#31 東の墓地
東の墓地へ向かう、俺含めた少数の冒険者たち。戦闘に立つのはゼインと、そしてやけにゼインに気に入られちまったプラムだ。
正直、見た目も言動も荒くれ者でしかないゼインとあの子が二人きりって生きた心地がしねぇんだけど、プラムも楽しそうだし俺は遠くからそれを見守るだけだ。
「よし、もうすぐ着くぞお前ら。プラムちゃん疲れてねぇか? おんぶしようか」
「いらない」
即答のプラムだが表情は笑顔で、まんざらでもない感じか? ゼインに嫉妬するなんて大人な俺にはねぇけど、あいつら短時間でずいぶんと仲良くなったもんだな。
ゼインもそれほど悪い奴じゃねぇんだろうか。
「見えてきた」
ふいにゼインが呟く。俺もあいつと同じ方向を見る。
「なんだ? あの霧は……」
つい口に出ちまったのは、丸石の土台の上に鉄柵という上品な囲いが見えて、しかしその中が真っ白く濃い霧に包まれているからだ。ここが――
「確かにいつもと違って霧がかかってるが、この中が墓地さ。どこかに門があるから探すぞ」
霧に隠れた墓地ってゾッとするぜ。いつもは霧が出ていないような口ぶりだな。
それなら、迷子の女の子が入り込んだ後に霧が現れ、門を見失って外に出られなくなったってのも可能性ありだな。それにこの辺はちょっとした林みたいなのも多い。探す必要大いにありだ。
「ああ、門ってこれか」
鉄柵を適当につたってたら俺が見っけちまったぜ門。これまた高級感のある装飾……だがところどころ錆びたり汚れたりで、お世辞にも綺麗とは言えねぇ。
おお、割と普通に開く。とりあえず一歩だけ入ってみると、
「―――――あれ?」
門を探す間、すぐそばにいたはずのゼインとプラムがいない。いなくなってる。嘘だろ。
「おい、おーーーい!」
それどころか他に十人くらいいたガラの悪い冒険者達も全員いなくなっちまって、不安に駆られた俺はただ叫んだ。
あいつらも全員ずっと近くにいただろうが。一体何が起きてるってんだ。
「おいプラム、墓地の中か? 入っちまうぞ」
霧に包まれ、かろうじて一歩先が見える。そんな状態の墓地の内部へ入るのは嫌だったが、どこに進めばいいかわからんからとりあえず前進する。あいつらが無事でここにいるんなら、とにかく見つけねぇとだしな。
門で立ち止まってた俺は、静寂に支配される墓地へ踏み出す。孤独感に震えながら、他のみんなが危険な目に遭ってないことを祈るしかない無力な俺。
「誰かいるのか!?」
遠ざかったために門も見えなくなり、足元しか見えない本物の孤独状態に。そんな中俺が霧に問いを投げたのは、足音……みたいな音が聞こえたからだ。たぶん幻聴ではないと思うんだがなぁ。
「おい、だ、誰か―――ッ!?」
幻聴でないならこれはヤバイ状況だ。
なぜなら、四方八方から足音。そして足音といっしょに聞こえてくるのは、カラカラ……って骨の鳴るような音だ。
今俺を囲むように迫ってるのは人間じゃなさそうだぞ。おかしな音だけじゃなく、敵意を向けられてるのも感じる――その存在の名前は俺の予想が正しいなら、
「魔物か……!」
そう思ってたら、人型の影が目の前に現れる。なんだ、勘違いかよ。正解はただの人間でした――
「うおおおっ!?」
違う! 本当に骨だ! 歩く人骨だ!
霧から抜けて顔を出したのは人間の頭蓋骨。そして続いて霧から出てくる体も全部人間の骨格で、骨だけなのに普通に歩いて近づいてくる。極めつけは手に持った短剣。やべぇ、マジで魔物だった。
人影ならぬ骨影が次々と霧の中に黒く映る。待て待て……数が多すぎるし視界が悪すぎるだろこれは! こうなりゃ一旦プラムその他の無事を祈って戦略的撤退だ!
後方を振り向き、さっきの門を目指して走る。すぐに辿り着いてひと安心。門を力一杯開く。
――ひ、開く。
――開けって。
ガシャン。ガシャンガシャン。
「あッ開かねええええええええ」
霧だらけで骨だらけの墓地に、ひとり閉じ込められちまった。




