#20 朝からガチバトル
ところどころで聞き込みをしつつ、朝の王都をぶらぶら。
何を聞いたか? もちろん『冒険者ギルド』の場所さ。合計で七人くらいには聞いたかな、ようやっと結果に結び付いた。
……と、言っても俺の前に豪快な(?)雰囲気の木造の建物がそびえ立っているだけだがな。ただの建物にしちゃあ存在感があるし、何よりデカイ。
……あ、またもやここで問題発生だ。
「なんて……書いてあんだ……」
ドアが無い入り口。その上にある看板を見ても、文字が読めない。
『冒険者ギルド』とでも書いてあるのか? 建物はいかにもそれっぽいし、住民達から聞き込んで辿り着いたんだしこれっぽい。しかし名前が読めないから確証がない。これは困った――
「怪しい者め、覚悟ッッ!!」
「は!?」
困っている俺は、背後からの殺気立った声に体を震わせた直後、気づけば横に跳んでいた。何かから逃げるみたいに。
というか、見えない何かに突き飛ばされたような感覚?
空中で自分が元いた場所を見る――上から下へと振られる、きらめく刃。あそこにいたら、死んでたな。
ひょっとして《超人的な肉体》が助けてくれたのか……いや、ただの能力がそんなワケねぇ……よな?
とにかく着地して、その剣の持ち主を拝見。
「――フン、なかなかの反射神経。それだけは認めよう」
女だ。それも若い女。歳は二十代前半に見えるな、ミーナと同じくらいか。んで紫色の髪をポニーテールにしてる。肌はちょっと褐色じみて、声はドスが聞いてる感じに低くて、目つきは鋭い。第一印象としてはクールで男っぽい――
「クソ、また『騎士』か。トラウマになりそうだ」
女騎士。だが昨日の門番レオンやアーノルドと違い、頭には何も装備していない。当然、頭以外は鉄の鎧だ。
どうにも騎士共とはいつも対立してんだよなぁ。馬が合わん。
「何をほざいている――フン、貴様は帝国の諜報員だろう?」
「あのな、もっと頭使えよ。スパイがこんな朝っぱらから王都のど真ん中うろうろするか? それに、俺は、帝国なぞ知らん!」
騎士さん、ちょっと頭が弱そうだな。前述の門番然り。てか、また出たよ『帝国』。知らねぇっつってんのに。
「どちらにせよその服装……怪しい者に変わりはない。貴様が国の危険となる前に、排除する!!」
「おい、少しは話を――うわっ」
女は俺に向かって容赦なく剣を振るう。間一髪で避けるも、女のその太刀筋に遠慮なんて言葉は無い。だったら、
「後悔すんじゃねぇぞ」
震える手を押さえて、俺は言葉だけで凄んだ。
「後悔など、私の辞書には無い!」
また、俺に向かって横に剣を振るおうとする。こうなりゃ、俺だって剣で対抗だ。剣よ、出ろ。
「んん!?」
とりあえずは受け止めたが――俺の手にあって、刃を受けたそれは、
「椅子?? 貴様、今何をした!」
木製の椅子。なぜだ、俺がご指名したのは剣なのに、どうして椅子が出てきた。防げたから結果オーライだが……
どうやらこの能力、『ハズレ』の概念がありそうだ。
「オラよ!」
「……!」
しゃーない。俺はそのまま椅子をブンブンと何度も振り回し、あわよくば女に叩きつけようとする。しかし扱いづらいしリーチも短く、一度も当たることは無かった。
「この……曲芸はそこまでだ!」
女は俺がふざけてると思ったのかイラついてる。感情に任せて放たれた彼女の剣は、俺の唯一の武器を一刀両断。
要するに椅子が真っ二つに斬られちまった。
「クソ、剣か何か出ろよ、頼むからよぉ!」
「椅子さえなければ丸腰のようだな、終わりだ!」
今度は縦振りの刃が飛んで来る。俺は手に力を集中させた。ここで『ハズレ』たら、さすがに終わっちまう。が……
「―――――どういうことだっ!!」
「どうやら俺は……まだ終わらねぇようだな」
両手で握って攻撃を受け止めたそれは、今度こそ剣だった。そのまま女の刃、俺の刃で鍔迫り合いになる。
「何だ……その……怪力は……」
「言っただろ……『後悔すんな』って……よぉッ!」
パワー勝負になれば浮き彫りになる、圧倒的な格差。その格差の上にいる俺は、溢れ出る力のままに女を剣ごと吹き飛ばした。
女は空中で一回転、ふわっと地面に着地。そして俺を睨み、
「あり得ない……この私が……ジャイロ以外に!」
プライドの高そうな女騎士はよくわからんことを言いながら、どこか焦った表情で、今までとは比べ物にならない速度で間合いを詰めて来る。
その時、俺は気づいた。
「ああ、今こそアレじゃねぇか」
椅子やら剣やら出さなくても一発で解決できる最高のアイテムを、俺は持っていると。
「見ろ。国民斬るのかよ、騎士ってのは」
「うっ!?」
女が自分の勢いに急ブレーキ。
俺が剣を捨てて見せつけたのは、そう。さっきルークから貰った国民証だ。これを見せれば国民だと思われる上、帝国の者でないという根拠にもなり、騎士と敵対しなくて済むワケだ。
俺自身殺されかけて熱くなっちまって、これの存在を思い出せなかった。情けねぇ。
「嘘だろ……嘘、じゃ、ないだと? な、なんだ。国民だったのか……し、失礼した……すまない、命を奪おうとしてしまって……」
「まったくだ。俺だったから良かったが、今度からは先に頭冷やせよ」
「はい……」
剣を鞘に納め、俯いた女は子犬のように震え始める。罪悪感と後悔でいっぱいなのは理解できる。でも悪いのどう考えてもお前だからなぁ……
「でもまぁ、お前もかわいそうなやつだ。今回だけは許す。マコトだ、よろしく」
「は、はい……私はウェンディ。騎士団に所属している」
自分の大失態に赤面する女騎士――ウェンディ。俺が握手を求めると、弱々しく握り返してくれた。
う〜ん、しかし殺されかけた・殺しかけたのにただ許して和解ってのはお互いに良くないか。じゃ、
「許す代わりに、一つ」
「な、なんだ? なんでも言ってくれ。この報い、どんなことだろうと私は――」
「アレ何て読む?」
「え? 『冒険者ギルド』……だが……」
「そうかやっぱりアレか。ありがとな」
「え??」
俺が木造建築の入り口の看板を指差すと、ウェンディが答えたのは俺の望み通りの言葉。
正直こんなところで油を売ってる暇は無いと思い、ただウェンディを利用して状況を前に進めたつもりだったんだが……彼女は俺の頼みが予想外だったのか、ポカンと口を開けていた。




