#32 罠
「オラァッ!」
錆び付いて開かないのかもしれねぇと、何度も何度も門を蹴る。だがボロい門のくせに一ミリも動かん。
俺のパワーならこんなの容易に蹴破れるはず、おかしいと思い門をよく見てみると……なんだこりゃ……得体の知れない紫色の半透明の……膜? みたいなのがへばり付いてやがる。だが触ろうとしてもそれは気体っぽくて、触れなかった。
「ダーッハハハ、無様だな」
「あ?」
突然響く、低い声。男っぽくて野太い声。これまた聞き覚えがある。ゼインよりも強烈に記憶に残ってるが。
方向的にはこの門の向こう側って感じだ。
「スケルトンに囲まれたとわかればすぐに逃げて腰抜けを露呈し、門を蹴破れればまだ救いがあったのに魔法をかけられた門はびくともしねぇんだ……その上プラムも救えねぇし最高に無様だぜぇ、今のマコトは」
「なんで、俺とプラムの名前を知ってるんだ。それに、お前はどうしてここにいやがるんだ」
男らしい声に反して、長くねちっこく俺を罵倒する声。門の向こう側まで続く霧のせいで顔が見えないが、見当はあらかたついていた。
「――ブラッド」
俺に名前を言い当てられたブラッドは、霧を抜け出し門のすぐ側へ近寄る。ドレッドヘアに筋骨隆々の体。相変わらずワイルドな見た目で、相変わらず小物臭い中身。
「なぜ知ってるかって? そりゃあゼインから全部聞いたからさ。全部俺とあいつで立てた計画だ。あいつぁ、この偶然にも霧のかかった墓地へお前を誘導するってだけの役目だったが、プラムというお前の大切なお仲間を連れ去ってきた。まったくデキるやつだぜ、見た目とは裏腹にな。ダッハハハ」
「プラムは……あいつは無事なんだろうな」
「さぁな。ゼインに任せたから知らね」
ゼインの野郎、プラムから俺との関係とか聞き出してたのかな。あの子が俺にとってもう大切になってきている……のがバレちまったようだ。
だから……適当な答えで返してくるブラッドに。逆恨みもいいところな理由で俺の邪魔をするブラッドに。一度にとどまらず二度も俺の友人を危険な目に遭わせるブラッドに。
――怒りを感じた。
「お前ら、あの子を傷付けたら……殺す」
「おおこわいこわい。その能天気さがこわいぜマコト! この門は俺がかけた『闇の魔法』で開かねぇし、俺の召喚した大量のスケルトン共に囲まれて、絶体絶命なのはお前の方だってのによォ!!」
『闇の魔法』? 扉開かなくするとか、呪いみたいな魔法だな。俺魔法の仕組み全然知らんけど。
ってかこんな厳つい男が魔法なんか使える設定だったのかよ。ただのパワーバカにしか見えなかったんだがなぁ。
冗談はさておいて、状況を見れば確かにブラッドの言う通り。あいつが召喚したらしいスケルトンとかいう魔物、そして開かずの門に挟み撃ちされてる構図だよな。
――でも心配ご無用。
「俺もお前が怖いよブラッド。俺を怒らせたのにまだ笑ってられるその理解力の無さがよ」
「てめ……強がるのもいい加減にしろよ。お前たった今逃げ出そうとしてたんだろうが。俺を投げ飛ばしたのはマグレだったんだろ? 弱ぇくせに何を粋がってんだ!?」
「ほーう。俺を騙して閉じ込め、肝心の復讐は魔物に丸投げ。俺と正面からやり合いもしねぇザコ野郎に文句言われる筋合いは――あが」
額が門に触れるほど近づいてた俺は、逆ギレしたブラッドが向こう側から門を蹴ったことで、顔を蹴られた感じでダメージを受けて後退。
「黙ってろよジジイ。せいぜいスケルトンの攻撃を楽しめ」
「お前こそ楽しみに待ってやがれ。俺はまだ死なねぇ」
背を向けて去るブラッドにそんな返答を投げて、振り返り、霧の中に蠢くおびただしい数のスケルトンの影と相対した。
「そうだな、こっからが本当の大暴れかな?」
顎に手を当てて呟く。一刻も早くここから脱出して、プラムを助けねぇとならん。




