#25 ゴブリン討伐①
「国民証にギルドカード、あそこでも使うのか……」
「門番が彼らで良かった……」
初依頼のゴブリン討伐のため森へと向かい、並んで歩く俺とウェンディ。そしてそれぞれが今、安堵していた。
理由は王都を出る時の出来事。もちろん、俺が昨日入ってきたあの門から出る。もちろん、そこには門番がいる。もちろん、門番も騎士団。つまり仕事をサボってる立場のウェンディにとってピンチだったワケだ。
しかし今日も門番はあいつら――レオンとアーノルドだった。
俺はまたガンつけられたが国民証とギルドカードを出して無言の論破。やっぱり証拠は大事だ。
一方のウェンディも元から二人を『物分かりがいい人』と分類していたようで、本当にちょっと話したらわかってくれたそうだ……嘘だろあいつら融通利くの? 信じられねぇんだけど。
「お、やっぱりな。ここ昨日の俺が目覚めたとこだ」
過去を振り返ってたら、いつの間にか森の前に着いた。
▽▼▼▽
このでかい木の根本(森は目と鼻の先)で俺は目覚めた。そして森の中でプラムと出会い、オークをブチのめした。まだ昨日のことなのに懐かしいのは気のせいか。
「えーと? ゴブリン十体程だったっけか」
「そうだな。どこから飛び出すかわからん、警戒しつつ進もう」
騎士様の言う通りに警戒しつつ森へと入っていく……ゴブリンの他にもオークとか、生意気な金髪の少女だって出没する可能性あるから気をつけないとな。
時々茂みがガサガサ言ったりするが、一向に何も現れない。ウェンディも腰の剣にまだ触れてさえいない。
と。
「静かに」
急にウェンディが剣に手を添え、同時に動きを止める。俺は彼女の言う通りにするだけ。動かず静かに。
彼女にはポンコツなイメージはあるものの、騎士であることに変わりはない。
俺は彼女より強いかもしれない。が、それはパワーに限る話。パワー以外は普通以下のおっさんでしかない俺は、危険な森において下手なマネはできない。
いくら《超人的な肉体》と言っても痛いモンは痛い。痛いのは普通に嫌だ。なるべく避けたい。当然だけどな。
「来る。マコト、今は動くな」
「ああ」
言われるがまま動かずいると、茂みをかき分けてこちらへ近づいてくる音。しかも速くて、音としては小さな体っぽい。ゴブリンってのは確か……小さかったかな。
さすがに『騎士』だな。気配を察知する能力はなかなか――
「ギャアッ」
うおお、出てきた! これがゴブリンか! 一瞬何かしようかと思ったが斜め前のウェンディの、ゴブリンへの鋭い視線が見えてやめておいた。
彼女は腰の剣を高速で引き抜いたその一太刀で、
「ギィヤァァッ!!」
緑色の小さな体を斬り裂き、赤い血が飛び散った。きもちわりい。でも太刀筋は美しい。
「フン、一体だとこんなものだ。楽勝だろう?」
「そりゃ一体ずつならなぁ……」
ウェンディのそれは、感情を押し殺せてないドヤ顔だ。その『気高き女騎士モード』久々に見たような。
動かなくなったゴブリンを観察、身長は俺の膝くらいまでしか無さそうだ。体は緑色、形は手足が短めの人間ってとこか。服はやっぱりボロいのを普通に着てて、手にはナイフ。殺意満々だ。
「あ」
突然、ウェンディが短く呟く。その褐色の肌に、微かに冷や汗が流れたように見えた。
俺達は自然な流れでお互いの背中を預け、囁くように話し始める。
「まずいな。大量に来るぞ。四方八方から、十なんて数では足りないほど」
「はぁ、どうしてこんな事に……クソめ」
彼女が、細身の剣を握る手をぐっと強めたのを見て、俺も愚痴を呟きつつ手に『バールのようなもの』を装備していた。




