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能力ガチャを引いたら、武器ガチャが出ました(笑)  作者: 通りすがりの医師
第三章 異世界人と交流を深めろ
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#63 脱出の抜け道

 俺はともかく、北の森の常連だって自称するジャイロさえこの村の存在を知らなかった理由は、


「一見しただけじゃ、出入口が見当たらねぇよな」


「そうでしょ? でも出られないとエルフも狩りができない……だから秘密の抜け道があるのよ」


 隣で地面に伏せているリールが答えてくれた。俺も伏せているが、もちろん矢を防ぐためだ。

 抜け道は良いんだが、問題は山積み。


 俺達を助けるってイバラの道を選んだリールに、仲間割れをさせちまうかもしれない。


 それに今は長めの草のおかげで助かってるが、立ち上がった瞬間に弓矢の餌食になりそうだ。彼女まで守れるかどうか。

 ジャイロが別の所にいるのもちょっと辛いし、何よりあいつの剣が行方不明だ。


「難しい顔してるわね、人間さん。彼の剣を心配してるの?」


 大当たり……と言いたいところなんだが。


「それもそうだし、エルフ(おまえら)の仲もな」


「私たちのことまで心配してくれるの……じゃあ、いい作戦を思いついたから協力して」


「了解だ」


 得意のサムズアップで返答した。



▽▼▼▽



 リールが考えた作戦は、人間とエルフの関係を悪化させず、かつジャイロの剣を取り戻せて、かつリールの立場もそのままで、その上で村を脱出できるものだった。



「みんなごめん……すばしっこい人間め!! 〈フラッシュ〉!!」



 リールが立ち上がりながら喋る。前半は独り言のように囁いて、後半はお芝居。

 彼女の手が金色に光り、直後にその光が爆発的に広がる。光属性の魔法――ま、目潰しだわな。


「「「おわぁ!!」」」


 加減はしてるらしいが、突然の強烈な光は神経を尖らせてたエルフ達の視界を一時的に奪った。

 サングラスしつつさらに目を覆う俺と、後ろを向いてるジャイロには効かねぇって寸法。


「今の内に赤髪の彼と合流して! 抜け道は意外と近くにあるの!」


 リールに親指を立ててジャイロの方へ走る。彼女はジャイロから奪った剣を取りに、民家群の一番手前にある小屋へ向かった。

 あいつ、足速いな。何百メートルか先の小屋に数秒で着いてる。


 俺がジャイロの元、つまり檻の所まで戻る寸前――他のエルフより強いからか知らねぇが、ドレイクとルールの目潰しの効果が切れる。


「……ッ! ドレイク、さっきお姉ちゃんに何しようとしたの!?」


「お前、敬語はどうした」


「そんなこと今はどうでもいい! 殺そうとしたよね、お姉ちゃんのこと!」


「手が滑っただけだ! 言葉遣いを直せクソガキが!」


 振り返れば二人とも怒った顔、リールが大丈夫でもここで仲間割れ起きちまうのか……と俺は頭を抱えた。

 そのまま言い合いは激しくなっていき、ついに本気でブチ切れたドレイクがルールに弓矢を向ける。


 あーあ、やっちまったな。


 我を忘れるレベルで怒るドレイク、そして恐怖で硬直するルールの元へ俺は飛び込んで行き、拳を固め、


「クソ野郎があああああ!!」


「ぅあァッ!」


 ドレイクの顔に怒りの鉄拳をぶち込む。エルフのリーダーは原っぱをゴロゴロ転がっていき、勢いが止まるともう動かなくなった。


 前から言ってるが、俺をイジメるのは好きにしろ。全く関係ない人に手を出すヤツは大嫌いなんだよ。


「ぇ……なんで……?」


 混乱するルールをよそに、周りのエルフ達も徐々に視界を取り戻し始める。


 ――いかん、作戦を大いに無視しちまった。これ人間とエルフの仲、悪化しないよね。


 まぁやっちまったモンはしょうがねぇ。村の隅っこを静かに走るリールは両手に大剣を抱え、ジャイロの方へ向かってる。

 ここは作戦通り。目潰しで稼いだ時間で武器を回収するってな。


 俺も遅れないように同じ方向へ走る。が、走り始めた瞬間、



「ご、殺せぇ! その人間を逃がすなァァァ!!」



 だいぶ後ろから雷のような怒号が響く。ドレイクの野郎、なんてしぶといヤツ。

 視界を完全に取り戻したエルフの男連中は鞭で打たれたように怒号に反応し、弓を構える。その数は十なんてもんじゃない。


 背中側というのもあって反応が完全に遅れた。射出される矢、振り返る俺だが――



「らぁ!!」



 俺の前に飛び込んできた人影が大地を横に切り裂き、とてつもない風圧と巻き上げた土で全ての矢を弾き返した。

 炎を纏う大剣を構えた、燃えるような赤髪の男――ジャイロだ。


 さらに今の風圧でエルフ達が吹っ飛ぶ、その中にルールも含まれてしまったがそれも今は仕方がねぇ。


「これが、オレの出番でいいのか?」


 剣を肩に乗せ、歯を見せて笑い、顔だけ振り向かせたジャイロ。その正面からさっきのオオカミが――


「ガルァ!」


「無駄だぜ」


 ジャイロの喉を狙うオオカミ。その真下から炎が現れ、オオカミは「キャン!」と鳴いて民家の方へ逃げていった。

 気づけばジャイロが斬った部分の地面から炎が高く噴き出し、壁のように俺達とエルフ達の間にそびえている。目隠しとしても防御壁としても文句なしだ。


「なんだこれは!」

「馬鹿な人間め、森を燃やす気か!?」


 炎の向こう側から罵声を浴びせられるが、ジャイロは涼しい顔で檻の方へ走り始める。

 その点について考えがあるのは間違いねぇ、俺もあいつを追うように走る。


「こっちよ!」


 割と檻に近い岩をリールが乱暴に蹴飛ばすと、人間がちょうど通れそうな穴がある。直後、


「火が小さくなってる!?」

「ひとまずは助かりそうだが……」


 腰を抜かしたままのエルフ達の声が、安堵の物へ変わっていった。前を走るジャイロも呟く。


「オレの火は、長持ちしねぇからな」


「最高だ」


 やっぱりな。自分の火属性の適性が弱いことを利用して、このピンチを打開したんだ。この男……頼れるぜ。


「じゃあね、人間さん達……この村のことは秘密にしてほしい」


「わかったよ。体に気ぃつけろ、エルフ」


 それを最後にジャイロが穴へ飛び込んだ。この時一瞬も迷わない辺りがジャイロらしいとこ。自分の強さに迷いまくってるクセに。

 俺はリールにまた一つ質問してぇことができちまった。


「なぁ、あの光の魔法使えば俺なんか瞬殺できたんじゃねぇの?」


 なんてったって屈強なエルフども全員を、いとも簡単に目潰ししちまうんだぜ。

 あんなの俺がモロに浴びてたら、今頃ナイフでグサグサされてただろ。


 でも、リールはそれをしなかったんだ。


「うーん、記憶が曖昧だったからかな。なんだか……あなたのこと本気で倒そうと思えなくて」


「優しいな」


「あなた程じゃないわよ。さぁ行って」


 急がねぇと火が消えちまうな。正直真っ暗な穴に飛び込むのは怖かったが「どうにでもなれ」と勢いに任せた。



 ってかリール……俺が優しい? お世辞なんかいらねぇのに、冗談キツいぜ。

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