#92 ランクアップが近い
「あと一回ですよマコトさん。あと一回の依頼を達成すれば、めでたくDランク冒険者に昇格です!」
ルークに衝撃の告白をした翌々日。俺はギルドに来ていた。別に何か考えがあるワケでもねぇ、ただ他にやることねぇから依頼を受けようかと思っただけなんだが、
「ランクアップか。Eに慣れすぎて、そのシステムを忘れるとこだったぜ」
俺は特にそういうのに興味が湧かねぇタイプなもんだから、受付嬢の言葉に少し驚いちまう。
Eの次はD。ってことはゼインと同じランクになるな。子分なのにようやく並ぶのかよ……
「まぁあと一回ってんなら、やらせてもらうが。種類とか何でもいいのか?」
「はい、そこはお気になさらず」
だったら適当にいくか。と掲示板を眺めて、『オーガ討伐(タイトルまでしか読む根気が続かねぇ)』の依頼書を引っ剥がす。そして渡すが、
「え……これはさすがに無謀では……?」
「本来倒せるのはCランク以上だっけ? そりゃ関係ねぇな。とっくに一体倒したことがある」
「……私の目の前でブラッドさんを倒しただけあります……Dランクと言わず、BやAまで飛ばしてあげたいくらいですね。できませんが」
ちょっと引き気味な受付嬢に内容を読んでもらって、改めて『北の森でのオーガ討伐』の依頼を受けることに。内容には「太刀打ちできそうもない」とか書いてあった。
う〜ん、やっぱり気になることがある。
「最近、こういうの多くねぇか?」
マゼンタと一緒にいた時は『十年に一度の魔物の群れ』、エバーグリーンと一緒の時は『北の森でオーガの目撃情報多め』。ただの偶然で気にしすぎかもしれんが、魔物のトラブルとか強い魔物の目撃情報が頻繁に起きるような。
「と言うと?」と聞いてきた受付嬢に今の話をしたが、
「魔物の群れは時々やって来るからわかりませんが……オーガなんて強い魔物、常にいるなんてあり得ないと思います。確かに何か異常が起きているのかもしれませんね……」
あり得ないって言い切れるのは、たぶんギルドで受付するなんて変な仕事をやってるからこそなんだよな。冒険者達に情報を提供するのも役目の一つだからな。
「なるほどな。にしても、ギルド来るといっつも受付あんただな。他も見たことはあるがほんの一、二回だぞ?」
「人気無いんですよ、ギルドでの業務。受付は私の他に男性一人しかいませんし」
全部で二人しかいねぇのかよ! 確かにこんな荒くれ者(主にブラッドの子分達)ばっかのとこに好きこのんで働きに来るのなんか、だいぶ人を選びそうだがな。
それなのにギルドにとっては奇跡だろ、綺麗で若い女の子がメインで受付してくれるってんだから。
「じゃ、そろそろ行くとしよう。おっさんの無駄話に付き合わせちまって悪いな」
「いえいえ! ではお気をつけて」
笑顔で見送られ、ギルドを出る。出た瞬間に何か、異様な気配を感じて――
「マコトっ! ついて行ってもいい!?」
プラムがどこからか現れ俺の背中に飛び乗ってきて、一瞬でおんぶの姿勢になった。楽しそうなとこ悪いが質問の答えは、
「ダメだ。今回ばっかりは敵が強すぎて危ねぇよ」
「ケチ!」
「ケチじゃねぇんだよなぁこれが……お前の身を心配しての判断だ。おとなしく従ってくれクソガキ」
「ちぇ〜……」
とぼとぼと歩き去るプラム。
こんな短くても、やっぱりあいつとの時間は癒される。なんでだろう? 見た目や声はもちろんだが、言葉の一つ一つが聞いていて心地がいい。ゼインのロリコンが伝染ったって説は勘弁だが。




