#30 緊急依頼・少女の捜索
赤髪をしたジャイロという名の青年は『騎士団の指導役』という立場のもと、騎士達と冒険者達を率いて壁外まで進んだ。少女一人のために、熱が入った捜索だ。
俺とプラムも他の冒険者達に混じって一緒に歩いてたが、周りを見るとアレだ。ガラの悪いやつらばかりだ。
何が言いたいかというと、ここにいる冒険者はブラッドの子分だけかもしれねぇ。後ろから刺されそうで怖いんだが。
「……んあ、オークか」
壁の内外を隔てる門のすぐ近く、騎士と冒険者を一箇所に集めてその前に立つジャイロだったが、彼は後ろから迫る一体のオークに気づくと背中のデカい剣を抜いた。
「ふん!」
彼が構えた剣は、なんと燃え始めた。燃える剣でオークを斜めにぶった斬り、一撃で終わらせて剣を鞘へと納める。
あれも魔法の類いか、それともそういう剣なのか。謎だ。
「よし。少女捜索にあたって何組かに振り分けよう。まず北の森は騎士団が――」
『北の森』ってワードは初耳な気がしたが、もしやと思いプラムの顔を見ると、
「なつかしー、北の森ってマコトと会ったとこだ!」
「やっぱそうなんだな」
確かにちゃんとした名前は知らなかった――昨日プラムと出会いオークと初戦闘して、今日ウェンディ同伴でゴブリン討伐もしたあの森だ。
今でこそ呑気に言い合える思い出だが、あの時の出会い方は俺にとっちゃ史上最悪のそれだ。おいおい、忘れんなよクソガキ。
あと懐かしいとは言うがアレ昨日の昼前とかだぞ。
「ジャイロさんよぉ、提案があるんだが」
俺とプラムが話してる間にも淡々と振り分けるジャイロに、少しねちっこく絡む男の声。どことなーく俺には聞き覚えがあるような。
「東の墓地は俺達冒険者だけで調べる。全体の半分くらいの冒険者で。あと半分は騎士達の方について行かすから」
「そうか、じゃあ頼む。ところであんたのランクは?」
その冒険者の男の提案を飲んだジャイロは、どストレートな質問を返していく。
「Dだ。俺が先頭に立って他のDやEを東の墓地へ連れてく」
『東の墓地』。また新たなステージが出てきやがったが、それよりやっぱり気になるのは今ジャイロと話してたあの男。
見覚えあると思ったらアイツは、ブラッドの子分の筆頭だ。俺がブラッドを背負い投げして失神させた直後に、俺にナイフを向けて怒ってた野郎。茶色いツンツンした髪型の、割と若い男。
さっきも思ったが、周りの冒険者もみんなガタイが良くてガラが悪い。ここにはブラッドの子分しかいねぇわ。確定だわ。肝心の兄貴はご不在のようだが。
何にせよ俺、あいつについて行くことになるのか。気まずいったらありゃしない。そんな気持ちをよそに、
「私達も東の墓地でいいの?」
「ん? あ、お、おう。俺の後ろについてきな」
プラム〜〜〜! お前話しかけてんじゃねぇよ、事情知らねぇだろうけどあいつガラ悪いだろうが怖がれ! こういう時こそガキらしく怖がってくれよ!
「……チッ、あんたもいたのかよジジイ」
「……おうよ。まぁこんな状況だ。お互いあの時のことは忘れて――」
「お兄さん強そうだけど、なんて名前?」
プラム〜〜〜!? お前これ険悪なムードだろ! でも緊急事態を言い訳に和解できるかもしれんだろ余計な口を――
「う、お、俺はゼインってんだ、かわいい譲ちゃん」
「ふーん。私プラム! こっちはマコト、よろしく」
あれ? さっきからこの男もといゼイン、変にプラムに弱くねぇか? 歳は二十代後半に見えるが。
ゼインはなぜか少女を見て呆然としながら、差し出されたプラムの手をやけにガッシリ握った後で俺を睨み、
「マコトってのか。お前この子の何だ?」
「その質問が何だよ……さしずめ見守り役ってとこだな。健全な関係だ」
「ああそうかよ。まぁいい。今回はこのかわいこちゃんに免じて殺さないでおいてやるよ」
「それはそれは、ありがたきお言葉――」
「だが兄貴に恥をかかせた罪は消えねぇぞ」
罪を犯そうとしたのは兄貴の方だろ、とゼインに反論したくてもそれは叶わなかった。
振り分けが終わったのかジャイロが再び話し始めたからだ。
「いいか、これは『緊急依頼』だ! 手遅れになれば少女の命が危ない。遊びじゃないから全員一瞬も気を抜くな。国民一人の損失も国にとっては大きな恥であり、決して小さな損失では済まねぇ!」
ジャイロはそう、やかましくも重々しく言った。聞いたゼインは振り向き、
「プラムちゃんにマコト、それとお前らもついてこい。東の墓地へ向かうぞ」
少女とおっさん、自分以外の子分達を雑に呼び、先陣切って歩き始めた。
行方不明の少女か……魔物にやられてなきゃいいが。あの母親のためにもプラムのためにも、なによりその子自身の命のために、精一杯取り組むとするか。




