#43 ジャイロの闘争心
今回は、今まで少しだけ登場していた騎士団指導役ジャイロの視点です(会話相手は女騎士ウェンディです)。
「……と、いうことだジャイロ」
「なるほど、迷子の子が元気で良かったぜ……だが気になるのはあいつだぜ。マジで何者なんだ。見たことねぇもんなぁオレ……」
あの迷子騒ぎから早くも一日経った。重傷ってことで昨日から診療所にブチ込まれてるのは『Bランク冒険者ブラッド』と『Eランク冒険者マコト・エイロネイアー』の二人。
ブラッドは国内でもまぁ有名な方だ。Bなんてあんまりいるもんじゃねぇからな。
だが今の問題は、マコト・エイロネイアーとかいう奴だ。あまりにも無名すぎる。オレを含めほとんどの人間があいつのことをよく知らねぇらしいんだ。ランクもEと一番下だしな。なのに、
「EランクがBランクに慕われてるってどういう状態だ?」
「それを理解するのは私でも難しかったよ」
昨日の夜、報酬の話をしようと診療所に行き、子分をまとめてるであろうブラッドに話しかけた。だが返ってきた答えは、
―――
「俺はもうボスじゃない……報酬はマコトの親分と相談してくれ、彼に従うのみだ」
―――
Eランクのよくわからないおっさんに従うって……
そう言われてもそのマコト本人が、揺すっても起きないほどに爆睡してたんでけっきょく話なんかできなかったんだが。
「で、その爆睡の末、今日にも完治か……」
おかしいだろ絶対。肩の辺りをザックリぶった斬られてたってのに。異常な回復力だ。あいつ本当にEランクなのか?
――あ、そうだ。目の前にいるウェンディは、
「マコトって奴とは知り合いなんだっけ? 色々聞かせてくれねぇか」
「ああ、彼とは良き友だ」
友達ぃ!? そんな関係だったのかよ。もっと早くから聞き出せば良かったよ。
「まず四日前のレオン氏とアーノルドの話……は聞いたか、ジャイロ? 私も先程耳にしたのだが……」
「あ? 知らねぇけど」
「門番をやってた二人が、まだ国民でなかったマコトと交戦し、少し圧倒されたらしいぞ。原因としてはどちらにも非があるそうで、聞いてるとその時はマコトも不調だったようだがな」
「マジか、レオンは今でもなかなか腕が立つのに……あ」
ちょっと思い出した。いやその光景は見てねぇけど、別の話を思い出した。
それはルークとかいうヒョロ青髪野郎から三日程前に、急に注意された時だ。「国民でないからといって殺そうとするなんて指導がなってないにも程がナントカカントカ」と永遠に喋ってたが、まさか今の話から繋がんのか?
「それと同じ日に、路地裏にのさばるチンピラが三人ルーク氏に逮捕されてたが、叩きのめしたのがマコトらしい」
同じ日て……行動的すぎねぇか? とにかくまたヒョロ青髪の話が出てきて気分がよくねぇ。どんどん聞こう。
「恐らくその次の日だな。私は初めて見たマコトを怪しいと思い斬りかかったのだが、おかしな曲芸で軽く返り討ちにされた」
「お前が!?」
また初耳だぞオイ。
あいつは確かに変な格好だから斬りかかるのは文句ねぇけど、オレ以外にはほぼ負け無しのウェンディが圧倒された? 信じられん。
「そして冒険者ギルドに登録しようとする彼につっかかってきたのがブラッドだ。ヤツは私を殴ろうとしたところをマコトに止められ、直後の投げ技一発で気絶していたな」
どこか懐かしむように話すウェンディがいる。それほど印象的だったのか。
「彼に関する主要な事件はこんなものだが……」
こんなものと言うが、なかなかやべぇぞこれ。
腕の立つ騎士であるレオンとアーノルドとウェンディを圧倒し、路地裏の弱かねぇチンピラを倒し、自分より相当上のランクのブラッドを軽々倒した。
無名なのに異常だ。異常な強さだ―――――燃える。
「で、昨日と一昨日だよな」
「うむ。診療所でブラッドの話を聞けたな」
召喚された百体のスケルトンを全滅、『闇の魔法』とやらで強化されたブラッドと召喚されたキングスケルトンをまとめてブチのめしてブラッド達を子分にし、騎士団の最近の悩みだった魔物"ジョーイ"を倒して、少女を傷付けることなく救出。
強さに拍車がかかってねぇかこれ―――――燃えてきた。
「一見すると目覚ましい活躍だな。実際に噂は広まっていて、"ジョーイ"を倒し少女を救出したマコトは、もはや『英雄』扱いだ」
「……『英雄』?」
少し、体が震えた。
騎士団長の息子であり、『未来の団長』と呼ばれ、騎士団の指導役を一手に引き受けるオレよりも目立っちまってるよな、あのおっさん。ちょっとこれは問題じゃねぇかなぁ〜?
ってのは建前で、
オレはこう思ってる。戦うことこそ、生きることであると。戦うのをやめればそれは生きてるとは言えない。人間なら戦うべきだ。いつでもどこででも、戦ってるべきだ。
―――――強い奴と戦うのが、オレは大好きだ。
「マコトって奴、完治なんだよな?」
「そうだが――」
「あいつと戦う」
言った瞬間、オレの体はもう診療所の方向を向いていた。




