#61 誇り
泡を吹いて気絶するオオカミ。それを見た後に俺を見て、開いた口が塞がってないエルフの男達。
とりあえず今はなんとかなったものの、あいつら弓矢を構えっぱなしだ。やっぱり崖っぷちだな。
「きっ、貴様!!」
先頭に立つリーダーだろう男が弓を持つ手に力を込めたように見えた。それに続くように他のヤツらも。
ちなみにジャイロは完全に俺に任せて、目を閉じて瞑想みたいなことをやってる。「魔力を集中させる」とか言ってたが無防備過ぎやしねぇか?
「射て!!」
リーダーが叫んだ。クソったれ、ジャイロと自分を守らねぇと。
そう思い俺が生み出したのは、日本の警察やら機動隊がよく装備してる盾――ライオットシールドとか言うやつ。
小さく除き穴がある金属製の盾に何本もの矢がぶつかり、弾かれていく。目を閉じたジャイロも俺の後ろに隠れてるから無事だ。
「なに!? そんなものどこから出した!?」
「俺に聞かれても困るなぁ……」
実際この武器どこから出てきてるんだろう。四次元ポ○ット的なアレだと思ってるが。
直後、一人の若い女が村の奥から走ってきた。
「ちょっと。ドレイク、ルール、これは何の騒ぎ?」
「お姉ちゃん!」
お姉ちゃん……? ルールのお姉ちゃんってことは『リール』だよな。顔を見たらやっぱり見覚えがあった。
「よぉ。覚えてるか? 俺はあの時の『天使様』だが」
「はい?」
巨大カエルの腹の中で出会った美少女だった。
▽▼▼▽
「えっと……あなたは? 天使様ってなんの話?」
「あんな衝撃的な出会い方忘れたのかよ!」
「意味がわからない……」
確かにあの時のリールは、特徴である尖った耳も見えないくらい胃液にまみれて、随分と弱ってた。
が、普通忘れるか?
「なんだかちょっと頭が痛いのよね……それ以外は寝たら治ったんだけど」
「もー、心配したんだからね!」
痛そうに後頭部を擦るリール、彼女の手を握る妹ルール。仲良さそうな姉妹だ。
「おい、リール」
そこに低い声で割り込んだのはリーダー。さっきドレイクと呼ばれてたか。
「人間の言葉など、意味を理解する必要がない。聞く耳さえ持たなくていい……お前はあの男に暴力を振るわれた、そうだろう?」
「え、そうなの――」
「そうだろう!!!」
おいおいなんだよ、そのやり取りは。ドレイクの野郎、それは脅迫とか洗脳と同じだろ。
様子を見るに、どうやらリールは強く頭を打ったようで記憶が飛んでるみてぇだ。腹から脱出した時……だろうな、それで俺の顔も覚えてねぇのか。
「百年前――領土の奪い合いで人間とエルフは戦争をし、人間は卑怯な手ばかりを使い、エルフは敗けた」
「ええ……」
「罠に毒を塗りじわじわと殺す、一人一人捕らえて痛めつける、エルフの領土に忍び込み戦争に関係ない民家に火をつけて回る――戦争とはいえ、奴らはなんだってする種族だと確定した!」
「ええ……」
「エルフはこの過去を忘れてはならない。お前にも毎晩教えてやってるだろう」
「ッ……………はい」
最後だけリールが赤面してたのはなんでだ?
「……マジか」
後ろのジャイロは何かに驚いた様子だ。
百年前の戦争、それで仲が悪いのか。百年前なんて絶対ドレイクやリールも、ジャイロも生まれてねぇし、俺だって生まれてねぇよ。
そんな過去を語り継いでずっと引きずってるのか。
「リール、お前があの人間に洗脳されていてはまずい。だから証明してみせろ」
ドレイクはナイフを取り出し、リールに手渡す。彼女は静かにそれを受け取った。
「奴を殺し、エルフの誇りを失っていないと」
「……はい」




