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能力ガチャを引いたら、武器ガチャが出ました(笑)  作者: 通りすがりの医師
第三章 異世界人と交流を深めろ
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番外編 アンラッキー・デイ

 ――これは、ルークに転移のことを打ち明けた翌日のこと。特別でもなんでもない一日のお話だ。




「さ〜て、今日も適当に依頼を受けようかね」


「私も行く!」


 今日はプラムありでの依頼か。じゃあトレーニングになるレベルの丁度いいヤツを見つけねぇとな。

 と、掲示板に『エリートオーク討伐』の文字が。


「『エリートオーク』ってのは、何だか知ってるかプラム? オークの仲間みたいなもんか?」


 聞かれたプラムはちょっと驚いた顔をした。


「それ、オークを取りまとめるオークだよ。普通のオークより一段階くらい強いボスって感じ?」


「マジか。んじゃこれ行こうか」


 一段階くらい強いとは、この前オークを倒したプラムには丁度いいんじゃねぇか?


「マコトだいぶスッと文字読めるようになったし、もう少しで完璧になるね。先生としてはうれしい限りである」


「そりゃどうも、生徒としても光栄です」


 まぁ確かにプラムは異世界語の先生なんだが、この会話はよくわからんな。よくわからん。



▽▼▼▽



 街を出て東にまっすぐ進むと村があるそうだ。その周辺にオークを率いるエリートオークが出現したって話だ。

 東にまっすぐ行くと、因縁の『東の墓地』があるんじゃねぇかと思ったんだが……そんなことは無かった。東は東だが、まっすぐのルートから少し外れてるらしい。


「あ、村あった。じゃあこの辺にいるんだねエリートオークが……村に入んなくてもよかったんだっけ?」


「連絡はついてるから必要ねぇとさ」


 受付嬢はそう言ってたはず。伝書鳩みてぇに、なんか鳥でも使ってんだろ――


「ブゴオオオォォ!!!」


 突如、とんでもない声量の咆哮が響く。


「うるさっ!」

「なんだ今の!?」


 村の方を向いてた俺らは聞こえた方を振り返る。そこにはいつもの茶色いオークが五体くらい。そしてその先頭に、


「あれがエリートオークか」


 紫色の体毛を持つ、少しだけ体の大きい個体が。さっきのもこいつの仕業だな、となんとなくわかる。


「ブゥゴオオオオォォ!」


 エリートオークがまた天に向かって咆哮を上げると、後ろの二体のオークが呼応するように動き出す。俺達の方に突っ込んできやがるぞ!


「いけっ〈ファイア・ジャベリン〉!」


 プラムは、前にも披露してた炎の槍の魔法で一体のオークの胸を貫き、沈める。

 ルークに褒められたからって早々に名前付けおって。


「フゴフゴッ!」


「よっしゃ。俺の相手はてめぇだな?」


 走ってくるもう一体。俺はいつものように武器ガチャを発動させる。さぁこっから俺のターン――


「なっ……消しゴム……またかよ!?」


 握った右手に現れたのは、よく消えそうな消しゴム。お勉強とかには役立ちそうだが戦闘なら真っ先に捨てるだろ。

 まったく……この前もリールを守る時これが出たっけか。トラウマになりそうだ。いや消しゴムがトラウマって意味不明だな。

 とりあえずオークに投げてみるが効き目は無く、俺は突進をくらって弾き飛ばされた。


「ぐえっ!?」


「マコト何やってんの!」


 この間にもプラムは他のオークをもう一体倒してやがる。何やってんだ俺は。立ち上がって体勢を整える。


「クソ、次は今みたいにいかねぇぞイノシシ野郎。この武器ガチャの威力をとくと見よ――なんだこりゃ!?」


 続いて出てきたのはプラスチック製の、いわゆるピコピコハンマーだ。玩具じゃねぇか! どうなってやがんだ……まぁとりあえず使ってみよう、武器ガチャとは誰よりも長い付き合いだし。


「フゴォ!」


 ――ピコ! ピコピコ! ピコ! ピコッ!


