#35 確かな絆
やっぱり人を木製バットで叩きのめすなんて初めてだし、やった側の俺にも精神的なダメージあるな。
どっと疲れた俺はその場に座り込む。正面には、たんこぶと血で、もはや誰かわからない状態で失神してるゼインが倒れてる。
「このっこのっ」
あとは、そのゼインをさらに踏みつけてるプラムだな。おいおい。まぁ立派な被害者であるお前にはその権利あるか。
「プラム。死体(一歩手前)蹴りはおおいに結構だが、もしそいつの意識が少しでもあったらご褒美になっちまう。一服しようぜ」
「何で踏まれるのがご褒美? そんなのあり得なくない?」
良くも悪くも純粋な質問だな。とりあえず適当に「まぁな」と返して強制終了させた。
お前は知らないかもしれんが……いるんだ。少女を愛してしまう大人の男も、女性に踏まれることに快楽を感じる男も……って、こんな事口に出せるわけねぇよな。
あぁそれと、ゼインがロリコンなら、
「まさか、迷子もこいつらが?」
「いやそれは違うらしいよ。コイツ本人が言ってたけど」
今まさに(この状況のせいで若干空気になりつつあるが)捜索中の迷子の少女。
ゼインが趣味で連れ去ったとか、ブラッドが俺をおびき寄せるため連れ去ったとか可能性は考えられるけど、プラムによると違うらしい。
まぁあんなに小物臭いあいつらがわざわざ騎士団呼ぶようなマネはしねぇな、よく考えたら。
「――マコト」
「ん?」
ふいに名前を呼ばれてプラムの方を向くと、彼女は涙目で俺を見ている。
「やっぱり私、怖かったよ……」
「そうだろうな。一人ぼっちだし、なにより触られ」
「それもそうだけど」
プラムはちょっと強い声音で俺の言葉を遮り、瞳をうるうるさせて俺を上目遣いで見てくる。
「マコトが死んじゃうんじゃないかって」
「あぁ……」
セクハラの件を今はそこまで気にしていないようなプラムだが、どうやらゼインから「アイツは百体のスケルトンに囲まれ今頃はもう死んでるだろう」みたいな感じで話を聞いていたらしい。
俺はこの通り生きてるし、それより自分が助かったことを喜んで欲しいんだがなぁ。でも会ったの昨日で、今回はまだ俺への信用が低かったワケだ。
「まぁまぁ、俺はそう簡単に死なねぇさ。信じろよ――女神様を」
「ぐす、そういうところだーっ!」
「いて」
泣きそうになりながらもツッコミを忘れないプラムに頬をつねられた。マジで痛い。
頬を押さえて痛そうにしてる俺を見て、涙を流しながら笑ったプラムはまた抱き着いてきた。
「いつもあったけぇなお前。とにかくブラッドってヤベー敵倒したら迷子捜索に集中できる。もう少しだけ我慢してくれよ」
「それは良いけど、マコトっていっつも戦ってるよね」
「お前もなかなか問題起こしてるから似た者同士だぜ」
プラムと笑い合いながら、俺は立ち上がる。ブラッド――あいつは倒しておかねぇと絶対あとでまた面倒起こすよな。
『闇の魔法』とやらで色々できるようになってたが、これ以上ややこしくさせずに終わらせて欲しいもんだね。




