#75 王様からのお呼び 後編
俺と一緒にエルフの村に拉致された、相棒のジャイロ。最後に炎でバリケードを作ったけどそれ以外彼は何もしていない。彼の名前を言うわけにはいかない。
「実は書状は同じような方法でもう一通届いていてね……それが、問題なのだよ」
目を閉じて眉間に皺を寄せる王様は、どうやら二通目の書状にかなり参ってるようだ。
エバーグリーンは命令無しだけど懐からそれを取り出し、また読み始める。
「『我々の意志としては、礼儀のなってない"人間"というクソ人種と同じ世界に暮らしたくない。近々そちらへ攻め込むつもりである』……という内容です」
こ、こんなの宣戦布告じゃないか。ドレイクってエルフは……ドレイクって野郎はどこまでイカれてやがるんだクソが。
「わかるかね。このままでは百年前と同じく醜き戦争が起こってしまう。勢力の弱まったエルフ達に負けることは無かろうが……人間にもエルフにも、無駄に血を流させたくはないだろう? しかし君ともう一人のせいでこうなったのだ。何か処罰を施さなくてはならん」
「だから言えと? ……もう一人が誰か」
「その通りだよエイロネイアーくん」
「……悪いが、それだけは絶対に言わねぇ!」
サングラスを掛けつつ怒鳴る。
バルガ王の顔は険しくなって、聞いていたエバーグリーンは顔に殺意まで宿してるように見えるな。
俺に言わせようとしてるヤツ、あんたの息子なんだけどな。
「貴様の首を……今ここで飛ばすとしても言わんか?」
「死んでも言わねぇ!!」
本当に死んでもいい。戦争が起こるにしろ、とにかく今だ。ジャイロだけは守り通してやる。エバーグリーンと戦ってもだ。
『騎士王』が剣を構えてる……なんて覇気、なんて威圧感。いつしかウェンディに言われたな、あいつは俺より強いって。抵抗はしてみるけどさすがに俺も終わりか――
と、その時ノックの音が響き、大広間の扉がバタンと開く。現れた一人のモブ騎士にその場の全員の視線が集まる。
「陛下! エルフの村から、三通目の書状です!」
「なんだと!」
王様は玉座から飛ぶように立ち上がった。その顔には冷や汗が流れてる。
手紙を手に報告した騎士は王に向かって走り出すも、
「ほい」
「をっ!?」
俺が足をかけて転ばしてやった。
そのまま宙にヒラヒラ舞う手紙をキャッチし、俺は誰より先に読み始め、
「読めん。マゼンタ頼む」
「まったく、強引な人ね。嫌いじゃないけど」
俺の斜め後ろから静観してた魔術師団長を利用しちまったのは、誠にごめんなさい。
内容としては、
「『戦争を起こしたくないのなら、明日の朝にマコト・エイロネイアーを北の森に来させてほしい。話し合いがしたい。もちろん一人でだ』……ということよ」
俺に、一人で北の森へ来いってのか。今までの威勢はどこへやらって感じだが、たぶんドレイクの目的が戦争ってのはブラフだな。俺を呼びつけたかっただけかもしれん。その証拠に、
「そうか、それで解決するということか。ならば簡単な話だな。そうだろエイロネイアーくん?」
戦争にビビってた王様が安心しきってる。これは俺をエルフの村へ寄越す流れだろう。
「陛下、もう一人は如何様に?」
「そんな事は後でいいだろう。ドレイク氏の要求はエイロネイアーくんのみだ。きっと、もう一人はそこまで事件に関与していないんだ」
「し、しかし肝心のマコト・エイロネイアーへの処罰の方も――」
「あ〜ん、もういいじゃないのよ♡」
やけに俺ともう一人に罰を与えたがるエバーグリーン。それをなだめるのはマゼンタ。
「色々あったエルフの村へまた戻ることは、マコトさんにとってかなりの罰じゃないかしら? 殺されてしまうかもしれないけれど、彼一人の犠牲で国は助かるわ♡ それに……」
俺に流し目を向けたマゼンタは、直後に近づいてきて俺の腕を抱き、豊満な胸を押しつけてきた。
「私の一番の弟子ルークに、あなたの息子さんも、この人を気に入ってるのよ。ちょっと抜けてるところもあるけど……私も気に入ってきたわ♡ この場で罰するなんて可哀想よ」
恐ろしく柔らかくて温かくて、悪い気分じゃないんだが、
「おいコラ! 何押しつけてんだお前は! まさかこの方法で団長まで登りつめたってか!?」
と、立場の違いを感じ、この場の雰囲気を壊してるような気もして、マゼンタの体を押し戻した。
「つれないわねぇ〜仲良しってことを表現してるのよ〜」
「できてんのかこれで!?」
まさか魔術師団長と漫才することになるとは。誰が予想したよ。
「……はぁ〜ぁ、もういい。もうどうでもいい」
エバーグリーンは顔を片手で覆ってクソ長いため息ついて、もはや呆れた様子だな。このやり取りじゃ無理もねぇよ。
「よしわかった。王様に騎士団長に魔術師団長。俺は明日の朝、北の森へ行ってエルフ達と話してくる。戦争なんて起こさせねぇから、任せろ」
「まぁ戦争が起きなければ君などどうなってもいい……と言いたいところだが、君も一人の国民なのだ。本当に大丈夫かね?」
「黙って信じてろよ、王陛下。俺ともう一人の首が飛ぶのと引き換えってんだ。もし話し合いが上手くいかなくても、エルフを黙らせてきてやるぜ」
「……はぁ……あまりエルフを刺激はしないでほしいものだが……では……不本意だが信じてみるとしようか」
俺がただの民間人より遥かに強いとか、そういう噂は街でも流れてるし、聞いてなくてもきっとマゼンタとかが王様やエバーグリーンにも世間話的に話してると思うんだ。
まぁなんであろうと、戦争を避けるって話なら俺が行くだけで解決する話だし。
「どこまでも無礼な奴め……」
俺を睨む強面のエバーグリーンだが、こりゃあ怒る気力を折られたんだろうな。俺のノリに。
「エバーグリーンにマゼンタよ。彼に国民証を返して、城の外まで送ってやってくれ」
「「は」」
▽▼▼▽
王様の命令通りに国民証を返してもらい、マゼンタが城の門の外まで誘導してくれた。
「さっきは助かったよマゼンタ」
「気にしないで……それよりマコトさん。私と初めて会った時、あなたは自分の立場に迷いを感じてたでしょう」
「かもな」
「でも今はあの時より、だいぶ迷いが無くなってきたようね。いい傾向よ」
そうだろうか。割といつも迷いっぱなしな気もするが。
「そうそう。今日は私の部屋で寝てちょうだい」
「……は?」
「あなたが逃げてしまってはいけないけど、エルフとのいざこざの話が広まってもいけないわ。つまりルークやプラムにあなたの監視を頼めない……だったら私が監視するしかないじゃない?」
「俺、逃げねぇけど……」
「言葉ではどうとでも言えるわ。あなたを信じたいのは山々だけど、これも王様の命令だから♡」
十二歳のプラムとの同居も最初は抵抗あったのに……三十歳くらいの大人の女とまで同居するハメになるとは。人生わからねぇもんだ。




