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能力ガチャを引いたら、武器ガチャが出ました(笑)  作者: 通りすがりの医師
第二章 冒険者となり大暴れせよ
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#23 因縁と感謝

 ――正直、怖かったんだ。


 あいつが俺に迫った時は、逃げる事しか考えてなかったくらいだ。騎士であるウェンディだって何も行動を起こせていなかった……たぶん、あいつも内心は怖かったんだろう。

 彼女に拳が迫った時は、俺の体は容易く動いた。どうにもおかしい。ヒーローなんて性分じゃ、ねぇと思ってたんだが……


 ギルド内は、俺とブラッドが言い合ってた時よりいっそう静かだ。誰もかれも口が開けっぱなしだったり腰が抜けてたり、そんなリアクションばかり。


「いかん」


 そんな中で一番に言葉を発したのは俺だった。


「テーブル壊しちまった! すまん!」


 後ろを向き、受付嬢に頭を下げる。さっきの背負い投げで偶然テーブルが犠牲になっちまったから。どうしようか、金ないから弁償できんぞ。



「てんめェ、ふざけんのも大概にしろコラ!」


「ん?」



 受付嬢が口を開く前に、また後ろから声がかかる。振り向くと、またしてもガタイが良くてガラの悪い男がナイフを俺に向けてる。だが今失神してるブラッドに比べればなんてことない。


「さっきふざけたのはクソったれドレッドマッチョマンの方だろうが。あんたは誰だ?」


「あ? 俺らはブラッドさんの子分だジジイ」


「なるほど……仇討ちする気か」


 見れば、その男の後ろにもガタイ良い男がわんさか控えてる。まさかこいつら全員ブラッドの子分かよ。まだギルド内が静まり返ってるのも、これが原因かもしれんな。

 ……クソ。これ以上人間と戦いたくない。


「いいか。あいつは今どうなってる? お前らの、兄貴、だろ? それがこうなってんだ。兄貴以下の強さのやつらが俺にかかってきたところで結果は見えてないか? やめとこうぜ」


 とは言ったものの俺には結果なんて見えない。子分は何十人かいそうだしやり合ったら勝てるのかわからねぇ。こんな言葉でやつらに響くのか……


「チッ、親分の治療もある。今回は見逃す……行くぞ!」


 俺の前に来てた子分の筆頭(?)が、後ろの他の子分達に呼びかけた。やつらは失神中のブラッドを連れて全員ギルドから外へ出ていった――俺を睨みながら。

 ああ、良かった。今後が心配される終わり方ではあったが、ひとまずこの場はなんとかなった。


 安堵を隠しきれず長〜いため息を吐く。すると、


「「「うぉ〜〜〜!! すげぇ〜〜〜!!」」」


「「「ありがとぉおおぉぉ!!」」」


 一気にギルド内が歓声に包まれた。なんで? どういうことだ?


「テーブルの件はもう気にしないでください」


「え?」


 またまた後ろから声をかけられる。もちろん受付嬢だ。


「ブラッドさん――彼は自分の子分以外に乱暴を働く、いわゆる『厄介者』でした。しかしギルドとしては彼は強力な冒険者であり、貢献してくれてもいます。追放などできないわけで……放置していました」


 見渡してみれば、今はあまりガラの悪いやつらが見当たらない。どうやらほとんどの荒くれ者がブラッドの子分だったようだ。俺に向かって拍手し歓声を上げてるのは、さっきの血まみれの男を含めた若い連中や、女とかだった。


「投げ飛ばされるなど彼にとって新鮮な経験でしょう。ちょっとした戒めになったと思います、感謝いたします」


「おいおい、俺は人を投げ飛ばしただけだ……こんなのイジメと変わらん。感謝とかいらねぇって……」


 実際、傍から見たらいいことだったのかもしれんが、俺としてはただアイツを負かしただけ。感謝されるなんて居心地が悪い。


「……では、私も感謝してはいけないか?」

 

 申し訳なさそうに聞いてきたのは隣のウェンディ。


「いけないってことは無いが……」


「ありがとうマコト。あのままだったら命が無かったかもしれん。助かったよ」


 彼女は満面の笑みで言った。初めて見たな、こいつの笑顔。でもすぐ俯いて歯を食いしばり、


「本来は騎士である私が、国民である貴様を守る立場だというのに……情けない」


「は、気に病むことはねぇよ」


 初対面を思い返せば、お前は俺を殺しかけたんだからな。って心では愚痴を言ったりするが、本当はもう彼女に情が移っちまったし今更そんなのどうでもいいんだ。

 さて、


「テーブルの件も忘れるとして、その認定試験とやらを――」


「必要ないでしょう」


「は? 急にどうしてだ?」


 俺が聞くと受付嬢は軽く笑って、


「Bランク冒険者を投げ飛ばす一般人なんて前代未聞です。彼は本物の実力者ですよ? 特別に認定試験無しでEランク冒険者に登録いたします……本当は、あなたはもっと強いとは思いますが、ね」


「いいのか。ありがとう」


 確かに客観的に見るとあり得ない光景だな。只者じゃないのが素人目にもわかるブラッドを、無職のおっさんが背負い投げだ。

 それにしても優しいやつが多くて助かるなこの世界。ちょっと助かりすぎな気もするけど。


「はは、良かったなマコト。一応私も騎士団において名は知れた部類に入るから、『私を圧倒した』という話をして登録を手助けしようと思ってたが……その必要も無くなってしまったな」


 あ〜、そんなこと考えてついてきてたのか。受付嬢と知り合い……じゃなくて受付嬢やブラッドが一方的に知ってただけってことか。



 ……プライドや恥を捨ててまで俺を手伝おうとする?



 どいつもこいつも、赤の他人に優しすぎるぞ。俺とは大違いだ。

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