「フゴォ!!」


「ぶへぁっ!?」


 やっぱり全く効かん。オークの拳が俺の顔面に直撃、またも吹き飛ばされちまった。


「クソ、今度こそ! 武器ガチャの威力を――なんだこりゃぁぁ!?」


 空き缶が出てきた。いやもしかしたら何か仕掛けがあるかもしれんぞ。とりあえず投げてオークに当ててみるが、


「全ッ然効かねぇじゃねぇか! 死ねコラ!」


「ブギャッ!?」


 怯みもしねぇから普通に飛び膝蹴りを炸裂させ、一発KOしてやった。が、今日はどうしたんだ。こんなに立て続けにハズレたのは初めてだぜ。

 今みたいに体術でなんとかすりゃいいって話もあるが、今後武器ガチャがこのままじゃいかん、元に戻るのか試さねぇと。


 俺にかかってくる最後のオーク。こいつを倒せば、後はエリートオークとかいう紫イノシシ野郎のみだ。


「いくぜ!」


 早速、武器ガチャを試す。こんなにハズレてんだ、これ以上の失敗はあり得ねぇ――


「これは……CDか!? また平べったいの十枚セットかよ。投擲系としては一番の大ハズレだが」


 真ん中に穴が空いた輝くディスク。

 平べったい投擲系の十枚セットなら、今まであったのは皿と手裏剣だったな。手裏剣は珍しく真面目な武器だが、皿はどちらかというとハズレだろう。CDのディスクなんてもはや論外だが。


 とりあえず、投げるしかねぇなこりゃ。


「フッ、ゴッ、フゴ!」


 どんどん投げてヒットさせるが、案外これ割れねぇんだな。てっきりパリンといくもんだと思ってた。

 全然効かねぇまま十枚投げ終わっちまって、またガチャる。右手に生み出されたのは……いかにも『パイ投げ用です』って感じの、紙皿に乗っかったパイ。


 ――ベチャ!


 ひとまず向かってきたオークの顔面にパイを叩きつける。視界は塞がれただろうが、これただの罰ゲームだよな。やっぱどう見ても武器じゃねぇぞ。

 顔を覆う白いパイを手で払おうとするオーク。殴れば一発で仕留められるんだが、どうしても武器ガチャの引き運がこのままじゃ納得いかん。だからもう一度生み出す――


 ――ジリリリリリリ!!


「うるせぇなぁ! 今度は目覚し時計かよ!」


 現れた瞬間にやかましく鳴り出す時計にイラつき、適当にぶん投げる。それがなぜかオークの脳天に命中……倒した。マジかよ。


「マコト、さっきからふざけてるの?」


「ふざけてねぇよ! なんだか今日は異常に能力の調子が悪くて――」


「ブゴオオオォォ!!!」


 エリートオークは、呆れたような顔で聞いてくるプラムに応答する暇を与えてくれないらしい。

 ったく、紫とか……このオーク毒々しい色しやがって……


 そんな無駄なこと考えてると、紫イノシシ野郎が自ら突っ込んできやがる。普通のオークより少しデカいから迫力もその分増してるように感じるな。


「さて、両手に一つずつ生み出せば……当たる確率だって段違いになるだろうさ。いくぜ!」


 俺が何か思いついたのに気づいたのか、プラムは何もしない。好都合だ。エリートオークの小手調べも含めて武器ガチャ――


 右手にゴム手袋、左手にスリッパが生み出された。


「ふざけてんのかオイ!?」


「それ私のセリフなんだけど! なんで今日出てくるのみんな地味なの!?」


 いやいや、愚痴を言い合ったってしょうがねぇ。もう突っ込んできてるんだし迎撃しねぇとだからな。まずは右のゴム手袋だ。


 ――ペチン!


 思ったよりは聞いたかな、たぶん雀の涙みてぇなパワーだが……まぁとにかく、有無を言わさずスリッパ攻撃!


 ――スパァァン!


 左手で振り下ろしたスリッパ。頭をはたかれたエリートオークは勢いに首をもってかれて、下を向く体勢に。

 これ、チャンスじゃね?


「唸れ、俺のガチャ……」


 ゴム手とスリッパを捨て、出てきたのはいわゆるマジックハンド。棒の先にクレーンゲームの爪みたいなのが付いてて、反対側にそれを開閉操作するボタンがある。

 戦闘にこれをどう使えってんだ。そう思ったパワーバカである俺は、マジックハンドをただエリートオークの後頭部に叩きつけた。


 ――バキッ!!


「ブ、ブゴ……!」


 棒は折れたが、思いのほか怯むエリートオーク……こりゃ勝ち確だ! マジックハンドを捨て、畳み掛けるように次の武器を生み出す!


「これは……まさか……!? 銃は出ねぇんじゃ……」


 出てきたのは、子供向けアニメとかでよくありそうな形のビーム銃。白を基調としてて、なんか宇宙人とかが持ってそうなふざけた造形だ。


 問題はこれが女神様いわく出せないはずの、『銃の系統の武器』じゃねぇのかってことだ。見た目は玩具だが実際どうなのか。ちゃんと引き金は付いてる……マジでビームでも出たら、俺には女神様を問い詰める権利があるよな。

 ともかく撃ってみりゃわかること。この一撃で終わらせてやる。さらば、エリートオーク。


 ――ピュー……


 は? ビームでもなけりゃ鉛玉でもねぇ。どうなってる。何かの間違い、だよな。もう一発だ。


 ――ピュー……


「水じゃねぇか!! 水鉄砲かよこれ――ぅがっ!」


 エリートオークに頭突きを決められた俺は、偽ビーム銃を捨てて額を押さえて後退する。そりゃそうなるさ。だってあいつは水をちょっとかけられただけなんだからよ。

 さすがに今のは効いた、めちゃくちゃ痛ぇ……


 まったく、嬉しいサプライズかと思いきや……やっぱり人生そう上手く転ばねぇってか。はいはい勉強になりましたよクソったれ。


「……何度も殴られたりふっ飛ばされたりしてるのに。さすが、マコトは頑丈だね」


 後ろに下がってたら、いつの間にかプラムの隣にいた俺。

 プラムの言う通り、普通のEランク冒険者だとオークにもギリギリ勝てる程度って話だ。ってことは殴られでもしたら簡単に死んじまうのかな普通は。


「いや俺だって痛ぇぞ? こんなバカスカ殴られる人生なら、痛みで興奮する体質だったら良かったなぁ」


「何言ってんの!?」


「力を貸してくれって言ったんだよ、プラム。一緒にエリートオーク(あの野郎)をぶっ飛ばして帰ろうぜって」


「え? 今そんなこと言ってたかな!?」


 ツッコミが鋭いのか鋭くないのか微妙なプラム。彼女を信じて、俺は石ころを生み出す。

 両手で石を包むように持って振りかぶり、片足を上げた。



 ――そうだ。この子も戦士なんだ。見せてもらったことがあるじゃないか。師匠譲りの立派な魔法を、立ち振る舞いを。



 そんな想いに気づいたのか。プラムも俺を見た後、杖を正面に向けて構える。

 踏み込んだ俺の手から豪速球が放たれる。


「よし今だ!」


「いくよ、えーいっ!!」


 高速で飛ぶ石ころを、プラムが発射した火の玉が包みこむ。

 炎を纏ってなお進む石。見た目としては手のひらサイズの隕石……あるいは、


「くらいやがれ、〈シューティングスター〉!!」


 小さな流れ星。それはエリートオークの胸を貫き、しばらく進んだところで世界から消滅した。


 プラムの作った炎だけが世界に取り残されて、行き場を失って消えたのは、

 ――なんとなく、儚い感じがしたが。



▽▼▼▽



 ちょっと休憩した後、証拠を持って帰らねぇとダメだと気づいた。エリートオークなんて滅多にいねぇらしいが、やっぱり証拠として確実なのは……首か。

 正直嫌だったが、仕方なく首を切断しようとしたその時――俺は普通に剣を生み出していた。


 女神様の調子が悪かった……ワケではない気がする。女神様は俺をこの世界に送った後、俺の生活にほとんど関与してこない。たぶん能力の管理だっていちいちしてねぇだろう。


 つまり今日は俺が最高にアンラッキーだった。渋々持ち帰ったエリートオークの首で、報酬は無事に貰えたから良かったが。



 今日学んだことは『もっと仲間を頼ってもいい』ってことだ。せっかく仲良くなった人たちがいるんだから……頼りっぱなしはマズいが、お互いに力を合わせねぇとだよな。

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