#37 闇の魔法 vs 武器ガチャ
クソ、驕ってた。自分の力を過信してた。あれだけの啖呵切っといて――
「プラムすまん! 俺の判断ミスだ、こいつ想像以上に手がかかる!」
ああ、情けないにも程があるぜ。
なぜ俺がこんな事を叫んでいるか、それは言葉通りだし簡単。目の前のブラッドの強さが俺のイメージを遥かに上回ってやがるんだ。
楽に勝てると思い込んでた。『闇の魔法』なんて、大したことないと勝手に思ってた。
その上、冒険者ギルドでこいつを投げ飛ばして一発KOしてるし、百体のスケルトンやゼインを倒してここまで来た。
だから、天狗になってたんだ。
「マコト……!?」
「もう間に合わん、逃げろ、逃げるんだ!」
心配げな目で、地面から俺を見上げるプラム。
召喚されたスケルトン共がその少女へと、四方八方からゆっくり迫っていく。そんな光景を上から全部見れるからこそ、俺は不安で仕方がなかった。
ブラッドを一撃で倒してすぐに降りて彼女を守るつもりだったのに、青龍刀と大ナタでの打ち合いがかなり長引いてる。力不足だったな。
俺の言葉にプラムはどうすればいいかわからない、とでも言いたげな顔。それもそのはず、あいつは完全に囲まれてて逃げ場なんて無い。俺にも見えてるはずなのにな……俺、焦ってるのかな。
「マコト、私……」
「無理だよな、やっぱ今すぐ降りる! 心配すん――」
キングスケルトンの肩の上から、身を乗り出してプラムに叫ぶ俺。言葉を切ったのは後ろから迫る刃に気づいたから。
「お話の時間くれてやると思うかよ! あぁ!?」
真上から振り下ろされるデカくて歪な刃。俺はすぐに振り向いて青龍刀でそれを受ける。甲高い音がして、火花が飛び散った。
巨大な鉈は一発一発が重く、受け止めるのが精一杯。闇の魔法とやらで重みが増したりしてるらしいし、さっきから防戦一方だ。
「最初の威勢どこ行っちまったんだよマコト、やっぱり口だけで運だけの男だったな! さっさと負けろ」
「うるせぇなぁ、俺はこれでも戦闘初心者なんだぞ……!」
身を乗り出したままの変な体勢で刃を受け止めてた俺は、敵の刃を押し返す力を弱めないままゆっくり立ち上がった。
ブラッドは一旦反対側の肩へ飛び退き、また突っ込んで来る。
あの野郎やっぱり力強いんだろうな、あんなデカイ武器を軽々と、普通の剣みたいに振り回して来る。
負けじと俺も青龍刀でガードしまくる。が、刃がぶつかり合うたび腕に衝撃がかかってきて、そろそろ痛くなってきた。この衝撃も『闇』のせいか……単なる力負けか……?
てかこれ、俺の武器壊れねぇだろうな……
「おおォッ!!」
そしてまた、真上から振り下ろしてくるブラッド。頭上でそれを受け止めた時、相手の腹がガラ空きなのに気づく。
「だァ!」
鍔迫り合いが頭上で行われてる最中、蹴りを入れてやった。大ナタ握ったまま吹き飛ぶブラッドだが、その瞬間上を見ると、青龍刀の刃も砕けてた――あぶねぇ。間一髪じゃねぇか。
ブラッドが落ちそうになってキングスケルトンの肩を片手で掴み、戻るのに苦労してるのを見てから、
「すぐ行くから待ってろ!」
壊れた青龍刀を捨てて、今にもスケルトンに襲われそうなプラムへ叫ぶ。ところが、肝心のプラムは飛び降りようとする俺へ掌を向け、
「……やっぱりダメだよ、来ちゃダメ!」
「は? 何で――」
「マコトはそいつを倒すんでしょ!?」
肩へ這い上がろうとしてるブラッドを指さして少女が言う。
その通りだが待て、俺が降りなければお前が……
「私の心配は、いらないよ」
プラムは俺に歯を見せて笑いかけ、そして懐から木の棒――違うな、ありゃ魔術師の杖だ。
おっと……そういや肝心なことを忘れてたな。
「これでも私、ルークの弟子なんだから」
そう。あの子は魔術師団の見習いってレベルだが、同時に『魔術師団の二番手』とか『天才魔術師』と呼ばれるらしいルークの弟子にして妹分。
きっと今までは自信が無かったりして本来の力が発揮できなかっただけなんだと、目の前の光景を見て思う。
杖が、小さな炎の球を生み出していた。
プラムは火球を作っては近づくスケルトン達にぶつけ、ぶつけて、またぶつけていく。そうして彼女の近くのスケルトンがあっという間に全滅。
もちろんキングスケルトンがいる間は絶え間なく地面から這い出てくるが、
「オークの時は怖くなっちゃったし、ゼインの時は杖を盗られちゃったけど、今は大丈夫! マコトは自分の戦いに集中して!」
「お……おう!」
確かに彼女の心配はいらなそうだな。安心させるために、また彼女への信頼を示すために俺はできるだけ笑顔を作った。
同時に、ブラッドが肩の上へ戻る。
「ぬェェい!!」
横振りの大ナタが迫る。俺の手に鉄パイプが生み出されるが、直後に本能的に思う――これじゃあ受け切れねぇ。
避けるため、鉄パイプを構えたまましゃがむ。
バキンッ――
思った通り。鉄パイプの上の部分が跡形もなく切り裂かれちまった。残ってるのは俺が握ってた部分、ほんの数センチ。
「くらえ」
その残った鉄パイプの欠片を投げつけるも、巨大な刃に阻まれる。ブラッドは一気に距離を詰めてきてブンブンと豪快に大ナタを振り回す。
怖いからいちいちオーバーに躱す俺だが、突然ブラッドが後ろへ飛び退いた。
あいつの表情は少し焦ってるような――
「うぉ、あぶね!」
ここでまさかの乱入者。ずっとおとなしくしてやがったキングスケルトンだ。
奴は巨大な骨の手で俺を捕まえようとしてきた。ジャンプしてその危機を免れたものの、着地でよろける。
そのたった一点の隙、逃さなかった者が一人。
「ぐぅッ……………ぁぁぁああぁあああ」
目前のブラッドが、俺の肩やら胸やらの辺りを深く切り裂いてきやがった。
ニヤつく大男の顔を見ながらも、痛みに耐え切れず落ちて行く。遥か下の大地へと一直線だ。
「マコトーーー!!」
背中から、冷たい地面に落ちた。それに、なんだろうな、デカくて白くて骨っぽい手が……近づいて……くる……
―――――今、俺の名を叫んだのは……




