#8 まさかの二戦目
顔から地面に突っ込んじまった俺だが、かろうじて意識は残ってる。
門番コンビの焦った声だけ聞こえる。そりゃあ、門をくぐらせる気もない不審者が目の前で倒れたとはどう対処すれば良いか、マニュアルにも載ってないだろうよ。
「レ、レオン先輩! こういう時どうするんです!」
「俺が知るか! だがこのままここで倒れてもらってるのも困る。もし誰かに見られれば俺達はもちろん、この『サンライト王国』にまで悪いイメージが付いちまう」
「じゃあ診療所へ連れて行くべきでは……」
「それもダメだ、こんな怪しい奴を入国させるなんて正気の沙汰じゃない」
随分と俺の処遇に困ってるな、想像以上だ。クソ、体に力が入らん。立ち上がる事さえできない。
そういえばこの国、名前は『サンライト王国』ってのか。
「よしアーノルド。こいつを抱えて森まで行け」
「えっ!? まさか……」
「そうだ、捨ててこい」
おいおいおいおい何だよこれ最悪の流れだ。
アーノルドとか呼ばれた男は「信じられない」とか「そんな」とか先輩であるレオンに弱々しく反論してるが、直後の先輩の一喝に黙り込み、俺の方へ近づいて来る。
「す、すみません」
アーノルドは小声で俺に謝罪しやがって、そのまま俺を横に抱えた。
――あのクソガキを追ってるってのに、これじゃあまた逆戻りだ。そんなのゴメンだ。
「俺の方こそすまん」
「え――ごうっ!?」
抱えられたまま、なんとか力を絞り出してアーノルドの顔に肘を打ち込んだ。兜に覆われた顔だが、兜が吹っ飛ぶくらいなんだし衝撃は行ってるだろ。
一応アーノルドには悪意が無さそうだったから先に謝っといた。ほんと、申し訳ない。俺は食料を得てクソガキをとっちめてやらないと気が済まないんだ。入国の理由としてくだらねぇけど。
尻餅をついたアーノルド。その手から離れゴロゴロと転がる俺。そしてレオンが走り出し、
「何をしてる!」
一言で後輩と不審者を同時に怒鳴った。さらに続けて、
「貴様、やはり帝国の者か!?」
帝国が何か知らんが……たぶんあいつらにとって敵なんだろうな、俺はその関係者を疑われてるらしい。
なんたってあのレオン先輩、剣を構え始めたからな。
「あ、危ねぇなクソが!」
「このっ」
貧血の俺はすぐに立ち上がれない、だが容赦なくレオンは剣を振り下ろして来た。初めて見る剣の輝きと迫力に少しビビった俺だったが反射的に転がって回避、剣先が地面に突き刺さった。
ヤツの腹がすぐそこにあるのを知り、寝たまま蹴りを入れる。
「ぐ……!」
鎧越しにもやっぱり多少ダメージはありそうで、レオンは怯んで後退した。が、剣は刺さったまま。つまりあいつにもう武器は無い。
火事場の馬鹿力で俺は飛ぶように立ち上がり、胸の辺りに飛び蹴りをかました。
「おおっ」
ちょっとだけ宙を舞い、レオンは背中から地面へ叩きつけられた。そしてもう力が続かなかった俺もその横へ倒れる。
「何をするんだ……貴様やはり帝国の……」
「知らねぇよ帝国とか。絶対に……ぜぇ、ぜぇ……この国に害を与えるとか、妙なマネはしないからよ……入れてくんねぇか?」
「バカめ。俺達に手を出した貴様はもはや……犯罪者だ。つまり、さっきより更に入れなくなったのさ」
「その点は悪かったよ、森に捨てられちゃ――」
「言い訳は聞かん」
俺の言葉をバッサリ切り捨て、特に貧血でもないレオンはすっくと立ち上がり、剣を抜く。アーノルドも頭の装備を戻して駆け寄って来た。
「先輩……」
「こんなアホ、帝国とも本当に関係ないだろう。早い話こいつはただの危険人物だ。お前も見ただろ?」
レオン先輩は剣先を俺の首に向け、そして振り上げる。アーノルドは無言で目を背けた。
「邪魔者め。今、ここで、処分する」
今度こそ本当に俺は動けん。クソ、熱くなって少しやり過ぎたな。空腹でおかしくなってたのか……まあ、正しくはどうすればいいのかなんて、どうせ考えたってわからなかっただろうけど。
俺の第二の人生、ここで終わりか――
「ちょっとちょっと、何してるんですか!?」
と思いきや馬車に乗って誰かやって来た。御者の若い男が降りてから軽く馬を撫で、こっちを向く。
「え? え?」
俺は状況を理解できず混乱した。なぜなら青髪で優しい顔つきをした美青年が軽く睨むと、レオンが剣を振り下ろそうとする手を止めたから。
何だ、あいつは誰だ。何が始まるんだよ。




