#34 よくわからない怒り
「はぁ……はぁ……おいプラム、どこだ!?」
墓地を抜け出し、両側を木々に挟まれる道をゆく。心配で仕方がない、大事な我が友人の名を呼びながら。
「離してよっ――――むぐ」
遠くから少女の声。直後に口を押さえられたか何かされたようだが、とにかくまだ無事なんだな、ひと安心だ。
一直線に続く道を走る。ただ走っていると案外すぐに人影が現れた。その影は……俺を騙しやがった憎きゼインと、ヤツに取り押さえられたプラムだ。
プラムは俺に気づき拘束を一瞬ほどいて、
「マコト!」
縋るように俺の名を呼ぶ。今のでまた、闘志に火がついた俺は力強く前へ跳び、
「くらいやがれ、ジャンピングフロントキック!!」
「てめ――ぶふァッ!?」
ネーミングセンス皆無にして俺自身の唯一の必殺技、飛び蹴りが振り返るゼインの顔面に決まった。
ゼインは地面を転がっていき、開放されたプラムは駆け寄って来る。しゃがんで目線を合わせた俺に抱き着き、
「ごめんなさい、私あんなヤツと仲良く……」
「お前に責任は無いさ。大丈夫安心しろ、俺はもうここにいる」
ちょっと泣きそうな目で、まさかの謝罪。怖かったよ〜とかガキっぽく言うのかと思いきや今度は責任を口にするか。
ある意味では生意気だが、まぁ何にせよ怖かったろうし寂しかったろう。俺はただ少女の背中を擦った。
「ジジイてめぇ、よく逃げのびたもんだなオイ。急がないと追っ手が来ちまうんじゃね?」
「……残念だが、スケルトンは全滅させてきたからお前の援軍はナシだぜ」
「は?」
なんとか起き上がりながらながらも、まだ俺を舐め腐ってるゼインの質問に答えてやった。ヤツは目を見開いて冷や汗をダラダラ流しまくり、
「う、嘘だろ? 百体はいたんだが――」
「だから全滅だって言ってんだろ」
「えぇっ……え……えぇっ!?」
百体か。確かに中々の量だったがそんなにいたかな。
しかしな、今の俺にそんなの考える余裕はない。今そこで驚いてやがるあいつを倒したい。それだけしか考えてらんねぇよ。
「プラム下がってろ。ちょっと荒っぽくいく」
「う、うん」
せっかく助かったのにまだ何か言いたげな態度のプラムだが、とにかく抱き着いたままは戦えねぇからな。いくらなんでもこれは下がってもらうしか――
「ねぇ」
後ろに下がったプラムはやっぱり何か要件があったようで、俺の袖を軽く引っ張る。「ん?」とできるだけ優しい声で応じて俯く少女の顔を見ると……赤くなってる?
「触られた」
「は?」
静かに放たれた一言から、嫌悪感を吐きそうなくらいに浴びた俺はプラムの仕草を見る。
自分の太ももを指でちょんちょん触っている。黒いタイツっぽいのに包まれた、その太もも――
「こんっのロリコンクソ野郎がああああああ」
こんなにも短い時間で――ゼインの本性、狙い、プラムにした事、プラムがされた事全てを理解して、怒りを叫びに表した。
「ち、違う! さっきのはただの出来心っつうか……触っただけでそれ以上の事は何も」
「いいか、今のお前には人権がねぇ。黙秘権だけしか持ってねぇんだお前は。言い訳無用だ、黙ってろ」
「ちょ待ってホント……ホントすいま」
「永遠に黙れ」
歯を食いしばり、地面を踏みしめながら、腰を抜かして座り込んでるゼインの目の前へ。
木製バットを静かに創造して、
「ぎゃああああああああああ―――――ッ!!!」
メッタ打ちにした。
間近で上がる男の情けない叫び声が、辺り一帯に響き渡ったのも気にせずに。




