#28 もう一つの目的
報酬を受け取った俺はギルドを出て青空の下、王都をゆっくり歩いていた。向かう先は魔術師団の敷地。
「プラムは今、部屋かな……」
目的はプラムと話すこと。ただ話したいだけじゃねぇぜ?
俺が仕事を探し、冒険者となった理由は、もちろん一人になっても生きていけるようにというのが主軸だ。しかし実はもう一つある。それはプラムが関係する理由だ。
▽▼▼▽
魔術師団の敷地、到着。鉄柵に囲まれてる。
昨夜はプラムがいたから開けられたが、俺一人の時は無理だ。仕方ねぇから鉄柵を登り、先端の尖りを避けつつ乗り越えた。
「クソ、出入りすら大変だ」
愚痴をこぼした俺だが、住まわせてもらってる分際で贅沢だよな。言った後に気づいた。
敷地内にはお屋敷のような『仕事場』、団員達の『寮』、そしてもう一つの施設がある。
魔法を練習するための『訓練場』。そんな大それたモノじゃねぇな。砂の地面に、三脚みたいなので的が設置されてるだけ……魔法が当たってもそうそう壊れないみたいだ、あの的もただの木製の的じゃねぇんだろう。まぁ詳細不明だが。
その訓練場に、金髪の少女が見えた。
「よう、こっち来てくれるか」
「は、はい、えっ? あっマコト?」
汗をかくほど魔法の訓練に集中してたプラムは、一瞬ものすごくテンパった。
見つかるわけにいかない俺の立場を知る少女はこちらへ近づくやいなや、
「もー、どこ行ってたんだよー! 起きたらいなくなっててびっくりしたんだよ!?」
「どこって……書き置きを――」
その先の言葉を断念。
確かに、近くにあった手頃な紙切れに『仕事を探してくる』と書いて、わかりやすい場所に置いた。だが俺が書いたのは日本語だ。
「書き置きってあの変な文字みたいな絵のこと!? あの画力じゃ何も伝わってこないよ!?」
絵だとよ。そう、起きたばかりの俺にはそんな考え無かった。日本語が通じないなんて前の世界でも経験無かったのかな。
冒険者ギルドの看板で初めて気づくとは、俺っていうのは俺自身が呆れるほど周りに興味が無いらしい。
そんなミスを犯し心配をかけてしまった俺は、
「……すまん」
としか言えなかった。
▽▼▼▽
庭園の端っこの木陰でプラムから軽く説教をくらうも耐え抜き(おっさんが説教されるのは精神にくるモノあるが)、ようやく俺が話す番。
冒険者がいいと思ったもう一つの理由だ。
「お前言ってたろ、『動かない的は退屈』とか。これは今やEランク冒険者である俺からのただの提案だが、俺が魔物討伐の依頼を受けて、お前と一緒にこなすってのはどうかと思ってな」
「親――じゃなくて保護者としてマコトがついてられるし、お金も稼げていいこと尽くしってこと? 確かにいいかも」
……今『親』っつったのか? いやいやただの言い間違いだろ……仮にもし言い間違いじゃなくてもそういう意味じゃねぇだろうし。
ってかEランク冒険者の職を得たのにスルーかよ。
「もちろんお前を連れてくってのは、ルークに許可取ってからのお話だが」
「うん。次勝手に脱走したら一週間外出禁止になっちゃうもん」
外出禁止か……定番のお仕置きだが、遊び盛りの子供にゃけっこう効くよな。
「マコト……私のことまで考えてたんだ」
「一応世話になってるしよ」
「ふ〜ん……」
体育座りしてる少女は真顔で何度も頷いてるが、何考えてんだかさっぱりだ俺には。
とにかく俺の提案は良いと思ってくれたようだし、ルークのとこに相談行くとするかな。




