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能力ガチャを引いたら、武器ガチャが出ました(笑)  作者: 通りすがりの医師
第三章 異世界人と交流を深めろ
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#62 種族か個人か

 ナイフを握り、リールが俺の方に冷たい視線を向けてくる。俺としては一つ聞きたいことがあった。


「頭痛ぇんじゃねぇのか? あんまし無理すんな――」


「うるさい! 人間!!」


 有無を言わさずリールが突っ込んでくる。だが俺だってライオットシールドはまだ持ってんだ。


 四方八方から迫るナイフの攻撃を一発一発弾き、たまに盾を振り回すもバックステップで避けられちまう。

 そんな攻防が何度も続いた。そして、


「はぁっ!」


 横から飛んできた蹴りにライオットシールドが吹き飛ばされた。俺の手から離れ、消滅しちまう。

 俺から武器を奪ったからとホッと安堵の息を吐くリール。残念、そりゃ甘い考えだ。


「……どういうことなの!?」


 俺の両手にはたった今、歪な刃をした――いわゆるククリナイフが握られたからな、驚くのも当然だ。


「おらおら!」


「く……」


 俺はクルクル回りながら二刀流のククリナイフを振り回す。

 リールもまた、自身のナイフで受け流したりバックステップしたりしている。そんな中、


「リール何してる! いいから刺せ、刺しまくれ!」


「バカ言わないでよ、私は弓使いなのよ!? 慣れてないの!」


「俺に口ごたえするな! 弓では一瞬でカタがついちまうだろう!」


 ドレイクの横槍が入る。それにリールも本気で怒鳴り返してるようだった。彼女の気が逸れた今がチャンス。


「サマーソルトキーック!!」


「わっ!」


 空中で一回転しつつ右足で相手のナイフを蹴り上げた。着地した俺も二本のククリナイフを捨て――


「きゃっ!!」


 怯むリールに抱き着く。あ、下心はねぇんだけどよ。


「ちょっと何してるの!? 離れなさいよ人間――ん、なに!? この怪力は……」


「すまねぇな。あいつらの矢を避けるためだ」


「なっ……!」


 実はずっと見えてた。ドレイクらエルフの男達が、リールの後ろから俺を弓で狙ってたのがな。

 悪いが、リールの体で俺を隠せば矢は飛んでこないだろうと思って抱き着いた。


「でもこのままじゃ何も進まないわよ、作戦なんか無いんでしょ? 抵抗なんてやめたらどう?」


「そういうワケにはいかねぇ。俺にはもう、心配してくれる人がいるからな」


 後ろのジャイロは俺がなんとかすると信じている。きっとルークとプラムも森を探し回って、俺達との再会を待ちわびてるだろう。


「それと話してぇことが――おいジャイロ、さっきなんか驚いてたよな」


「……おう」


 俺に呼ばれた赤髪の男は、今は檻の裏側に隠れてる。

 まぁ矢を防ぐためだろう。格子だから隙間はあるが命中率は格段に落ちるよな、考えたもんだ。さすがは戦闘狂ってとこか。


 頷いたジャイロは振り向きもせず口を開く。


「リールとか言ったか? 女エルフ」


「そうだけど」


「オレはな、エルフが大嫌いだった」


「……そんなの普通でしょ。人間とエルフは憎み合ってる」


 よく聞けよ、と目の前のリールに言いたい。ジャイロはエルフが大嫌い『だった』だ。過去形だよ。


「そのおっさんの言う通り、さっきのあんたとドレイクの会話を聞いた時は驚いたぜ。人間がそんなにエグいことやったなんて知らなかったからよ」


「どういうこと?」


「オレは学園には行かなかったが、ガキの頃は騎士団の大人達から色々教わった。その中に『エルフは最低最悪のクズだ』ってのがあった」


 なるほど、学園に行かない代わりに騎士団内で世界のことを教わってたのか。


「人間を落とし穴にかけてそこに酸を流し込む……人間の領地に侵入して大量の肉食獣を放ち、戦争に関係ない人達を襲わせる……他にもあるがエルフについてはこんな話ばかりだった」


