#26 ゴブリン討伐②
騎士ほど戦闘慣れしてないと言っても、さすがにここまで周りがザワつき始めれば――囲まれてると簡単にわかる。
そして、茂みが揺れる、正面、すぐそこで――
「グヤァッ」
「ふんぬぁ!!」
事前に生み出しておいたバールを振り下ろし、飛びかかってくるゴブリンの脳天をかち割る。ああ、ちょっと血ぃ出たわ。赤い。怖い。今、俺冷静だからまだまだ慣れない。あ、手震えてバール落としちまった。消えた。
だが敵は、魔物だわナイフ持ってるわで、容赦なく殺しにかかってくるはず。やらなきゃやられる。わかってるから戦うしかない。
「ギャアウ!」
「グエ!」
後ろからも二、三体分の断末魔。ウェンディが斬ったんだろう。彼女のビューティフォーな剣技ならもっと見たいが、背中を――命を預け合ってる。よそ見はできねぇ状況だ。
「マコト!」
「いでっ」
背中を預け合ってると(心で)言った直後、後ろから背中を蹴られた。俺の名を呼んだのもウェンディだし、蹴ったのもあいつだろ。
まさか俺を囮に!? って考えは、やっぱりくだらねえ妄想だとすぐにわかった。だって、
「ギャアッ」
真後ろでナイフが空を切ったから。ウェンディは空振りしたゴブリンの背中をなで斬り。
「蹴ってすまん。一体取り逃がした」
「わかってる」
「ッ、来るぞっ」
ちらりとウェンディへ振り返った俺の、そのほんの一瞬の隙を突いてゴブリン達が三体程一斉に飛びかかってくる。
「失礼なヤツらめ――うおおぉぉぉらああ!」
ちょっとイラついた俺はチェーンソーを生み出して全身全霊の力を込めて横振り。三体の腹や胸が乱雑に切り裂かれ、地面へ堕ちる。
かなり返り血が顔についたっぽい。誰かとってくれ。生温かくてきもちわりぃって。
「マコト。私はそろそろ、その曲芸の仕組みを知りたいのだが」
「そりゃ……俺が知りてぇっ……よぉ!」
襲い来るゴブリンを斬りながら普通のトーンで質問してくる、ぶっ飛んだ冷静さの女騎士。
一方俺はチェーンソー振り回しながら余裕無さそうな声になっちまう。キャリアの差か。
俺にも詳しくはわからない、『能力』って概念。自然とできちまうから他人に説明するのは苦労しそうだな。
ルークやプラムは「何の魔法?」と目を光らせ、ウェンディは「何の曲芸か」と呆れてる。
それもそのはず、恐らくバットやらチェーンソーやらはこの世界に存在しないだろうから。あいつらの視点に立ってみれば、俺はただ「得体の知れない物を、得体の知れない方法で生み出し、とにかく振り回してる謎のおっさん」にしか見えない。クソ怪しいなオイ。
「気配が消えつつある。あと数体倒せば終わりだろう」
「マジか。危ない時もあったが、ま、けっこう……余裕だったな……はぁ……はぁ……」
「言葉の割に息が上がってないか?」
「お前もこの歳になればわかるさ」
「……想像したくないものだ」
そうは言うが、無駄なこと考えたり、おしゃべりしてる間に、俺達を囲んでた無数のゴブリンが死体の山へ早変わりだ。
俺もまだ捨てたもんじゃねぇだろ。
「しかし、騎士団長様は貴様より年上だと思うが、人間離れした強さだぞ」
やっぱり俺は捨てたもんだ。




