#3 三つの朗報?
ここまでは俺の質問をかなりスルーして答えられるとこだけ答えてた感じの女神様だが、そんなあいつがくれる朗報ってのは、どれくらいのレベルか。
ちなみに今まで話してて、わかったのはこれだけ。
・ここは異世界です。
・転移させたの女神です。
・記憶消したのも女神です。
情報として弱すぎやしないか。期待してしまってる自分がいるが、不安になる要素しか――
『まずは一つ目。この先異世界で生活する貴方に、二つの能力をプレゼント致しました』
「の、のうりょく……?」
聞き慣れない、たぶん元の世界の俺でもきっと聞き慣れないその言葉に顔をしかめた。能力て、またファンタジーな世界入ってきたなぁ。
だが待てよ? これがもしめちゃくちゃ生活に便利な能力だったりしたら最高だよな。やっぱその辺期待させてもらおうか――
『しかし、私はただ"能力ガチャ"を引いただけなので、貴方が何の能力を得たのか把握はできていません。能力がそれぞれ発動した際に軽くご説明致します』
「今わかんねぇのかよッ!」
期待しなくて良かった。ガチャとか意味わからんし得られた情報ってのは、二つの何の系統かさえわからない能力を貰いました、だけ。いやマジでこれだけだぞオイ。
『そして、二つ目。これから貴方が名乗る名前です』
間髪入れずに言ってくる。能力はもういいや……名前は重要だな。城があるんだから町もあるだろう、町があるなら人もいるだろう。そうなると自分に名前が無いのはおかしいし怪しい。
『貴方はこれから、"マコト・エイロネイアー"さんです。どこで誰に聞かれてもこれを答えてください』
「んん? マコトって妙に日本っぽくないか?」
俺が聞きたいのは『マコト』が俺の本名ではないのか、という点だったんだが、女神様は答える様子もなくしばらく黙ると、
『マコトさん、これが最後、三つ目です』
やっぱり出たのはお手本のような無視。まぁ元の世界に帰す気がこいつには無さそうだし、本名なんか知ったところで現状役には立たなそうだけど。『マコト・エイロネイアー』か、覚えとかないとな。
さて、どうせ三つ目もろくなもんじゃねぇだろうな。
『元の世界の貴方は、ここに来る事を強く望んでいました。それも、私がその記憶を消そうとしても完全には消しきれなかったくらいに』
「……なに?」
朗報とは言えないが、これは興味深い。俺は顎に手を当てた。
「前の俺はこの世界を知ってたのか?」
『いえ、そうではありません。伝え方が悪かったかもしれません。貴方が望んでいたのはこの世界への転移と言うより、あの世界からの逃亡と言った方が正しいでしょうか』
「逃……亡……?」
日本から逃亡したかったのか俺は。その点だけ記憶を消しきれなかった的な事言ってたが、今のところ何も思い出せない。ただのおっさんに見えて実は重大な犯罪でもやらかしてたのかね。
『これだけは少しのきっかけで思い出せるかもしれませんね』
「やっぱり詳しくは教えてくれないんだな。もうツッコまないぞ」
消しきれないほどに強い想い……女神様は逃げたかった俺の気持ちを汲んでくれたってのか? だが一応俺を転移させた目的は別にあるようだし、こいつのこと知れば知るほどに意図が読めなくなっていくな。
「なぁ、おい」
またそれを質問しようとした俺だが、
『さ、異世界での生き残り、頑張ってくださいね。ではまた』
その言葉を最後に、どんなに呼びつけても返事が返ってくることはなかった。あれで終わりかよ……最後まで雑な。
――待てよ、生き残りだと?
「助けてぇーーー!!」
女神様が残した物騒な言葉を気にかけていると、すぐにこれまた物騒な叫び声が聞こえてきた。
その声はまだ小さな女の子っぽい声質だった。森の方だな。
なんだよ、なんなんだよ、行ってみるべきなのかこれは……怖いし、面倒、気が引けるなぁちくしょう。でもトラブルあったみたいだしなぁ。あっ、そういえば聞こえたの日本語―――
かなり焦っていたこの時の俺は知る由もなかった。俺が前の世界から逃げたかったその酷な理由を、すぐに思い出す事になるとは……