#27 ゴブリン討伐③
森の中、俺達は襲い来るゴブリンを全滅させ一休みしていた。俺より先に動きだすウェンディは、死んだゴブリン達の緑色の耳を片っ端から切り落としていく。
「討伐した証拠だ。マコトはまだ休んでいていいぞ」
「……依頼では十体とかだったが、こりゃ五十はイッてるよな。報酬は増えるのか?」
報酬は確か『銅貨ニ十枚』とかなんとか。十体を超えるとそこは依頼の対象外になるのかなぁと思って聞いたが、
「さあ……それは依頼人の気分次第だろう。一応報告はしておくべきだが」
ゴブリンそれぞれの右耳をどんどん千切りながら答えるウェンディ。ははーん、牙だと一体につき何本も生えてるから証拠にならないってことで耳なのか。だったら別に鼻でもいいんじゃ――
「誰だ」
突然ウェンディが呟いた。彼女は剣を構えつつ周囲を見回すも、何もなかったご様子。
「どうかしたのか」
「いや、誰かに見られていたような気がしてな。勘違いだったようだが」
▽▼▼▽
尖った緑色の右耳が大量に入った袋を持つ女騎士、と少しだけ痛む腰を押さえて歩く俺。今は森を抜けて王都へ戻る最中だ。
よく耳持ってられるなホント……おえ。なんか世間話するか。
「ところでウェンディ。お前が言ってた『ジャイロ』ってのは何者なんだ?」
唐突に気になっただけだが、俺とやり合った時に彼女の口からこぼれるように出てきた言葉だな。
「ジャイロは……騎士団の指導役という立場だ」
「お前のことも指導を?」
「いいや、彼とはお互いに入団する前からの付き合いだ。私自身は指導役ではないものの、対等に会話をするような関係さ」
「へぇ……で、ライバル色が強いワケか」
俺と戦ってたあの時「ジャイロ以外に」と途切れてたが、その後に続く言葉は「負けるわけがない」とかそういうもんだったと推測。
「うむ……入団したての頃は強さに差が無く、完全にライバル関係にあった。しかし今、私は手も足も出ない。しょっちゅう決闘を申し込むが全く勝てなくなってしまってな」
「同じと思ってた人が自分より先に出世すると辛いだろうな、気持ちはわかる」
兄弟でもよくあるが、弟の方が勉強できたりスポーツが上手かったりモテてたりすると、兄の方は弟への愛情と「越された」という嫉妬に挟まれて、必要以上に辛くなるだろう。
たぶんな。そもそも俺に兄弟いたか知らねぇしな。てか話してる事から脱線してるなこれ。
「だがまさかジャイロ以外負け無しの私が、騎士でもない見ず知らずの一般人に負かされてしまうとは……ジャイロがこれを知ったら戦いたくてたまらなくなるだろうな! ははは」
「勘弁してくれ……」
仲が良さそうなのは良いが、俺が騎士トラウマになっちまうってば……
▽▼▼▽
時間は飛んで、ギルドに到着。
ブラッドと子分達の姿は見えず安心。俺達は受付へ行き、ウェンディは袋の口から大量の耳を覗かせながら、カウンターへ置く。
「えっ、すごい量……」
もちろん十体と思っていた受付嬢は驚く……というかドン引きじゃねぇかこれ。多いしグロいし当たり前だけど。
そこへ、何人かの中年の男達が寄ってくる。
「お、おいおいそりゃ全部ゴブリンのかよ。あんた達こんなに狩ってきたのか!?」
「襲われたんでな、余分に狩っちまった」
男達はかなり驚いた様子。だが誰かわからんぞ。聞こうとして口を開こうとするが、
「すみません、ご紹介まだでしたね。彼らは依頼人の木こりさん達です」
「そういうことか」
この討伐依頼の依頼人は確かに『木こり』だった。森での作業に支障が出るからって理由だったな。
十体くらいで良いってあの文章は、たぶん森をうろつくゴブリンの数を『十体とちょっと』くらいの数に思ってたんだろうがとんだ勘違いだ。もしあの量に普通の木こりが囲まれてたら、斧を持ってたってさすがに勝ち目は無かっただろう。報酬はどうするのか。
話を聞いてるとこいつらは今、偶然ギルドに寄ってただけらしいけど、イレギュラーな事態だしいてくれて良かった。
「俺達の認識が甘かったな……すまん、迷惑かけた。報酬は……そうだな、もっと……上げないとな」
すんげー言いづらそうに言うなオイ。ひょっとしてあんまり稼ぎ良くねぇのかな。
「ウェンディ、報酬は山分けする気だったか?」
「馬鹿を言え。これは貴様への償いだぞ? 全て貴様にやるつもりだった。故に金額にはこだわらん、私の働きなど考慮する必要はない――彼ら困っているようだしな」
おーおー誰にも気を使わせないように色々言ってくれたな。ウェンディも気づいてたのか、今の感じに。
「いいよ、報酬は最初ので。銅貨ニ十枚だったか」
「えっ!? 良いのか、あんたらを危険な目に遭わせたのに」
「命あったんだし、過ぎたことだし、そもそも失敗しない人間なんていないんだぜ……俺は特にミスする人の気持ちが人一倍わかるし」
「えっと、よくわからんがありがとう! 実はゴブリンのせいで最近ちょっと生活が苦しくてな。これでまた作業できる、本当ありがとうな!」
魔物に気をつけて頑張れ、と俺は手を振ってお別れ。報酬はもうギルドに預けてあるらしい。
俺の初報酬、約束の銅貨二十枚を受け取り、こっちを見ていたウェンディに顔を向ける。
「お前もそろそろ仕事か?」
「ああ、そうだな。さすがに戻らなくては」
「ありがとな。助かったよ」
「いいんだ、ただの償いだし――案外楽しかった」
ウェンディは一足先にギルドを出ていこうとするが、その直前に止まって振り返り、
「なぁ私達は『友』……かな?」
「それでいいんじゃねぇか? お前がそう思うなら、そうだろ」
「おお……では、またな」
互いに笑顔で手を振ってお別れ。正直『貴様』と呼ぶのはやめてほしいが、一緒にいると割と落ち着くウェンディ。彼女自身が基本的には落ち着いてるからだろうか。
最初に殺し合ったのが嘘みてぇ……ってこれもまだ今日の朝の話じゃねぇか! 俺もしかしてチョロい!?