「ッ!?」


 リールは目を見開いてる。彼女は彼女でドレイクに教わって人間ばかりを憎み、ジャイロもジャイロで大人達に教わってエルフばかりを憎んでいた――自分の種族の愚かさも知らずに。そんな感じか。

 きっとこのパターンは他のエルフ、他の人間にもほとんど共通してるんだろう。だから未だに憎み合ってるんだな。


「う、嘘よ! エルフは誇り高い種族……そんなのあり得ない!」


「そう思うか。少なくともオレは――」


 ジャイロは檻の裏からこちらへ顔だけ振り向かせ、



「エルフも人間もあんまし変わらねぇんだなって、パワーバカなりに思ったよ」


「ッ!!」



 それがたとえ作り話だとしても、そんな他種族を貶める話を作った時点でクズだからな。

 だがクズって悪いことか? 俺の感覚としては、生きてれば誰にでも必ずそんな面はあると思うんだが。


「リール。俺はお前よりもジャイロよりも、種族間の関係性について知識が少ねぇ。でも一つわかるのは、『種族』同士の問題なんか薄っぺらいってこと。だったら見るべきは『個人』じゃねぇか?」


「個人……?」


 百年前の戦争なんてここにいる誰も見たことねぇだろ。いくらだって嘘をつける、作り変えられる。それに真実だとしても、もう起きちまったことだ。

 何が大事か、ちょっと『思考ゲーム』をけしかけてみよう。


「例えば今のジャイロの話をしたら、あそこにいるドレイクは信じると思うか?」


「……? 絶対、信じないと思うけど……?」


「だろ。じゃあお前は今聞いてどう思った?」


「それは、わからない……わからなくなってきた……」


「少しは心が揺れたってことだよな」


「あっ」


 ドレイクなら頑なに信じないだろう、でもリールは少し信じ始めたように見える。


「ならジャイロは、お前とドレイクの会話――卑怯な人間の話を聞いた時どう思った?」


「その話を受け止めて……エルフを、嫌いじゃなくなった……?」


「そうだな。じゃあ俺は?」


「いや、あなたは知らないんだけど」


「そりゃそうだ、知らないおっさんだからな。まぁ答えを言うなら俺は何とも思ってねぇんだ。人間もエルフも、好きでも嫌いでもない。ずっとな」


 エルフの愚かさも人間の愚かさも認めて、思わず成長してしまったジャイロ。そして永遠に中立な俺。

 要するに何が言いたいのかっつーと……


「ほらな。人間の中にも色々、エルフの中にも色々いるじゃねぇか」


「いちいち種族ごとにまとめて話すから、それが見えなくなる……ってこと?」


 察しが良いことで。難しい持論が相手に伝わるってスゲー爽快感ある。

 リール――思った通り、この子はいい子だ。このまま俺達を信じてくれねぇだろうか――


「リールゥゥゥ!! いつまで抱き合ってる!? 何をペチャクチャ喋ってる!? さっさと終わらせねぇってんなら……」


 ドレイクのクソうるさい怒号が。あ、これ雲行きが怪しい感じだ。


「罰だァッ!!」


 一本の矢が、放たれた。ドレイクの弓から、一直線に。それが狙うのはもちろんリールの背中になっちまう。あの野郎イカれてんのか。

 誰も傷付ける気がない俺はリールを抱きしめたまま、


「うおぉっ!」


「なにっ……!?」


 横に跳んで矢を回避した。ドレイクの動揺した声が聞こえる中、着地に失敗して原っぱを転がり、動きが止まった頃。


「ちょっと、今私を庇ったの?」


「そうだ」


「……あなた、あの時本当に私に暴力を振るったの?」


「お前を連れてカエルの腹から脱出しただけだな。他は一切、手を出しちゃいないつもりだ」


「……そう」


 俺と並んで地面に伏せた状態のリールは、笑顔を向けてきた。ああ、似合うな。


「よし、あなた達をこの村から逃がすわ。抜け道があるの」


 どうにかこうにか、信頼を得られたようだ。

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