#48 イタズラ好き
心地よい朝日に瞼を刺激され、俺はゆっくりと目を覚ました。
ここは二段ベッドの下の段。隣のベッドの上の段には、いつものように少女が眠っている。
「喉渇いたな。水は切れてるんだっけか……食堂行かねぇと」
飲料水の蓄えが無くなると、いちいち食堂まで足を運ばにゃならん。面倒だ。もっと計画的に買い物しよう。
廊下に出るためドアへ近づく。いつものように開ける――
「ぶわッ」
開けると、上から桶みたいな物が降ってきて、頭に覆いかぶさってきた。それだけじゃねぇ。中には水が満タンに入ってやがったようで服も床もびしょ濡れだ。
絶対に飲むための代物ではないと思うが、口の周りの水を舐め取ってひとまず喉を潤す。
そしてこんなイタズラをするようなヤツは一人しかいない。
「――またやったなお前!?」
頭を桶から脱出させてから、その人物と視線を合わす。二段ベッドの上の段から最高にニヤついてきてるクソガキ、プラムだ。
「だって反応が面白いんだもん」
よく考えればあのドアは開きかけだった。
昨夜はしっかり閉めた記憶があるから、俺が起きてくる前に起床して罠を準備したんだろうよ。
「まったく、服が濡れちまったよ。ああそうだ、そんなことよりお前に渡す物がある。降りてこいプラム」
「えっ、なになに?」
興味津々のプラムが梯子を使ってベッドの下の段へ降りる。俺はポケットを探るフリをしながら近づいて、
「かかったな。くらえ」
「ひゃっ!? あっは、ちょ、やめ、あはははっ、や、やばい息できなっ、はは、あはは!」
プレゼントなんか無い。下らないイタズラには下らないイタズラ、脇へのくすぐり攻撃を返してやった。
▽▼▼▽
「はー……はー……しぬかと思った……」
一瞬だけ休憩はさんだりしながらも、五分ぐらいはくすぐってたか。
正直言うと俺はかなり楽しめたが、逆にこのイタズラ好きの同居人はキツそうな顔をしてる。
「マコト……くすぐるの……上手だね」
「そうか? お前が弱すぎるだけじゃねぇのか」
「よ、弱くないもん……」
ジャイロと決闘したあの日からもう一週間が経つ。早いもんだ。
ただ簡単な依頼をこなしたりするだけ、特に何も無い一週間だった。主に接触したのはプラムとルークかな。
変化したことと言えば一つ。
未だに魔術師団の寮で居候生活しているこの俺の存在が、マゼンタ団長により団員達に明かされた。
まだ『英雄』という(俺的には微妙な)肩書きが健在だったんで団員達からは歓迎され、すれ違えば挨拶するって感じになった。
プラムと共同生活してるってことも知ってるくせに、そこだけは誰も触れてこない。変な関係じゃねぇよ?
「そろそろ朝食か」
「お腹すいた〜」
まぁ少しは堂々と歩いて良くなった、ってことらしい。




