#7 空腹に腰痛に門番に
ついさっき、「俺がどこまでやれるのか見ものだ」とか考えてた気がするが、早々にやれなくなっちまう可能性が出て参りました。
「腰が……痛ぇ……」
最初に目覚めた時からちょっと痛んではいたが、歩くのが辛いって程じゃなかったはず。
恐らくだがオークと戦った時の、前の世界の俺じゃできない超人的な? 動きに腰がついてこれなかったのかもしれん。
「《超人的な肉体》ってんなら……腰まで超人的な強さであってくれよ……普通そうだろうが……」
さらに欲を言うならばもっと若い時に転移させてくれよ女神様。
あの城まではまだ遠い。こうやって腰を押さえたままノロノロ歩いてちゃ、ニ、三十分かかってもおかしくない。
そうなってくるとまた別の問題がやってくる。
ぐうう。
俺の腹が告げたのは、そう……空腹。
この世界に来てからは間違いなく何も食べていない。森の木にも木の実のような物は確認できなかったしな。
ともかくあの城壁の中へ行かなければ。金はあるんだしどうとでもなるだろう。たぶんな。
「しかし……はぁ……はぁ……極限状態とはこのこと……」
このままゆっくり歩けばいつしか血が足りなくなって倒れ、俺の大暴れは幕を閉じる。
かといって走って腰に負担をかけ、一発ビキッといけば倒れて動けなくなり、俺の大暴れは幕を閉じる。
てか、まだ言うほど暴れてねぇよ? 上がってもない幕閉じるとか勘弁してくれ。
「はぁ……だがもう少しだな」
俺が目覚めた場所は小高い丘みたいな感じで、城を見下ろすように見てたもんだ。だが今は城が建ってる地面と同じ高さの地面を歩いている。
改めて見ると本当にでけぇ城だ。高級住宅地のタワーマンションくらいか。例えとして良いのかこれは?
そんでもって囲んでる城壁も高い高い。城自体には劣るが、メートルで表すには俺はバカすぎるから無理。
「あれ?」
城壁の正面に門がある。格子状になってる典型的な門。その両サイドに二人の門番がいる事に少し動揺した。いて当たり前だけど。
遠くからじゃ見えなかったんだよなぁ……全身を包む鎧の色と、背景となる壁の色がマッチしすぎだぜ。
なんとか、城壁まで体力が続いた。ペースを乱さずどんどん近づく俺に、それまで微動だにしてなかったフルプレートの二人組がようやく気づき、片方が素早く腰に携えた剣に手を添える。
「何だ貴様っ、その怪しい格好は! それに……その、目のところに着けてるそれは何だ!?」
顔は見えないが若そうな声の男。俺のスーツとサングラスを指さしながら怒鳴ってるが、なんかちょっと体震えてるし動揺が隠せてない感じ。新人か? それとも前の俺と同種か?
とにかく俺は怪しいもんじゃねぇし……なにより、
「いや、マジ……そういうの説明してる暇が無いんだよ……中に入れてくれ。腹が減って死にそうだし……とあるクソガキをとっちめなきゃ……ならないんだ」
「アホか貴様。我々がそんな言い訳だけで国民と信じるとでも?」
「は? ……国民しか入れねぇのかよ?」
「知らんのか。国民と、地位の高い者から許可をもらった者だけだ。特に今は警戒を強めている」
それで入れてたってことは、あのクソガキ国民だったのか。そんな思考回路が頭になくて、誰でも入れるのかと思ってた。
ちなみに、今の口が悪いもう片方の門番の男は声に覇気が無いが、それが逆にベテランっぽさを醸し出してると言えなくもない声だ。
「名乗れ」
「えーと……あ、マコト・エイロネイアーだ」
いかんいかん、あまりにもこの名前が話題に上がらないもんだから、忘れかけてた。
鎧越しにも面倒くさそうなのが伝わってくる一つ一つの仕草。そんなベテランっぽい中年男は首を傾げ、
「おかしな名前だな、やはり聞いたことがない。国民証を出せ」
「それ出せないと入れないのか? はぁ〜……世の中理不尽だなぁ……そう思わないかね若者よ」
「え? まあ俺も少し思ったりしたことは――」
「おい、乗るなバカ」
なんとか話を逸らして侵入できないかと若者に話題を振ってみたが、意外と同意見かもしれないってことがわかった。すぐ中年が止めたからそれだけで終わったが。
「不審者め、国民証は無いんだろ? だったら早く消えろ。俺達は暇じゃないんだ」
「そっ、そうだぞ。先輩の言う通り、仕事が山ほどあるんだ」
若者君の俺に味方してくれるタイムも当然のごとく一瞬で終わり。そしてもうこの壁の中に入る術も完全に消えた。が、
「それはわかったが……クソ……限界だ」
俺は門番二人の前で、空腹によって倒れちまった。