#21 冒険者ギルド
ポケットに手をつっこみ、口笛を吹きながら、俺は冒険者ギルドへと足を踏み入れる――寸前、
「ちょ、ちょっと待ってくれマコト!」
大恥かいた女騎士、ウェンディの焦った声に止められちまった。なんだよも〜ほっといてくんねぇかな。
「今ので私の罪は償われたと!?」
「そうだ。さっきのは忘れてやるから仕事戻れよ」
「ダメだ、貴様の命を奪おうとしたのだぞ!? これだけでは足りん――ギルドへ行く、ということは貴様は冒険者で、依頼を受けに来たのか。よし! この私も同行しよう!」
……そもそも依頼をこなす時に、国の機関である騎士団のヤツが仕事放っといてついてきて良いのかよって疑問はあるが、
「勝手な……決めるのは俺だろ? それに残念、俺はその登録をするために来たんだ」
「ならば登録を手伝おう!」
「……はいはい、降参だ」
しつこすぎ……両手を上げて渋々了承、俺は女騎士を伴ってギルドへ足を踏み入れることになっちまった。
▽▼▼▽
「ガラの悪いヤツが多いな……」
「そうかもしれん。冒険者は『自由が好きでかつ、腕っぷしに自信がある者』に適した仕事だ」
『冒険者』って、そもそも俺的にはゲームみたいな言葉にしか聞こえねぇよ。こんなのが仕事とは……う〜ん、ファンタジーだ。
ギルド内は、大きな広場のような空間にテーブルとイスが無造作にたくさん置かれてる感じ。で、端っこに『受付』らしきモノが見える。
そしてイスに腰掛けてる者の大半は、一言で表せば荒くれ者共、ってな具合か。みんな豪快に笑い合って、酒っぽいのをガブガブ飲んでるな。
「登録するには、あそこ行けばいいか?」
「うむ」
例の『受付』を指差すと、腕を組むウェンディが得意げに頷いた。どうして得意げなんだよ。
テーブルや冒険者達を避けつつ向かう。
「こんにちは! 何かご用ですか?」
近づくと受付の若い女がすぐ気づき、営業スマイル。
「どうも。冒険者の登録をしたい」
「マコト!? 仕事内容よく知らないんだろう!?」
「えっ、そうだが……」
「――悪い、この男はまだ何も知らないんだ。説明を頼む」
言われてみればルークから適当な説明を受けて以来まともな情報を得てない、仕事内容のこと。アレだけじゃ足りねぇの?
「あっ、ウェンディさん……わかりました。まず冒険者とは――依頼をこなし、ギルドへ報告し、依頼内容通りの報酬を得る仕事です。そしてギルドとは――冒険者と依頼人の間に入る、つまり仲介するための機関です。ちなみに依頼内容は、魔物の討伐や食材の採取など様々です」
依頼人←→ギルド←→冒険者。こんな関係ができあがってるワケか。ま、ここまではルークの説明から十分予想できた。
――あれ、受付嬢はウェンディと知り合いか?
「冒険者にはランクがあります。上からA、B、C、D、Eとなっていて、誰もがEランクから始めます。状況に応じてですが、通常は一定数の依頼をこなすとランクが上がりますね。ランクが上がれば難易度の高い依頼を受けられるようになったり、報酬が増えたりしますよ」
待て、何でアルファベットあんだ。この世界の字は読めなかったのに。聞き間違いかな……う〜ん……まぁ俺にとってはわかりやすいし、気にしたら負けってヤツだ。
「そしてあなたも言っていた、登録についてですが――認定試験が必要です」
「にんてい……しけん」
試験。マジか、そう簡単には登録させてくれねぇんだな。
「基本的には『闘技場』にて、Eランク冒険者でも倒せるような魔物と戦っていただき、強さを証明してもらいます」
「ほう、魔物と……」
闘技場ってのも王都内にあるのか。しかもそこで魔物飼ってるのか。うわ〜、遂にがっつり人前で戦闘ってことかよ。
「ああ、その必要はないぞ受付嬢。なぜなら――」
待ってましたとばかりに隣のウェンディが口を開くも……理由を言おうとした瞬間、
「ダーッハハハ、ま〜た変なのいるぜおい〜……」
大柄で、筋骨隆々の男。ガラの悪いメンツの並ぶこのギルドで、俺が密かに「一番やばそう」と思っていた男。
その男が俺を後ろから指差し、不敵な笑みを浮かべていた――




