#84 二連続サプライズ
ふ〜、やっぱエバーグリーンが強すぎて頼りがいありすぎだぜ。見たか? あっさりオーガを一撃で倒してんだぜあいつ。
「出発だ……つっても、俺道わかんねぇけど」
「二回も行ったのにわからんのか?」
「覚えられねぇんだよなぁこれが」
「ふ、そうか……しかしまぁ立ち止まっていては見つからなかった物も、進み続ければ見つかった、なんてことはザラにある。さぁ進もう」
さっきから思ってんだが俺がオーガを倒した後、エバーグリーンの俺への当たりが厳しくなくなったような気がする。
心境の変化があったんだかどうだか知らねぇけど、何にせよ良いことだよな。
言う通りに二人で進み始めると、エバーグリーンはやっぱり積極的に俺に話しかけてくるようになってきた。
「ところでマコト君。ずっと気になっていたんだが、君と一緒にエルフの村に入った者は誰なんだ?」
「おいおいおい、言うワケねぇよ。処罰対象なんだろ?」
「やけに庇うな……大丈夫、私と君だけの秘密としよう。誰にも言わないさ」
人差し指を口元に当てる赤髭の男。これ、マジで言っていいの? ……本当に信用していいのか?
「大方、見当はついているしな」
なんとなくそれを言ってるエバーグリーンは遠い目をしてるような気がする。ああ、たぶん本当にわかってんだ。
じゃあ言っちまおう。
「ジャイロだ。あんたの息子ジャイロ・ホフマンだぜ」
「ふ、そうかやはり――」
目を閉じて頷いたエバーグリーンだが、直後カッと目を見開いて俺の方を向き、
「えぇぇーッ!?」
「えぇぇーッじゃねぇよ!? 完全に予想外だったろそれ!」
野太い叫び声が上がる。
俺より十も歳上の男がおっちょこちょいなの知って、誰得なんだよ!?
「……ゴホン、失礼した。ではあの時――王の前で、息子を守ってくれていたのか」
「まぁ結果はそうなる。そうなるんだが二つ勘違いしてほしくねぇのがよ、まずジャイロは俺を守ってくれたが本当に何も悪くねぇ。それとコネ――というか人脈を狙ってあいつと仲良くしてるワケじゃねぇってことな」
本来ジャイロやルークと仲良くするって、地位や金目当てでも充分あり得る話だ。
今の守った話だって、ジャイロやエバーグリーンに貸しを作ったと主張することもできるかもしれん。
だが俺は一切そんなこと考えてない。あの二人とも、マゼンタやエバーグリーンとも、偶然に偶然が重なってこの状況だ。
そんな俺の考え方にエバーグリーンは豪快に笑い、
「とっくにわかっているさ! 君が立場に拘るような人間なら、王や私の前であんな態度を取るものか! ハッハッハッハ!!」
言われてみれば確かにそうだったな。
▽▼▼▽
しばらく森の中を二人で歩く。足のダルさや変わり映えしねぇ景色にため息が出始める頃、変化が訪れた。
「グルル……」
木々の間から一匹の大きなオオカミが現れる。
「魔物ではないが……獰猛だな、あの目」
エバーグリーンは一目で敵対的な動物だと判断し、腰の剣に手を添える。オーガの首を飛ばしたあの剣だ。
一方俺は、どうにも違和感を感じていた。よく見ると首に鉄の輪っかがはめられている。そこからは短く鎖がぶら下がっている。
ああ、あいつか、わかったぞ。
「エバーグリーンよせ! ありゃエルフの飼いオオカミだ!」
「なに!? ……また君に助けられたな」
俺がボクシンググローブで殴り飛ばした、『エルフの村の守護神』だっけか。
もしかして、と思って前に出てそいつに近づく。すると、
「クゥン……」
二メートル近くあるオオカミは体を丸めて俺を怖がるような素振りを見せる。それ以上怖がられたくないから俺は姿勢を低くして、ゆっくり距離を詰める。そして首輪をよく見てみた。
やっぱり何か書いてある。
「ば……す……た……あ……お前『バスター』ってのか。カッコいい名前付けてもらったなぁ」
震えるバスターの頭を強引に撫でつけた俺は、こいつに案内してもらおうかなとか思ったが、それはこいつにとってストレスがかかりすぎるかと思ってやめにした。
「もういいや、村は自分達で探す。ちょ〜っと村にお邪魔させてもらうが、攻撃なんて絶対にしねぇ。だからお前少しの間どいてろよ?」
俺は右手に手のひらサイズのボールを生み出した。握るとピーピー音が鳴り、バスターは音に反応してボールを見つめる。軽く揺らすと、バスターも視点を合わせるように揺れる。
「取ってこいっ!」
そして木々の中にボールを投げ込んだ。もちろん俺の手から離れれば消えるが、消えたかどうかなんて葉っぱで見えねぇから『わんころ』はボールを狙って全力疾走を開始。森の中に姿を消した。
「えぇぇーッ!?」
また後ろから野太い叫びが聞こえた気がしたが――これは気にしなくていいよな。




