#46 赤と青
まさかルークが乱入してくるとはな。目の前には大きな氷の柱が立ってる。俺びっくりしてコケたけど腰抜けてねぇかな?
「この野郎……」
ジャイロの表情は驚愕から怒りに変わってるような感じだ。なんかルークのこと知ってるような素振りだな。
――赤髪のジャイロ、青髪のルーク。
――ソフトモヒカンのジャイロ、マッシュルームのルーク。
――騎士団指導役ジャイロ、魔術師団二番手ルーク。
――暑苦しいジャイロ、優しく冷静なルーク。
考えてみりゃ、正反対の二人だ。
「邪魔すんじゃねぇよヒョロ青髪が!」
「あなたがバカなことしてるからですよ脳筋赤髪くん!」
……え?
「バカなことだぁ!? 戦うことこそ、人間であることだろうが。てめぇみたいな草食動物にはわかんねぇだろうけどよ!」
「僕だけじゃなく国民全員わからないですよ! よく考えてください、『騎士団長の息子』と『英雄と呼ばれ始めた人』、どちらが負けても評判ダダ下がりで最悪です!」
なんだ、こいつら。知り合いなんてレベルじゃねぇなこれ。こんな闘技場のド真ん中で大声で喧嘩おっ始めてやがる。
ジャイロは口悪そうなイメージだったが、意外にルークこんな口調もできるんだな。何なんだこの二人……仲いいのか、悪いのか?
「いやいやオイ、今オレ勝ちそうだったから誇りは折れねぇぜ?」
「だからマコトさんが負けても付いたばかりの『英雄』という肩書きが早々に消されてしまうでしょう! あなただけじゃないんですよ!」
「えーい、とにかく黙っていやがれ! ひとまずマコトにとどめをさして勝負を終わらせる!」
「やめろって言ってるでしょう!?」
うわーすげぇなこの二人。永遠に口喧嘩できるのか……と思ってたらなんか急に俺が話題に上がってきたやべぇ。
「オレが勝つんだ!」
「これだから脳筋は――」
ジャイロが目前の氷注を避けて、サイドから俺を攻撃しようと木剣を構える。そして振ってくると思いきや。
またも地面から突き出てきた別の氷注――ルークの魔法によって止められた。ぶつかったのは氷と木剣なのに、金属音のような音が響く。
まさかの事態だが、それはそれとしてテンションの上がる光景みたいだな。観衆どもの歓声がこれまでにない大きさだ。
「邪魔を……オレが火の魔法使えんの知っててのこれか……?」
「はい。二人にはもう戦わせません」
そのルークの言葉にさらに怒りを燃やしたのかジャイロの持つ木剣が文字通り燃え上がり、氷注は溶けて折れた。
そうか、ジャイロは魔法で剣に炎を纏わせることができるのか。オークを倒した時に剣が燃えてたのもそういうことらしい。
って、やべ。また俺に来る。邪魔が無くなったジャイロがまた俺を狙って、燃える木剣を自身の頭上に構えている。
振り下ろす――と、同じく杖を振ったルークによってクロスするように生えた二本の氷注に勢いを封じられた。
「こんのぉぉぉ」
なぜかイラつきMAXのジャイロは炎をさらに強め、氷注を破壊しようとする。だが今度の氷は太くてなかなかしぶとい。
なんとか割った頃には、木剣が炎に耐えきれず塵になったんだから。
「あー! オイ武器なくなっちまったよ、どうしてくれんだ!」
「それで良いんですよ――マコトさん。ここで決着を付けてはダメです、逃げてください」
確かにまだジャイロと勝負ついてないし、ルークにお礼も言ってないし、状況があんまし理解できてないし、『英雄』と呼ばれちまってる感じの俺。だからこそ、俺はこの言葉をみんなに贈ろう……
「そうするぜ。あばよっ!」
俺は逃げ出した。




