#53 まほう
この一週間、ジャイロとは一回も会ってないし言葉も交わしてない。あんなこともあったし。闘技場での、あの決闘のことだ。
ルークからも何も聞いてねぇんで、俺が闘技場から逃げ出した後どうなったのか全く知らない。
「あ、偶然二人ともいるな。闘技場での件は、あの後どうなったんだ?」
「別に何もねぇ、即解散したよ。それより――」
答えがあっさりすぎねぇかなジャイロ。何か言いたげだ。
「なんでヒョロ青髪とガキも一緒にいるんだよ!? 聞いてねぇぞ!」
「文句言うくらいなら別の席で食えよ!?」
俺だけを視認したジャイロは直後に同じ席に座ったが、ルークの同行があいつにとってまさかの事態だったらしい。
なんか俺に用があるらしいが、騒がしくするのはやめて欲しいもんだ。
「僕だって嫌です。代金は自分で払ってくださいよ?」
「当たり前だ! このオレがお前に奢ってもらうわけねぇだろが!」
「うるさいなぁ……」
最後にボソッとぼやいたのはプラムだ。二人に比べ、今だけはこいつの方が大人だな。
「で? お前らが仲良しこよしなのはわかったから――」
「「仲良くない!!」」
そこでシンクロしちまうとこ、良さそうにしか見えねぇ。
「ジャイロ、俺への用ってアレか。報酬か」
「そうだ。遅くなったな」
迷子捜索の緊急依頼……あの報酬だ。いや、一週間かかるって遅すぎじゃねぇかな。
ジャイロは懐から小さな袋を取り出し、
「ほらよ、金貨三十枚だ。あんたに直接渡したかったんだが、どこに住んでるのか知らねぇからさ」
「随分とくれるんだな」
「活躍したの冒険者ばっかだろ?」
そうか、こいつは俺の住まい知らねぇのか。
聞けばこの金貨三十枚にはブラッド達の分も含まれてるとのこと。俺の子分だと判明したんだな。
なかなかの大金だ、あいつらにもちゃんと分けてあげねぇとな。
▽▼▼▽
三人は肉を食い終わり、ジャイロが新たに注文して食い始める。
――これって俺からすればなんでもない光景だが、一般人からすればすげぇメンツなんじゃねぇかな。
主にルークとジャイロ。なんてったって魔術師団の二番手に、騎士団長の息子だぜ。
とにかく、こんなに疑問を潰すのにいい場所は無い。
「これも俺よくわかってねぇんだが、魔法ってどういう仕組みになってんだ?」
また、今までスルーしてたやつ。
「どこから説明しましょうか……まず魔法には六つの属性があります。火、水、風、土、光、闇です」
「ベタだな……」
「え?」
「いや、なんでもない」
属性って話が出ると大体いつもこんな感じってイメージがある。俺、ゲームとか好きだったのかな。どこからこんなイメージが湧いてくるんだか……
「えーと、魔法を使える人も、全く使えない人もいます。『適性』が無い人はどんなに頑張っても使えないんですね」
なるほど。誰でも使えるワケじゃない、シビアだな。俺できるのかな。
「適性があっても、使える属性が個々で違います。例えば僕は水属性と風属性の適性があり、その二つだけを使えます」
そうか。全属性使えるワケでもない、シビアだな。ルークがやってる氷のやつは水属性の魔法なのか。
「私は火だけ」
「オレもガキに同じく」
プラムとジャイロは火属性のみか。ん? ジャイロって……
「騎士だよな。正式な魔術師以外も使えるらしいってのはわかったが、騎士は特に魔法には疎いのかと思ってたぞ」
「んん? あぁ」
ジャイロは、齧り付いた肉を豪快に引きちぎってから、
「今んとこ騎士団で魔法使えんのオレだけだ。ま、火の適性あるっつってもすげー弱い適性らしいけど」
要するに火属性のエキスパート、まではいかないレベルだと。
だから剣に纏わせる、拳に纏わせる程度しかできないらしい。充分な気ぃするけど。
「僕が見たところマコトさんは……適性無しですね」
「見るだけでわかんのか?」
「ええ。本当は確かめるのにいくつかの手順を踏まないといけないんですけど、僕やマゼンタ団長くらいの魔術師になると見るだけで判別できますよ」
ふーん、適性無しってことは俺は魔法は使えねぇワケか。
あー、でも魔法まで使えたら都合良すぎるよな。武器ガチャもあることだし。
▽▼▼▽
「そうだ。さっきので思い出しましたけど脳筋くん。『闇の魔導書』はどうなりました? 最近、診療所で押収したと聞きましたが」
「あの本か。書いてある通りにするのもなんか危なそうだしほぼ何も手をつけてねぇ。路地裏に落ちてた理由とかも謎のままだな」
「う〜ん、魔法に疎い騎士団が調査してもあまり良い結果に結び付かなさそうですね……僕に譲ってください」
『闇の魔導書』……ブラッドが持ってたヤツか。あの本を読むんだか持ってるんだかすれば闇属性の魔法が使えるようになるっぽいが。
ジャイロは「しょうがねぇ」と舌打ちして懐から黒い本を取り出し、ルークに手渡した。いや持ち歩いてたのかよ。
用を済ませ、肉も食い終わったジャイロは席から立ち上がる。
「ふ〜腹いっぱいだ、オレはもう行くぜ。じゃあ――」
「す、すみません!!」
「あ?」
そんな彼を引き止めたのは、いかにも『シェフ』って格好をしている男。
しかし、服に似合わずゴツくてデカい体格の人だ。
「魔術師団のルークさん、騎士団のジャイロさん。それと他のお二人も。私はここで店長兼料理長をしているロディと申します。少し、私の頼みを聞いていただけないでしょうか……」
ロディはその強面に似合わない、困ったような声でそう言った。




