#94 血の赤
門番アーノルドと別れて、北の森へ向かって歩く。
「いい加減歩くだけじゃつまんねぇな」
と唐突に思い、ある物をイメージしてみる。生み出したのはスケートボード。こんなのも出るんだな。
乗ったことあるかはわからんが、乗り方は完璧にわかる。さすがは武器ガチャだ(スケボーが武器ってのは謎だが)。地面を蹴って漕ぎ出した。
さっきの話、レオンやジャイロの話は心配っちゃあ心配だが、わざわざ俺が首突っ込む話でもねぇよな。
割と強いオーガを討伐するんだから、頭を戦闘モードに切り替えねぇとだし。
「でもこの前一方的に倒したし、そんなに深く考える必要はねぇかもしれんな……ん? あれは?」
顎に手を当てた俺は、前から近づいてくる人影を見つけた。最初は一人に見えたが、どうやら二人がひと塊になってるようだ。
「おい、誰だお前ら――いやジャイロじゃねぇか」
俺の方からも近づいて声をかけてみるが、その途中で片方の男が真っ赤なソフトモヒカンなことに気づいた。
どうやらジャイロは、フルプレートの騎士に肩を貸している真っ最中らしいが。
――しかも。
「……ああ、マコトか、良かったぜ。ちょっと手伝ってくれよ。怪我人ってどうにも重くてよ」
「そりゃ……血か……?」
俺にヘルプを求めるジャイロが冷や汗をかいてるのも納得ってもんだ。
肩を借りてる騎士は、横腹の辺りから赤黒い血を垂れ流していやがる。どうなってんだ、鎧ごと切り裂かれてるみてぇだが。
「……ん……マコト……だと? とにかくジャイ坊も……マコトも……気をつけろ、あの男がまだ……近くにいるかもしれん」
「今はあんまし喋るな、レオン」
騎士――行方不明だったレオンが掠れた声を発する。相当疲れてそうだ、腹抉れてるんだから当たり前か。ジャイロのことジャイ坊って呼ぶのは相変わらずだけど。無事とは言えんがひとまず見つかって良かった。
「よし、俺がこっちから支える。急ごうぜ」
「助かった。だがレオンの奴ずっと『あの男、あの男』って言ってんだ。この傷、やったの人間なのかな……魔物じゃねぇのかな……」
「……わからねぇこと考えてもしょうがねぇ。とりあえず王都まで戻って、こいつを診療所まで連れて行かねぇと」
「お、おう」
この際オーガだのランクアップだの言ってる場合じゃねぇ。ランクなんてくだらねぇもの、命には代えられねぇんだから。
俺はスケボーから足を離して消滅させ、ジャイロの反対側からレオンに肩を貸し、三人で歩く。おぼつかない足どりだが、その内慣れるだろ。
「ちょうどアーノルドがこいつの話してたんだ。ドラゴン見に行ったっきり帰ってこないってよ。レオンはどこにいたんだ?」
「北の森の入り口側。レオンがドラゴンを監視してるっていうのは、オレも知ってたから簡単に見つかった。たぶん帰ってくる途中に何かに襲われたんだろ」
「ついてねぇなぁこいつは……」
ドラゴンに重傷負わされて体が動かなくなったとか、とにかくレオンは運が無い人間らしい。大変だな。
「――ッ!! マコト、止まれ!!」
突然ジャイロが叫び、足を止めた。言われた俺も足を止める、その瞬間だった。
――目の前を、何かが掠めたような感覚。風を切る音がしたが、感覚と音があっただけで何も見えねぇぞ。
「お、おいジャイロ! なんだ今の」
「わからねぇ! とにかく今わかることは……」
冷や汗が止まらないジャイロは、歯を食いしばって唾を飲み込む。そしてゆっくり口を開け、
「ここに、オレ達以外の何かがいるぞ」




