#45 決闘
今、俺がいるのは『闘技場』。確か冒険者登録のための認定試験も本来ここでやるって話だったよな……免除されたのに、けっきょくここでの戦いは経験するのかよ。
「俺、病み上がりだぞ。情がねぇのかよお前には?」
「……? 情熱なら燃えたぎってるぜ」
「そうじゃねぇよ」
木剣を構えた俺、向かい合って同じく木剣を構えるは、燃えるようなソフトモヒカンの赤髪を持つ男、ジャイロ。
こいつ、マゼンタとの話し合いが終わった直後に「オレと決闘しようぜ」と申し込んできた。完治とは言っても俺さっき退院したばかりだ。頭のネジ足りてんのか?
「剣くらい扱えんだよな、英雄殿。早速いくぜ」
「おお扱えるさ……てか返答待てよ」
肩をすくめて答える俺に、既に向かって来てるジャイロ。せっかちな野郎だな。戦いたくてしょうがねぇみたいだ。
始まる前にジャイロから支給された木剣を両手で握り締める。手汗がハンパねえ。
観客が多すぎる……
表現するなら、ここはイタリア(?)のコロシアムみたいな形だ。俺とジャイロがいるこの広場を、取り囲むように上から観衆の視線が降り注ぐ。
客の中には騎士もいれば一般人もいるようだ。基本的に開放してるんだろうかな。
「おお!」
斬りかかってくるジャイロ。レオンよりも、ウェンディよりも洗練された太刀筋だ。容赦なく俺の体を殴る、突く、叩く、突く――
「いでででで、いで!? なんだ上手くいかね……いで!」
おかしいな。相手の太刀筋は見えるんだが、それを防いだり受け流したりする動きを体がしてくれない――というかやろうとしても間に合わないんだ。木剣を上手く扱えねぇ。
「どうしたよ、こんなモンか英雄は」
まさかのガードもカウンターも何もできない俺に、無慈悲に木剣を打ち込んでくる赤髪の騎士。
いや、絶対におかしい。なんたって今まで普通に剣を振るってたんだぜ俺は。ウェンディの時も剣で上手く鍔迫り合って吹き飛ばした、ブラッドの時も青龍刀でしっかり攻撃を防いでた。
なぜ急に剣の使い方がわからなくなった?
こうして考えてる間にも、調子に乗るジャイロの攻撃は続いてる。腕やら腹にダメージが蓄積していく。痛ぇし、いくら《超人的な肉体》でもいつか限界はくるんだ。時間は多くない。
……推測のレベルだが、俺は一つの答えを出し実行することに。
「オレ一本しかあげてねぇよな?」
「げほっ、もちろん……さっき拾ったんだ」
武器ガチャでもう一本の木剣を生み出した。何となく「木剣が欲しい」と願ったら、ハズレないで出てくれた。それを右手に、貰い物を左手に構え、二刀流。
右手の木剣で攻めてみよう。これで謎が解けると思う。
「いくぜ……」
「うぉ!?」
すげぇ。貰い物では防戦一方にさえならなかったのに、武器ガチャの木剣なら騎士団の指導役であるジャイロを怯ませる程の技術を発揮できる。何回でも打ち合える。
やっぱり、俺は武器ガチャで出た武器の扱い方なら完璧に理解できるらしい。常識的に考えて、前の世界で普通のサラリーマンだったろう俺が剣を扱えちまう方がおかしいって話だもんな。
何発かの打ち合いの末、ジャイロの鳩尾を木剣の先端で突くことに成功した。
「ぐっ……!」
「どうした〜押されてるぞジャイロ」
「団長の息子がそんなんでいいのかよ〜」
「『未来の団長』だろ〜」
「う、うっせーな、オレが負けるかよ!」
観客のやじが飛ぶ。どうやらこいつは騎士団長の息子で、将来その役目を継ぐらしい。
騎士団の指導役だと、それしか知らなかった俺。言葉以上になんか偉そうだなとは薄々思ってたが、たくさんの人に期待してもらって、すんげー良い立場にいるんじゃねぇかよ。
彼が、今ここで負けたら……どうなる。想像したくねぇよ。
「ぬあうっ」
直後、気を抜いた俺の木剣は二本揃って弾かれ、どこかへ飛んでいった。一本は消滅するだろうけど。
「……あーあ、武器がなくなっちまった。俺の負けで――ええええ!?」
「なんだ!?」
俺が両手を上げて負けを宣言しようとしたその時だ――目の前の地面からバカでかい氷の柱が飛び出してきて、尻餅をついちまった。
勝った気でいたジャイロも相当驚いてる。
「そこまでです、二人とも」
「てめぇは……」
客席から颯爽と降りてきたのは――久々に見た気がする、青髪の若い男。魔術師ルークだった。
いや、遅ぇよ?




