#81 複雑なコンビ
レオンとアーノルドに騎士団の領地まで案内してもらうことになった俺は、二人に続いてひたすら歩いている。
マゼンタと別れてからしばらく無言が続いたが、そんな沈黙を破ったのはレオン。
「あー、さっきの話だが……」
随分と曖昧な切り出し方、でも俺には何の話かすぐわかった。
「マゼンタ様の言いかけたことだ。俺はお前に出会う少し前――今から三週間とちょっとくらい前か、王国の近くでドラゴンを迎撃して重傷を負った。お前さっき首の傷見てたろ? それだ」
「なるほどな。ドラゴンってのは魔物だよな」
「そりゃもう世界最強クラスのな。王都には一部『神獣』だのと崇め奉ってるアホもいるようだが、なんで神の使いにこんな傷負わされにゃならないんだか……」
うわぁドラゴンなんかマジモンのファンタジーだよな。代表格だろ、ファンタジーの。実際見たらデカくて怖そうだが。
にしてもそんな強いのと戦って大怪我で済むって、もしやレオンは相当ラッキーな方だったんじゃ?
「レオン先輩は、騎士団結成当初からの大ベテランなんですよ。でもその怪我のせいで……俺なんかと組むことに」
「ああ、怪我で体が上手く動かなくなっちまったパターンか」
アーノルドの説明でようやく納得がいった、って感じの俺の言葉にレオンは無言で頷く。
結成したのがいつだか知らんし興味もねぇが、まぁ俺が思ってる以上の古株ってワケだなこいつは。俺と戦った時は大したこと無さそうだったがありゃ本当の力じゃねぇのか。
そんなこと考えてたら、アーノルドが突然スッと近寄ってきて耳打ちしてくる。
「ドラゴンはエバーグリーン団長に追い払われて、今は洞窟で眠り続けています。レオン先輩は団長や医者からも『もう危険なことはするな』って言われてるらしいんすけど、ドラゴンが起きた瞬間首を飛ばすのを狙って毎日偵察に行ってるらしいです。恨んでるみたいで」
「はぇ〜、そりゃけっこう恨んでんな」
ドラゴンがちゃんと起きてる時に首を飛ばしたいとか……レオンは実は執念深いサディストなのか。
でもまぁ『大ベテラン』から『新人と同格扱い』まで実力を突き落としたヤツのことなんか、恨むに決まってるか。
アーノルドがまた普通の距離に戻ると、今度はレオンが近寄ってきて耳打ち。
「実は、ドラゴンは今も洞窟で眠ってる。俺は誰にもバレないように毎日偵察に行ってるんだ。あんな怪物が起きたら国に危険が及ぶから、いつでも報告できるようにな」
「……んん?」
「なんだ、どうかしたか?」
何かおかしいな。今アーノルドから聞いた内容とだいぶニュアンスが違うような気がするぞ。
「恨んではいねぇのか? ドラゴンを」
「少しは恨みもあるが……やはり国を守ることが先決だ、危険だから俺の方から積極的に殺しには行かないさ」
これアーノルドの勘違いだろ。
アーノルドはレオンのことを『ドラゴンを恨みすぎて頭のおかしくなった人』くらいに捉えてる可能性がある。こいつ、他人に興味がねぇようだな。
あ、俺も人のこと言ってられんか……




