#50 特別な友達
部屋に戻って少しばかりプラムとおしゃべりして、今日は二人で王都をブラブラ歩こうってことになった。
まぁルークとの待ち合わせまでの暇潰しだ。
話した通りにブラブラと街を散策中。
「……なぁプラム。最近思うんだが、こんなおっさんと二人きりで楽しいのか?」
「どうしたの急に? まぁ楽しいし……なんか、安心する」
唐突な謎質問は俺の十八番だから許して欲しいが、マジで気になってたことだ。
だってよ、プラムからしたら俺なんて父親かよってくらいの年齢差……あ。
ルークが、言ってたこと――
「……優しくて、色んなことを教えてくれたお父さんに似てて、安心するの」
マジかよ。あいつの予想的中だ。
ルークの話が正しいなら、プラムは父親を目の前で失ってる。そしてその父親の影を俺に重ねてるかもしれない。
そう、「かもしれない」だったのが今、本当になっちまった。
「あっ――もちろんお父さんに似てるからっていうのはおまけ程度だよ!? マコトっていう人が好きだけど、しかもお父さんぽいって感じるだけで」
言いたいことはわかる。俺のことを好きな理由は、それがメインじゃないんだよな。
そろそろ聞いてもいいんだろうか。
「じゃあお前……今は親どこにいるんだ?」
「……お母さんはね、私を産んですぐに死んじゃったらしいの」
「え」
そ、そうか、こんなにプラムと一緒に過ごしてて母親の顔を一度も見たことないなんて……母親が手の届く所にいる可能性は低い。
聞くべきじゃなかったか。
「私が生まれたのは遠くにある村だったんだけどね。三年くらい前に魔物の群れに襲われちゃって、お父さんと二人で逃げて……サンライト王国の存在は知ってたから、そこを目指そうってなって」
三年前。けっこう最近じゃねぇか。だが、父親は……
「道の途中でお父さんは、私を庇って魔物に殺された。怖くて、寂しくて、とにかく走って……王国の近くでルークに拾われたの」
なんて不運だ……自分の命があって、ルークに拾われたのが不幸中の幸い。
それにしても、十二歳の少女が背負うには壮絶すぎやしねぇかな。
この子が今どんな顔してるか気まずくて見れねぇよ。とんでもねぇ質問しちまったのは俺なのに、なんて言葉をかけたらいいのやら――
「プラム!」
「……あ、リリー」
ん? まさかの乱入者は……どこか見覚えがある。
リリーとかいう少女はプラムと同い年くらいの見た目。茶髪で、頬のそばかすが印象的。
……ああ。思い出したぞこの子は、
「あの時の迷子娘か!」
「「そーだよ」」
返事がシンクロしてやがる。いつの間にこんなに仲良くなったんだこいつら。
彼女は、俺やブラッド達が命をかけて"ジョーイ"って蜘蛛型の魔物から救った少女だった。
▽▼▼▽
右から俺、リリー、プラムの順でベンチに腰掛ける。隣のリリーは俺にぺこりと頭を下げ、
「あの時はほんとにありがとうございました、絶対に忘れません。ブラッドおじさんにももう一回会いたいなぁ」
「……そうだよな」
命の恩人なんだから会いたくて当然だ。ブラッドがそれを好きこのむのかは知らん話だけどな。
一週間の内のどっかで退院したって噂は聞いたが、今あいつはどこにいるんだろうな。荒くれ者には戻ってねぇのか。
「ところでお前ら、いつから友達なんだ? ……いやあの出会い方なら、仲良くなるのは必然のような気もするが」
この一週間、俺はプラムと話す機会は多かったものの、リリーとは一度も会ってない。だが二人は俺の知らないところで会ってたんだろう。
答えるのはリリーだった。
「プラムとは特別な友達……もう最初に話した時から決まってたんだと思います。私は今『学園』に通ってるけど、大体いつも講義が終わったらすぐに魔術師団の領地の近くに行ってて」
「そ。私もその時は訓練を中断して、おしゃべりするの」
えー、そうだったのか。全然気づかなかった。時間帯的にアレかな、まだ俺が依頼をこなしてる最中とかが多かった可能性あるな。
なんにせよ、プラムに同い年の友達ができてよかった。あいつ、なんか学園に一瞬通ったけど人間関係ダメだった的なこと言ってたし。
「今日のはもう終わったのか、リリー」
時間は現在……たぶん十二時くらいだな、お日様の感じからして。我ながら適当すぎる。
「いや、今は昼休みです。もうすぐ終わるからそろそろ行くね。また会おうねプラム」
「うん、またね!」
リリーもプラムも笑顔でお別れ。リリーは学園があるんだろう方向へ駆けていった。
ずいぶん元気そうだし、余計な心配はいらないよな。
「……あ、そういえばリリーどうして壁の外で迷子だったんだ?」
「好奇心で出ちゃった、って言ってたと思う」
「……」
やっぱ、温かく見守ってやった方がよさそうだ……いろんな意味でな。
ルークとの約束の時間までは、あと二時間ってとこだ。ただの食事の約束だが。




