#85 三度目のエルフ
「お、オークだ。よぅし俺に任せろ」
鬱蒼とした森を歩いていると現れたのは一体のオークだ。エバーグリーンを制し、肩を回しつつ俺は近づいていく。が、その時風を切る音がして、
「ブゴゥッ!」
「は?」
「なんだ、今のは」
どこからか飛んできた矢がオークの側頭部を撃ち抜きやがった。二人して飛んできた方向を見やるが、そこには茂みしか――
「マコトー!」
茂みが喋った――ワケねぇから誰か潜んでるな。
でもまぁ、北の森の中に潜んでて、俺の名を知ってるようなヤツ……なんとなく思い当たる気はするが……
「また来てくれたのね!」
飛び出してきたのは、透き通った緑髪を揺らす、耳の長い女の子――やっぱりリールじゃねぇか。
彼女は満面の笑みで走ってきて、何の迷いもなく俺に抱き着いてきた。おいおいマジか。
「……び、びびったぜ。お前やけに楽しそうじゃねぇか」
「だって、もう一回あなたに会えるのを心待ちにしてたから。一度もゆっくりと話せなかったしさ」
こんなおっさんに言うのに小っ恥ずかしい感じもなく、リールは頬を染めてはしゃいでる。
確かにそうなんだよな。二回エルフの村に入った俺だが、どっちともエルフ達と言い合ったり戦ったりしてばっかで、リールには大変な思いをさせた。
しかし、またこうして会えたのは嬉しいんだがどうにもルールから聞いた――あの話が記憶から消せねぇ。これじゃあリールを見る目が変わっちまいそうだ。
「ところで、彼は……もしかしてまた私達の村の関係? マコトのことだから危険ではないだろうけど」
リールは俺から離れてエバーグリーンの方を向いてる。問われたのは俺だと思うが、すかさずエバーグリーンが口を開いた。
「君が――そうか、マコト君の言っていた『信頼関係を築いたエルフ』だね。私はサンライト王国騎士団の団長を務めている、エバーグリーン・ホフマンという。君達と敵対するつもりは無いから、どうかご安心を」
「エバーグリーン……って魔王を封印したっていう、あの!?」
「ふふ、知っているとは嬉しいね。話したいのはそこなんだがね」
なるほど、エルフの村にもそういう風に話が伝わってるのか。心なしかエバーグリーンの顔がすごく気持ち良さそうだが。
――そこ、ってのはどこだ? この流れじゃあまるで……
「魔王の話ね……」
「そう。叶うなら村のリーダーのドレイク殿と話をしたいんだ」
「それはダメ、彼は今すごく情緒不安定だから。人間を村に入れるのは危険ね」
「むう……ならば君はどこまで知っている? 魔王と、帝国について」
「彼と同じ程度は知ってる、と思う」
やけに話を急ぐ険しい顔のエバーグリーンと、自信なさげに答えるリール。なんだこれ。目の前で何の話が展開されてるのか全然わからねぇ、ついていけねぇ……
「ならば問題は無い。マコト君、君はここで待っていてくれ」
「あ、あ〜……その話、俺も聞いといた方がいいんじゃ」
「関わらない方が幸せさ」
赤髭は表情をさらに険しくして、リールと一緒に少し離れた所へ移動。そのまま重要っぽい話を続けているようだ。
今まで、俺ってなんとなく異世界で生きてきたが、目の前で起きることばかり見てきた。戦ってきた。乗り越えてきた。
でもアレだな、こういう場面に立ち会うと――けっこう世界って、知らないところで回ってるもんだな。




