#82 騎士団長からのお呼び
その後も適当に話してたら、いつの間にかそれらしい場所に到着した。
『それ』って? 騎士団の領地さ。
領地を囲んでんのは、木の棒をそれぞれ有刺鉄線みたいなので繋いだ柵。魔術師団のとこはオシャレな黒い鉄柵だったっけ。個性が出るな。
レオンが錆びた鉄のドアを開けて入る。アーノルドと俺も続いて中へ。すると、
「二百七十……五! 二百七十……六! 二百……」
「いやジャイロじゃねぇか」
なんか、とんでもない数を数えながら腕立て伏せをやってるジャイロの姿が目に飛び込んできた。上半身裸で汗ぐっしょりだ。
「あれ、マコト。どうしたんだ二百八十!」
「お前の親父さんに呼ばれたんだ」
「は? 親父が呼んだって二百八十一! どういうことだ二百八十ニ!」
「いや要件は聞いてねぇ。その……なんか、すまん。邪魔したな」
あいつには少ないのかもしれんが俺にとってはとんでもねぇトレーニング量なんだよな、これ以上会話を続けると申し訳なくなってくるぜ。
『脳筋』、なんて呼ばれてるのは戦闘狂だからかと思ってたが、こりゃマジの脳筋っぽい。
とりあえず先を急ごうとした俺だったが、建物の方からやってくる人物に動きを止める他なかった。
「来たか、マコト・エイロネイアー。エルフとの戦争の話はしっかり解消してきたのか?」
「う、おお、エバーグリーン……もちろんこの俺が、この手で終わらせてきたとも」
「……本当か?」
俺より十くらい歳上で、俺より身長の高い男が、眉間にシワを寄せて圧をかけてきやがる。
――絶対こいつ俺より強い……手汗がすごいからポケットに手を突っ込んで隠す。そして負けじと睨み返す。
「……本当だ」
「そうか、では応接室まで一緒に来い。話すことがあるのでな。レオン、下がっていいぞ」
「はっ」
あれ? 予想以上にあっけなく信じてくれたな。まぁ俺的には良かったけど。
さっきエバーグリーンが出てきた建物へ向かうのかと思いきや、彼は再び後ろを振り返って、
「――ジャイロ……まだそんなことをやっているのか。書類仕事が溜まっていたぞ、さっさと片付けんか!」
大剣をまた何百回と素振りしている、自分の息子を怒鳴りつけた。
「うるせぇな、これがオレだ! 早く親父を超えねぇといけねぇんだから!」
「お前が私を超えるなど、できるものか! 次期団長をお前みたいな軟弱な奴に任せられん!」
「ガミガミうるせぇっつってんだろ! 今はろくに戦いもしないくせによぉ!」
「そういう子供っぽいところもお前の評価を下げているんだぞジャイロ! 私を超える前に一人前の大人になったらどうだ!?」
急に親子喧嘩が始まったが、その喧嘩は終わりも急だった。ジャイロが反論しなくなり、それを理解したエバーグリーンは踵を返して建物の方へ。俺もついていく。
いや今の俺、何見せられたの?
▽▼▼▽
応接室、って呼んでたか。まぁ壁沿いにいくつか本棚とかがあるが、目を引くのは真ん中に置いてあるローテーブルと挟むように置かれたソファーだ。
エバーグリーンがそこに座り、反対側に俺も座る。お互い真顔で向かい合わせの状態になって、話が始まった。
「貴様ごときの客人に茶は出さんぞ」
「求めてねぇから早く始めろ!」
まだ始まらなかったわ。呼びつけたのはエバーグリーンの方なのに、今の会話なんかおかしくねぇか?
「……単刀直入に言うと、私もエルフの村に出向きたい。少し、事情があってな」
エバーグリーンがエルフの村に……? まさかエルフのファンだからとか……そういう雰囲気でもねぇよな。
何にしても、こんな所までわざわざ俺を呼びつけたのには理由があるはずだな。
「ああ、読めたぜ――『事件を無事に解決したのだから、村に行っても問題ないだろう。私を案内しろ』とか言おうとしてんだろ」
「事件を無事に解決したのだから、村に行っても問題ないだろう。私を案内しろ」
「それもう言わなくていいだろ!?」
結果、まるで予知能力者みてぇに一言一句そのままだったが、だったら『その通り』とか肯定するだけでよくねぇか。
それでも全部言おうとするとは、真面目なのか頑固なのか、どっちもか。
「当然、場所は知っているのだろう?」
ルールと一応約束をしたもんな、簡単に教えるのはマズいだろうな。
「知ってても教える気はねぇ。とあるエルフと約束したしな……仮に教えるとしても、道がよくわからねぇんだけどな。とりあえず北の森のどっか――」
「よし、案内しろ」
「強引すぎるぞ!?」
わからねぇって答えても、エバーグリーンの意思は変わらないらしい。だったら聞かなくて良いと思うんだが、さっきから何だ? 俺がおかしいのか?
「では明日の朝、門の前で合流し出発だ。いいな?」
「いやオイ、ちょっと待て。もうこれ以上は人間をエルフの村には連れて行っちゃ――」
「私が信用できぬか? 私と貴様、どちらが歳上だ? どちらが常識人だ? 貴様と違い、私は上手く立ち回るのが――」
「ああわかったよ! はいはい、仰せのままに。今日はどっか宿屋に泊まるかな」
こんな格式高い騎士様が面倒事なんか起こさねぇだろうし、ルールには悪いが、まぁどうにかなんだろ。
まさかエルフの村がこんなに俺の生活を揺るがす存在になるとは……予想外だな。
今までの二回とも連れ去られた形で、脱出した後も森の道なんか俺には覚えられん。場所もわからねぇし……ドレイクもいるのにまた行くのか。
三度目の正直ってヤツでなんとかならねぇかな。




