#77 またエルフの村
北の森――その中にエルフの村は存在する。噂だけ飛び交ってるようだが、俺とジャイロはこの目で見たから間違いねぇのさ。
ただ、村の場所がわかるとは言ってない。
「ドレイク〜〜〜!? リール〜〜〜!」
俺を呼びつけた張本人(張本エルフ?)と、あと信頼関係を築いたエルフの名を、大声で呼んでみる。しかし返事はない。
まぁ迷うのは予想してなかったワケじゃねぇが……エルフ村周辺の景色、もっと見とけば良かったぜ。
「マコト……エイロネイアーか……来たな」
その瞬間だ。
「ん? その声――」
俺は後ろから硬い物で殴られ、意識を失った。
▽▼▼▽
目を覚ませばそこは……見たことのある景色。間違いない、奥に民家が連なってるしエルフの村だ。ラッキー。
唯一の問題は、俺が芝生に腹ばいの状態で、背中側で両手を縛られてるってこと。
「って、なんだこりゃあああ!?」
「目を覚ましたか。愚かな人間め」
唯一の問題ってのは嘘になるな。
視界がなんか薄くボヤケてて見づらいが目の前にいるのはエルフのリーダー、ドレイクと手下の男達。
当然、とでも言うように下っ端どもが弓を構えてる。俺に向けてな。
あれ、心なしか縛られてる手がチクチクするような……?
「麻痺性の毒を持つ植物で縛っている。筋肉が麻痺して思うように動けんだろう」
確かに体に力が入らないが、
「ちょちょちょ待てって! こんな展開聞いてねぇぞ! あの時殴ったのは謝る、謝るから穏便に話し合いをしようぜ!?」
「麻痺してるのによく喋るな。こいつ」
ダメだドレイクの野郎、全然聞いてねぇ! 前回は優しいリールが戦闘に出てきたおかげで助かったが、今回ばかりは本当にマズい。あの姉妹がどこにも見当たらんぞ!
話し合いするって手紙に書いてたのに、こりゃどうなってんだ。
と思ってたらドレイクは俺に近寄って膝を折り、小声で話しかけてくる。
「貴様が死ぬなら満足さ、マコト・エイロネイアーよ。王国との戦争というのは嘘だ。そもそも人数的に勝ち目がないだろうしな」
やっぱ手紙は俺を殺すための罠だったのか、エルフどもめ。リールはそれ知っててこの場にいねぇのか。だったらちょっと傷付くな。
ドレイクは立ち上がってエルフ達の方を振り返ると、
「親愛なる村民達よ、聞け! この男は逃げ延びた後にこの村の位置を把握し、我々を殺すために戻ってきたのだ! だから侵入者に情けをかけてはならない! 人間を許してはならないのだ!」
は? いやお前が手紙を……
「戻ってくるとは、やっぱりドレイクさんの言う通りだったのか……」
「こいつはリールを庇ったのかと思ったが、洗脳しようとしてただけなんだな」
「俺達が間違っていた。人間もそこまで悪くない、などと騙されるところだった」
……知らねぇのかよ? 俺はドレイクに呼ばれて来ただけなのに……この村民達もリールもルールも、何も知らされてない……?
とにかく弁明しねぇと! 俺は敵意なんか持ってねぇんだから!
「あ、あが……う……」
なんだ、口が動かねぇ……そうか、麻痺毒が回ってきたんだ。うわぁ最悪だこれ。
「放て、奴を殺せ!」
もう二度と聞きたくなかった号令が、薄っすらと聞こえる。ぼんやりとした視界の中でエルフ達が身構える。ああ、次の瞬間には一斉に矢が――
「待って!!」
その時、もう一度聞きたかった声が、矢の射出を遮った。




