#39 親分・兄貴・子分
ブラッドとキングスケルトンを倒してから、もう夜が訪れそうな数時間後に、同じ場所――つまりは激闘を繰り広げたあの広場で、
「「「すいませんでした!」」」
ものすごい人数の屈強な男達が、俺の正面で土下座してる。いやはや信じらんねぇ状況だ。
「どうするの? 許すの?」
「あ〜……」
バッサリと斬り傷が残る俺の肩を治療してくれてるのはプラム。当ててる手が光ってて『回復魔法』とか言ってたが、本で読んだ程度の知識ということだ。うん、気持ちは嬉しいが確かにあんまり回復してる感じが無い。変わらず痛ぇ。
まぁ、この傷を作りやがったのは土下座してる奴らの一番前にいるドレッドヘアの大男、ブラッドだが。
「マコトさん、許してくんねぇでしょうか……俺達反省してます……本当に」
「はぁ、『許さねぇ』っつっても今更……もうお互いに生きちまってんだから、気まずくてこれ以上戦えねぇだろ」
「俺頭悪いんであんまり意味わからねんですけど、許してくれるってことで?」
「……もうそれでいいよ」
手頃な岩を椅子に使って、俺はガックリ肩を落とす。弱々しい治療を続けてるプラムは俺の顔を驚いた感じで見てくる。
「マコトのこと……その……殺そうとしたのに、許しちゃうの?」
驚いた、というか俺のことを心配してるような目だ。
ああ確かにブラッドとその子分どもは俺を罠にハメた上、殺そうとしてきたさ(ゼイン以外の子分は木陰から俺とブラッドの戦いを見てたが怖くて近寄れなかったとのこと)。
俺だってこいつらには怒りしか感じなかったはずだ。しかし結局、誰のことも殺さなかった。
今も、呆れつつもこいつらを許しちまう流れ。
殺さなかった&許したのには、意外と自分勝手な理由があるんだが……な。
「許してくれてありがとうごぜぇます……しかしマコトさん、なぜ生かしてくれたんです? あんたは強くて……俺達なんか虫けらみたいに殺せたでしょうに」
「――ギルドでの件」
「はい?」
短く言った俺を見て、土下座の姿勢で顔だけ上げてるブラッドが理解不能をまばたきで示してくる。さすがに察することはできねぇか。
「ギルドでの件は、完全にお前のせいだブラッド。さすがに今はわかってるとは思うが――ただ、理由はどうあれお前あの時からずっと、恥をかかせた俺のこと恨んできたワケだろ? 戦ってる時も俺への恨みが爆発してるはずだ。そんな状態のお前を殺したら俺を恨んだまま死んでいくだろ、夢見が悪ぃんだよ」
「……は、はぁ」
俺には珍しく長台詞を吐いちまったが、ホントに自分勝手だろ? 予想外だったのかブラッドはおろかプラムも驚いてる。
――あー、もしかすると理由ってこれじゃなくて……ただ殺すのが怖かっただけかもしんねぇ。俺にも何が真実かはわからん。
「う……ゲホッ。マコトさん、俺も許してもらえるんスかね……」
「お前は許さん」
顔中たんこぶだらけで喋りづらそうなゼイン。俺はそんなヤツの顔面に無慈悲にも蹴りをお見舞いした。
「ぎゃああああいってぇ、何で俺だけえええ!?」
鼻血を吹き出して地面をのたうち回るロリコン。いや、逆にお前許してもらえると思ってたの?
「ええと……マコトさん? どうしてゼインだけ扱いが酷いんですかね? やっぱりプラムちゃん攫ったからですかね――」
「なんだお前、こいつの愚行知らねぇのかよブラッド」
「ぐ、愚行? な、何があったんで……?」
「こいつプラムの体を撫で回したんだぞ。許すわけねぇ」
「なっ――!?」
開いた口が塞がらない、筆頭子分のまさかの性癖を知っちまったブラッド。マジで知らなかったようだ。驚きの直後、ドン引きが表情に出まくってやがる。
「ゼインお前……これからあんまり俺に近づくな」
「なんでっスか兄貴いいい!?」
「いや当たり前だろ」
「だからあれただの出来心だったんスよ! もう体ボコボコで痛いしマジで許してください!」
めちゃくそ冷めた目でロリコンを見つめるブラッド、弁解を求めて兄貴と俺とロリの方に順不同で顔を向けて必死なロリコン。そしてそのやり取りを見ながらも真顔のロリ、カオスな状況にため息をつく俺。
だがそのカオスに脱線した状況を終わらせるように話題を切り替えたのは……ブラッドだった。
「ああもう、そんなのどうでもいい! 俺達がマコトさん、あんたに頼みてぇのは……俺達を全員まとめて子分にしてくださいってことです!」
「あぁ!?」
悪い冗談にしか聞こえん……あの、終わらせられてねぇぞ。さらにカオスになってるからな? 自覚してるのか?
「理由なんか関係ねぇんです、俺達を殺さず、しかも許してくれたマコトさんに感服したんです! これまでの償いです、扱き使ってくだせぇ!」
「……はいはい、勝手にしろ」
「そこをなんとか――え!? それって肯定ですよね! ありがとうごぜぇます、本当にありがとう!」
まぁ言葉通りだ。勝手にしろって感じ。否定して交渉に持ち込まれたりしたら逆に面倒だし、たぶんいてもいなくても困ることはねぇからな。
「よしじゃあお前ら、これからも俺が『ブラッドの兄貴』だ。そしてこれからは彼が『マコトの親分』だ」
「「「へい、よろしくお願いします親分!」」」
うわ、想像以上に暑苦しくなりそうだな……しかも子分の中にゼインもしれっと入ってる……
「プラム、あいつも子分に含まれるっぽいが大丈夫か?」
「マコトがいいならいいよ。もう気にしてないから」
「すまねぇ……まったく、呆れるくらい強い子だ」
普通の笑顔を向けられた俺は、思わずその少女の頭を撫でていた。
その時――
「ゼイン! 伝令が遅れてすまんが、こちら北の森では少女は見つからなかった! 東の墓地周辺はどうだった!?」
馬に乗ってやって来たのは紫髪の女騎士ウェンディ。と、もう一人馬に乗った騎士が後ろにいるな。
ともかくウェンディがこの状況見て動揺しないはずは無く、
「なっ……ブラッド?? いたのか? しかも……な、なぜ主要な面子がことごとく傷だらけなんだ?」
黙りこくる、『あくまで東の墓地を少女捜索のために訪れた』一同……ま、不可思議だわな。
しゃーねぇ、俺が超絶わかりやすく説明してやるとするか。
「残念ながら女の子は見つかってねぇ。ここで何が起きたかというと……ブラッド達が俺を殺そうとしてきて、とりあえず返り討ちにしてやったら、親分・兄貴・子分の関係が出来上がりさ」
「――いや、全く意味がわからんが」
「だろうな」
俺だって理解しきってねぇのに……
ちょっと頭の固いところがあるウェンディに理解させるまでは、少し時間がかかりそうだ。




