては謎が多い。


「君を守らないといけない。そう、自分が思っているから」


 マルスはマイアを守ると言う指示を受けた訳ではないのだが、彼女を放置する事は出来ないと考えて逃げているのである。しかし、帝国軍の兵士は確実にマルスを追い詰めていた。マルスが森を抜けた先にいたのは――。


「貴様が来るのは――想定済。我々は、彼女に用があるのですから」


 いかにも貴族と言う様な外見の男が森を抜けた二人の行く手をさえぎる。彼は帝国軍なのは間違いないが、その名前などは分からない。このままでは、マルスは負けてしまう可能性があるだろう。多数に無勢、不利であることには変わりない。



 戦うしか選択肢のなくなったマルスは、右腕の白銀の籠手から槍と思わしきものを呼び出した。そして、それを振り回し始め、帝国兵に向かって突撃を始める。相手は一人なのに、マルスの槍捌きに翻弄されているのは帝国の方だ。異世界転移した事による追加能力ではなく、別の何かだろう。


 それに加えて、マルスは槍以外にも短剣や細身の剣も使いこなす。器用と言うよりも、そうしたスキルで戦っている可能性も高い。彼が異世界から転移したという事で転移時に手に入れた能力と言うには理由付けが弱く、マルス独自のスキルかもしれない。異世界転移者に共和国が頼っているのは、こういう事情があるのだろうか?


(あの人は、やはり――)


 マイアはマルスの能力を見て、確信していた。彼が選ばれた勇者の力を持っているのだ、と。マルスを呼びだしたのは共和国であって、マイアではないのだが――。


「これならどうですかな?」


 貴族の男が右手の指を鳴らすと、次の瞬間に姿を見せたのは鎧の巨人である。この世界で言うと召喚獣と言うべきか? マルスの方も大体の事は把握していた。召喚獣にも属性があり、その属性を突けば容易に倒せると――。


「危ない!!」


 しかし、マルスはあり得ないようなニアミスで、召喚獣の攻撃に耐える事が出来ず――致命傷を受けてしまった。マイアの声が聞こえた頃には時が遅く、呼び出したシールドで対応するしかなかったのである。


 本来ならば、あの巨人は火属性のはず――そうマルスは考えていたのだが、実際には違う属性だったのに加えて、彼が装備したのは――。


「そちらが様々なゲームから知識を得ているのは想定内。こう言う事も出来るのですよ」


 明らかに貴族の男はマルスの能力を知っている様な口ぶりだ。彼にはなった攻撃、それは風の刃だったのである。その刃の直撃を受ければ、いくらなんでも一撃で倒れてしまうだろう。それでもマルスはギリギリの所で踏みとどまった。



 次の攻撃が来たら、完全にアウトだろう。そう考えたマルスは、白銀の籠手のリミッターを解除しようとする。しかし、それはある表示と共に使えなかった。何故、これが表示されたのかはマルスも気付かない。


【システムエラー。アガートラームの封印は解除できません】


 白銀の籠手、アガートラーム。それは、自分が呼ばれた際に託された武器だ。異世界転移前に与えられたのか、共和国から託されたのかは分からない。それが動かないなんて、ある物なのか? 意識が遠のいていく中、マルスは――。


「マイア!! 早く、君だけでも――」


 マルスの元に駆け寄ってくるマイアに向かって叫ぶ。しかし、その声がマイアに届く事はない。いくら叫んでも、目の前の光景はノイズが多くなっていき、次第に――別の景色へと変化していく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