#70 魔物の肉の真相
オーク事件から何日か経った朝。目覚まし時計とかこの世界にはねぇけど、起きてプラムと「おはよう」を言い合うとちょうど朝食の鐘が聞こえてくる。
だが二度寝をご所望のプラムを置いていって、先に朝食をとりに食堂へ向かう。
「おはようございます。マコトさん」
「よう」
食堂内の適当な席に座ると、ルークが正面の席に座ってくる。
いいタイミングだ。聞きたいことが色々あんだよ。
「あの後、『ロデオ』には行ったのか?」
「一度だけ」
「食う気はしたか?」
「当たり前です! 魔物の肉なんてもうあり得ないですよきっと」
ジャイロには『草食系』と思われてる魔術師のルークだが、やっぱり魔物の肉なんかじゃなきゃ普通に食うんだよな。
んで聞きたいことってのは、
「なんで俺達の体はオーク肉を受けつけなかったんだ? 適性がどうのって言ってたが……」
「マコトさんの質問、いつも唐突ですよね」
「すまんな。俺は普段は何も考えてねぇけど、考える時は無駄に考えちまう人間なんだ」
「それは僕も、なんとなくわかってきた気はするんですが」
ちなみに一応謝ったが、たぶんルークの言葉には一切悪意が含まれていない。いつだって素直、そういうヤツなんだ。
「魔物は、魔王の闇属性の魔法によって作られた生物。なのでその肉には闇が詰まっているんだと思います」
「えーと、だからつまり? 魔物の肉を食うのは、魔王の闇魔法を食うのと同じってワケで……」
「そうです。その部分は少し説明が難しいんですが……とにかく魔法の適性が強い人ほど、その闇を『感じて』しまうんでしょう」
強い人ほど……か。それだと筋が通るな。
ルークとプラムは適性が強いから、食う前に『闇』を感じて食欲を失った。
ジャイロは適性が弱いから、食ってもすぐには気づかなかったが後味の辺りで『闇』を感じて不味くなった。
一般客はたぶんほぼ全員が適性を持ってないから、美味しいとしか感じなかった。つまり『闇』を感じなかった。
うんうん、筋が通るな――
いや、何か忘れてる――
適性が無いなら何も感じないはず――
「……俺は?」
問題は、吐き気を催した俺だろ。俺はルークからハッキリと『適性無し』を告げられてるんだぜ。確かに美味かった。そこでは何も感じなかった。
が……飲み込んだ後、体が拒絶したようだったな。
「それは僕でも明確には理解できません、あなたが魔法を使えないのは間違いないので」
「あくまでもその事実は揺るがねぇのか」
「はい。強引に吐き気のことを根拠付けるとすれば……マコトさんと魔物――いや、魔王との相性が著しく悪かった、としか」
「相性?」
それ以上質問しても、やっぱりルークからちゃんとした答えは返ってこなくなった。
当たり前だ。ルークにだってわからないことはある。特に、俺についてはわからないことだらけだろう。
「……ところでマコトさん。話は変わるんですが、食後ちょっと二人きりで話しませんか? ……ここでは人が多いので」
「なんだ急に。重大な話なのか? 実を言うと俺、今日ちょっとやりたい事があるんだよな」
「それなら全然構わないですが、何かあったのか聞いても?」
その質問は、突然二人きりで話そうなんて言ってきたお前に投げたい質問だが……まぁいいか。
「そろそろジャイロから貰った報酬を子分達に分けてやらねぇと。ブラッドとか、ゼインとかな。よくよく考えたらあいつらどこに住んでるのかわからねぇんだ」
「なるほど、それは大変ですね。ではまた別の機会にお願いします。僕は仕事でもするとしますかね〜」
朝食を食い終わったルークは伸びをして、足早にどこかへ去っていく。あのお屋敷みたいな仕事場に行くんだろうけど。
そういや、ジャイロも俺に金を渡す時に同じようなこと言ってたっけ。俺の住まいがわからねぇとか。意外と大変なもんだな。




