#38 殲滅する者
オレンジがかってきた空の下。
肩の辺りをバッサリ斬られて背中から落ちて、仰向けに倒れてる俺。
今しがた声が聞こえたが、俺の名を呼んでたような……呼ぶ奴なんて一人しかいねぇよな。
「……プラ……ム……」
あの子は父親を目の前で失ったらしいよな。俺をその影に重ねてるだか何だか知らねぇけど。
大切な存在を失う、ってのがトラウマになってるかもしれない。当たり前だ、父親だろうが友達だろうが、好きだったなら目の前で失うなんてキツいに決まってる。
プラムが、俺の名をあんなに大きな声で叫んで心配してくれるなら……俺がもう、少しでも大切な存在になったんなら……
「死ぬわけ……いくかよ、クソったれがあああ!」
体中痛いけど立ち上がった。正面からキングスケルトンの手が近づくが動きは速くねぇ。
先に片付けるべき問題は、近寄ってくるスケルトン共だ。
「うあァ!!」
トンカチを生み出し、三体の頭蓋骨を粉砕。
そしてキングスケルトンの左手が遂に目の前に来た。
もう躱すなんて素早い動きはできなくて、両手で受けるしかなかった。すげぇ重い。掌だけで俺よりデケェんだぞ。
どんどん俺が、後ろへ後ろへと押されて行く。だが俺の体からまた、白いオーラが発生し始める。力が湧き上がってくる。
「ふんっっっ!」
巨大な手を押し返して勢いを殺し、
「――おあああァ!」
行き場を失った掌にさらにトンカチを叩き込む。トンカチ自体がぶっ壊れる程の威力、キングスケルトンの掌も破壊しちまった。
「オオオオオオ」
「痛ぇかよ、おいこらデカブツ! 俺も痛ぇわ! さっきのお返しだ!」
苦しんでるっぽいキングスケルトンにカッコよくないセリフを吐いて、今度はスコップを生み出す。
たぶんキングがいる間は無限に出てくんだろうが、とりあえず近寄るスケルトンを蹴散らすためだ。
横に振ったり振り下ろしたり、流れるように倒していく。
とにかくもう一度キングスケルトンの肩の上に登るべきだよな。ブラッドはまだあそこにいるだろうし――ああ!
「両手で持たなきゃ扱えねぇ! 邪魔だクソ、いらね!」
大きめのスコップだから片手で扱うのはなんか無理があるし両手で持つしかないが、それよりもちゃんと片手用の武器がいい。
――スコップはそもそも武器じゃねぇけどな。
ひとまず投げ捨てといたが、投げた先でいくらかスケルトンが被害受けてんな。
手に力を集中させると、お次は手斧が出てきた。
「そうそうこれだ!」
片手で思う存分振り回しながら、キングスケルトンの元へ向かう。その時、悲鳴が聞こえた。
「うああああああ」
野太い悲鳴だ。プラムのじゃねぇ。あの声ってまさか……
「ブラッド……!?」
どうなってんだ。奴はキングスケルトンの壊れてない方の手、つまり右手で掴まれ、今にも口へ放り込まれそうになってやがる。
「お、おいキングスケルトン! 召喚してやったのは俺だぞ! クソ、主従関係は絶対のはずだろうが! 何で食おうとするんだバカ!」
どうやら俺よりも動揺してるのは掴まれてる本人。確かに召喚したのはブラッドなんだし、あいつに従うもんだと勝手に思ってたな。
ともあれ、
「はっ、いい気味だ――」
「何でだよぉぉぉ、何で殺そうとするんだよぉぉぉ……!」
え……おい嘘だろ。ブラッドのやつ、泣いてるのか? キングスケルトンの口にどんどん近づいてくが……
「せっかく上手くいきそうだったのに何でこうなる!? 畜生、悪い事をした報いだってのかよ!? ……………ああ神よ! ああ死にたくねぇ、誰か! 誰か助けてくれ! 本当にすいませんでしたぁぁ助けてぇぇぇ」
「――墓場まで悪役引きずれよ、小物野郎が!!」
ブラッドのその情けない、泣き叫ぶ声を聞いた俺も気づけば叫んでいて、気づけば手斧を投げていた。
回転しつつまっすぐ飛んでく手斧はキングスケルトンの右肘を切断。その先の右手が、握られたブラッド共々落ちて行く。
道を阻んでくるスケルトンを押しのけて、落ちている途中のブラッドのところへ一直線。やっと辿り着くと、
「お、お前、俺を助けに……?」
「んな訳ねぇだろ」
俺はジャンプし、絶賛落下中のブラッドの顔面をがっしり掴み、そのまま後頭部を地面へと叩きつけた。
殺してはいない。だがこいつの失神顔見るのは二度目だな。
「オオオオオ!!」
あとの問題はコイツだけ。左の掌を破壊され、右肘から上を切り落とされたキングスケルトン。怒り狂った様子で、俺をそのまま食おうと大口を開けた顔が突っ込んでくる。
右手に、夕陽に照らされて金色に光り輝くガントレットを装備して、正面から相対。さぁ終わらせよう。
「どいつもこいつも、俺の勝ちだ!」
ジャンプして俺も突っ込む。右手を振り抜くと、向かってくるキングスケルトンの顔面が砕けた。




