#66 オーク事件発生
翌日。
お昼時、話し合った通りに四人でレストラン『ロデオ』の前に集まり、そのまま入店。
やっぱり客はまばらだが、従業員がそれより少ないから忙しそうなんだよな。
案内もされねぇから前回座った席と同じような席に座る。そして四人で同じ肉を注文することに。
これから食う肉も前のと同じだと思う。
「はいはい、四つですね〜……それにしてもまた来てくれるとは嬉しいですよ!」
やっぱり店長兼料理長のロディが営業スマイルで注文を取り、厨房へ戻っていった。
「キノコを食べてるヤツもいんのかな、客の中に。特に問題は起きてなさそうだが」
「う〜ん……異常無し、ですね」
マシュフロッギー産のキノコが客に悪影響を与えてないか、とかをチェックするのが来店した目的だからな。食事はあくまでついでなんだ。
ルークの言う通り、見回してもマジで異変が無い。それどころか客のみんな笑顔だ。これはセーフだったパターンだろうか。
「お、来た。この肉うめーんだよなぁ〜」
そうこうしてると、四つの同じ肉が運ばれてくる。ジャイロは速攻で豪快にかぶりついた。しかし、
「……なんか、食べる気にならない」
「偶然だね……僕もだよプラム」
プラムとルークは突然食欲を失ったような発言をした。急にどうしたんだ?
それを見たジャイロは一口目の肉を頬張ったまま、すかさず、
「うめぇな〜これ。やっぱ、魔術師ってのは草食系か。オレは間違ってなかったな」
「違うよ! 前は食べたくてしょうがなかったもん!」
「あ?」
口撃する赤髪の騎士に不満そうに返すプラム。確かにジャイロのそれは勘違いだもんな。
「この前はプラムもルークも普通に肉食ってたぜ。『美味い』とすら言ってた」
「は? じゃあ今何が起こって―――――んん? なんか、後味悪ぃような……?」
なんだなんだ? 遂にジャイロまで不満を言いやがった。とりあえず俺も食ってみればわかることだろう。と、肉を口に運ぶ。
「普通にうめぇじゃねぇか……後味も悪くねぇし?」
咀嚼して、スッと飲み込んじまう。
おいおい何も問題ねぇよ。約四十歳の俺をさしおいて、どうして若者達の舌がイカれちまったん――
「……………うっ!? やべぇ、吐きそう!」
「げっ、ここで戻すんじゃねぇぞ!?」
「お手洗いは向こうですよ」
気持ち悪ぃ! 味はおかしくねぇのに、急に吐き気が!?
この世界には一応トイレという概念がある。あって良かった。ルークが指差す方向へ向かうと狭くて暗い廊下が。
やばいやばい、一刻も早くたどり着かなくては。
「こ、ここか」
少し進むと見えてきたドア。よくわかんねぇけどまぁこれだろう! と勢いよく開ける――
「フゴ、フゴ」
「フゴォ……」
は?
ドアの向こうに広がってたのは、少なくともトイレなんてもんじゃねぇ。そもそもここはトイレとは違ったドアだろうが……
「オーク……? な、なんで……」
床に藁みてぇなのが敷き詰められてる、なんつーか豚小屋とかをイメージさせる部屋。
その部屋いっぱいに、魔物であるはずのオークがギュウギュウ詰めにされていやがる。
ここって、レストランだよな……吐き気が引いちまったよ。代わりに鳥肌が立ったが。
さっき俺達が食ったのは、もしやこいつらの――
「「「フギィィィィ!」」」
「どおわぁっ!」
パンドラの箱でも開けたような気分だ。
数え切れないほどのオークが俺を押しのけて踏み倒し、ドアを破壊して客がいる方へ走り出しちまったんだから……




